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郵便貯金の権利消滅とは?

弁護士 金井 英人

 最近、報道などで郵便貯金の権利が消滅するという話題が出ています。これは一体どういうことなのか、整理してみたいと思います。

 総務省によりますと、郵政民営化前の2007(平成19)年9月30日までに預け入れられた定額郵便貯金・定期郵便貯金・積立郵便貯金・住宅積立郵便貯金・教育積立郵便貯金について、権利消滅の可能性があります。権利消滅までの流れは次のとおりです。

①満期日の翌日から10年間、払戻し請求をしていないと、満期後10年目に「満期日経過のご案内」が郵送される。

②満期日の翌日から20年間払戻しなどの取扱いがない場合、「権利消滅のご案内(催告書)」という書面が郵送される。

③「権利消滅のご案内(催告書)」の送付日から2ヶ月以内に払い戻しの手続をしない。

④自動的に権利が消滅する。

 つまり、預けていた郵便貯金が時間の経過によって消えて無くなってしまうということです。郵政民営化前の定額郵便貯金などは、現時点では全て満期を迎えていますので、2007年9月30日以前に預けた貯金は全て消滅の可能性があるということです。

 どうしてこんなことになってしまうのかと言うと、その原因は「郵便貯金法」という法律の中にあります。

郵便貯金法29条

第40条の2第1項の規定(10年間預入、払戻し等のない通常郵便貯金の取扱い)により貯金の預入又は一部払戻しの取扱いをしないこととされた通常郵便貯金について、その後10年間その貯金の全部払戻しの請求がない場合において、公社がその預金者に対し貯金の処分をすべき旨を催告し、その催告を発した日から2月以内になお貯金の処分の請求がないときは、その貯金に関する預金者の権利は、消滅する。

 この郵便貯金法は、現在の郵便貯金には適用がありませんが、郵政民営化前の郵便貯金には今でも効力があるのです。

 そこで、「権利消滅のご案内(催告書)」が届いていなければまだ大丈夫なのかというと、そうではありません。通常郵便貯金規定14条では、届出のあった氏名、住所に宛てて送付書類を発送すれば、それが到達しなかったときでも通常到達すべき時に到達したものとみなすということにされており、転居などで住所が変わっていて催告書が実際に届かなくても、届いたことにされている可能性があります。

 このため、「知らないうちに権利消滅していた。」ということが起こります。

 では、満期後20年と2ヶ月が経ってしまったら、もうどうすることもできないのでしょうか?

 例外としては、満期後20年2ヶ月の間に通帳の再交付の請求や住所の移転の届け出などの手続をしている場合には、場合によって20年2ヶ月経過後も支払いを受けられる場合があるとされています。

 また、過去に郵便局局員から間違った説明を受けていて、届出ができなかったために権利消滅してしまったというケースで、例外的に権利消滅が否定された事例もあるようです(名古屋地方裁判所平成20年9月5日判決)。

 ただ、いずれも特殊なケースですので、実際に20年2ヶ月経過後に権利消滅を免れるのは難しいといわざるを得ないでしょう。

 郵便貯金の権利消滅額は2021年だけでも457億円と、毎年巨額の貯金が権利消滅しています。その妥当性については今後議論を呼ぶ可能性がないとはいえませんが、現時点では、とにかく権利消滅にならないように、昔預けた定額郵便貯金などがなかったか、早めに確認をしておくことが重要です。

 ところで、今金融機関に預けている預金には権利消滅のような制度はあるのでしょうか?

 実は、金融機関に預けている預金の債権は、5年で「消滅時効」にかかります(信用金庫・信用組合は10年)。

 5年間、預けたり引き出したりしないで放置していると、消滅時効にかかってしまうのです。

 ただ、時効は郵便貯金の権利消滅とは違い、自動的に消滅はせず、金融機関側が消滅時効を「援用」つまり時効にかかっていることを主張しない限り、消滅はしません。

 このため、実際には金融機関が預金の消滅時効を「援用」することはあまりありません。

 かといって、預金を放っておいてよいかというと、「休眠預金」「休眠口座」という制度もあり、長年取引をしていない口座については、金融機関によっては預金から管理費が引き落とされるようになったり、10年間取引をしないと、公益のために一旦運用されたりもします。 もっとも、引き出しができなくなってしまうわけではありませんので、権利消滅はしませんが、いずれにしても預金を長年放置しておくことは、権利が消えてしまうリスクがありますので、日頃から注意をしておく必要があります。

この記事の担当者

金井 英人
金井 英人
法曹を志してから弁護士になるまで、人よりだいぶ長い時間がかかってしまいました。私の二十代は挫折の繰り返しでしたが、そうした中で感じた不安や心細さ等の経験を、少しでも皆様の安心のために役立てることができればと思います。

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