その他個人の相談
法律相談の活用術
弁護士 吉川 哲治
1 はじめに
広告で頻繁に見かける『気軽にご相談下さい』『何でもご相談下さい』というフレーズは、私たち 弁護士も普段からよく使っています。
しかし、弁護士が「気軽に」「何でも」と言っても、それを文字通りに受け取って下さる方は余りいないようです。
弁護士に相談することについて、多くの方が持っているイメージは、「どれだけ費用がかかるか分からない」、「こんなことを相談して失礼にならないか?」、「どんな場合に相談すれば良いか分からない」、といったものではないでしょうか。
そこでこの記事では、これらの疑問に出来るだけ丁寧にお答えするとともに、法律相談の活用術についてもご紹介したいと思います。
2 費用について
まず、法律相談の費用は事務所によってまちまちで、一番多いパターンは30分で5000円(+消費税)でしょう。初回相談は無料とか、特定の種類の相談については無料としている事務所も多いです(当事務所も、債務整理についての初回相談は無料としています)。
もっとも、多くの方が「どれだけ費用がかかるか分からない」と心配しているのは、法律相談に行くと、そのまま事件を依頼することになり、弁護士費用として何十万円も払うことになるのではないか?という点だと思います。
この点についてお答えすると、①法律相談と事件の依頼は別、②弁護士費用は事前にきちんと説明される、③事件を依頼するかどうかは相談者の自由、となります。
もう少し詳しく説明しましょう。
① 法律相談と事件の依頼は別
そもそも、全ての法律相談案件が弁護士に依頼しないと解決しないということはありません。弁護士の回答を聞いただけで解決する場合もあれば、相談の結果、相談者の方の希望を実現することは困難であることが判明する場合もありますし、弁護士とは別の専門家(税理士、社労士、等々)に相談した方がよいということが判明する場合もあります。
そして、相談の結果、弁護士に依頼しないと解決が難しそうだということが判明した場合でも、よほど急ぎの事情でもない限り、弁護士がその場で依頼を受けることは原則としてありません。依頼に当たって必要となる資料等をご準備いただき、後日に改めて委任契約を結ぶということがほとんどです。
従って、『法律相談に行くとそのまま事件を依頼することになる』ということは、原則としてありません。
② 弁護士費用は事前にきちんと説明される
当事務所もそうですが、ホームページを開設している法律事務所は、ホームページ内で弁護士費用がどれくらいかかるかを説明していることが多いです。まずはホームページを見ていただければ、おおよその弁護士費用の目安は分かると思います。
その上で、事件の受任に当たっては、弁護士はきちんと弁護士費用を説明しなければならないとされています。着手金と報酬金の基本的な説明から始まり、それらとは別に日当などの追加費用が発生するのはどのような場合か、事件の解決が長引いた場合に途中で追加の費用が発生することになるのかどうか、どちらかの都合で事件を途中で辞任する場合の弁護士費用の精算はどうなるのかまで、少しでも分からないことがあれば、遠慮なく弁護士に聞いてください。そして、弁護士から曖昧な回答しか返ってこなかった場合は、そのような弁護士に依頼するのは止めた方が良いです。
従って、『どれだけ費用がかかるか分からない状態で弁護士に依頼する』ということは通常は起こりえませんし、そのような状態で契約させられそうになった場合は、勇気を持って断り、別の弁護士を探して下さい。
③ 事件を依頼するかどうかは相談者の自由
弁護士に依頼しないと解決が難しそうな案件で、弁護士費用も事前にきちんと説明されていても、弁護士に依頼するかどうかは最終的には相談者の方の自由です。
例えば、希望どおりに案件が解決したとしても、それによって得られる利益が弁護士費用と同じくらいなら、手元には何も残らないことになってしまいます。また、裁判で勝訴して、相手方に弁護士費用を大幅に上回る支払いを命じる判決が得られたとしても、相手方に支払い能力がない場合は、勝訴判決も絵に描いた餅になってしまい、弁護士費用の分だけこちらが損をしてしまいます。
このような最終的な結果まで見通した上で、弁護士に依頼するかどうかを決めていただくことになります。
3 法律相談をするのはどんな時?
この質問に端的に答えるなら、「いつでも」となります。更に言えば、「なるべく早く」です。
もう少し詳しく説明しますと、例えば、何かしらの体の不調があったときは、大抵の人はとりあえず病院に行くと思います。そして、診断の結果、何らかの処置をされて終わる場合もあれば、より大きな病院を紹介される場合もあるでしょう。場合によっては大きな病気が早期発見され、手遅れにならずに済んだということがあるかも知れません。
上記の話は法律相談にも当てはまります。医学的なものを除いて、およそ世の中のあらゆるトラブルは法律相談の対象となり得ますし、相談が早ければ早いほどトラブルを解決できる可能性は高まります。場合によってはトラブルを未然に防ぐこともできます。早めの相談は、プラスになることはあっても、マイナスにはなりません。
他方で、相談してみたら、弁護士に相談するようなことではないことが判明したり、ネットで調べれば直ぐに答えが見つかるような相談だったりすることもあるでしょう。しかし、そのような場合でも、安堵する弁護士がほとんどで、怒り出すような弁護士は滅多にいません。
弁護士が一番困るのは、相談に来た時点で手遅れになってしまっていることです。もっと早ければ解決できたのに手遅れになってしまっている場合、そのことをお伝えする時の雰囲気というのは、経験豊富な弁護士でもやり切れないものがあります。
従って、何かしらのトラブルに遭遇して、自分では解決が難しそうと思った場合は、なるべく早く法律相談にお越し下さい。
4 法律相談の活用術あれこれ
ここからは、私自身も時々おすすめしている、様々な法律相談の活用術についてご説明していきます。法律相談というのは、一定の料金を支払ってその弁護士の時間を買うようなものですから、やり方次第では様々なことが出来るのです。
① 自力でやっている調停や裁判の手助けをしてもらう
費用の関係で、調停や裁判の代理人を弁護士に依頼することは出来ないけれど、どうしても調停や裁判はやりたい or やらざるを得ないという場合もあります。
そのような時に、法律相談の時間内で、訴状や準備書面などの書面を作成する手助けをしてもらったり、前回期日でのやりとりを踏まえての次回期日に向けた準備について助言をしてもらったりすることで、自力で調停や訴訟を進めていくという方法があります。
調停や裁判というのは、おおよそ1ヶ月から1ヶ月半ごとに1回というペースで開かれますので、期日の合間に適切な法的アドバイスを受けることで、知らない間に損をしていたということが防げるのです。
② 様々な通知書の作成を手伝ってもらう
法律相談の結果、トラブルの相手方に対して何らかの通知書を送りたいという場面は往々にして起こり得ます。
しかし、その通知書を弁護士に作成してもらうとなると、3~5万円の費用がかかってしまいますし、弁護士名で書面を作成してもらい、その後の交渉まで依頼するとなると、少なくとも10万円の費用がかかってしまいますので、費用対効果で諦めるという方も多いと思います。
そこで、まずは自分で通知書を作成し、それを法律相談の時間内で弁護士に添削してもらった上で、自分の名前で通知書を出すという方法があります。
こうすることで、法律的に間違いのない通知書を送れますし、相手方の反応次第では、そのままトラブルが解決するという場合もあります。つまり、法律相談費用の負担だけで、弁護士に依頼した場合と同じような結果が得られる可能性があるのです。
③ 将来に向けた証拠の集め方を助言してもらう
裁判や調停などの法的手続きにおいて、自分の主張を裁判所に認めさせるには、必ず証拠が必要となります。そして、証拠というのは、書類や録音・録画などの客観的なものであればあるほど、裁判所に認めてもらいやすくなります。
しかし、法的紛争が勃発してから証拠を集めようとしても、相手方によって証拠を隠されたりしますので、客観的な証拠を集めることは非常に困難です。
そこで、将来的に紛争が勃発することに備えて、早い段階から証拠の集め方を弁護士に具体的に助言してもらうという方法があります。
弁護士というのは、それまでの事件の経験から、どこにどのような証拠があるか、どういう証拠が有効か、どうやって証拠を集めるかについて、多くの知見を持っています。また、証拠の集め方についても、どこまでは許されて、どこまでは許されないか、きちんと見極めることが出来ます。
弁護士の助言に従い、効果的に客観的証拠を集めることで、紛争が現実に勃発した場合に有利に法的手続きを進めることが出来るようになるのです。
5 まとめ
今回は、法律相談について、皆さんに知っておいていただきたいことを記事にしました。この記事を読んで頂き、弁護士に法律相談することのハードルが少しでも下がれば幸いです。
この記事の担当者
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