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不動産登記法の改正

弁護士 酒井 寛

1 はじめに

 不動産を所有する両親が死亡し、相続が発生しても、①相続人のうち誰がこの不動産を取得するかがなかなか決まらない、②有効に利用できず、買い手もなかなか見つからないような不動産であるにもかかわらず、登記のための費用がかかるなどの様々な理由により、その不動産の相続登記がなされないまま放置されることがあります。
 登記はされていなくても相続人やその他の近しい親族等が真実の所有者を知っているような状態であるうちは良いのですが、未登記のまま相続が繰り返された結果、「所有者不明の不動産」になってしまう場合もあります。
 そのような不動産が増えると、公共事業や復旧・復興事業が円滑に進まなかったり、民間取引が阻害されるなど、土地の利活用が阻害されてしまいます。
 また、そのような所有者不明な不動産については十分な管理がなされず、放置されていることが多いため、隣接する土地や地域住民への悪影響が発生する等の事態が想定されます。
 そのような事態を可能な限り防ぐため、相続登記の申請が義務化されました(2024年4月1日から施行)。

2 相続登記の申請の義務化と相続人申告登記

(1) 相続登記の申請の義務化の内容は、
 ① 不動産を取得した相続人に対し、その取得を知った日から3年以内に相続登記の申請
  をすることを義務づける(改正不動産登記法第76条の2)
 ② 正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処することと
  する(改正不動産登記法第164条第1項)。
  というものです。
↓ ただし
(2) 相続人申告登記(改正不動産登記法第76条の3)
   相続発生後は、遺産分割がなければ全ての相続人が法定相続分の割合で
  不動産を取得(共有)した状態になります。
   現行法でもこの共有状態をそのまま登記に反映する方法(法定相続分での
相続登記)がありますが、法定相続人の範囲と法定相続分の割合の確定が必要であるため、被相続人の出生から死亡に至るまでのすべての戸籍謄本などの書類を収集する必要があり、大変が手間がかかる場合が多いです。
↓ そこで
 ① 不動産の所有名義人について相続が開始したこと(死亡したこと)
 ② 自分がその相続人である旨を(1)で述べた登記申請義務期間である3年以内に登記官
  に対して申し出ることで(1)の登記申請義務を履行したものとみなす
  という仕組みが相続人申告登記制度です。
 この相続人申告登記がなされると、登記官の審査を経た上で、申出をした相続人の氏名・住所等が登記に付記されることになります。
 この相続人申告登記は、
ア 相続人が複数存在する場合でも特定の相続人が単独ですることができ、
イ 必要な書類は、申出をする人が不動産の所有名義人の相続人であること 
が分かる戸籍謄本のみを提出すれば足りるため、資料収集などの負担が大幅に軽減されます。

3 その後に遺産分割がなされたら

 遺産分割がなされる前に法定相続分での相続登記または2(2)の相続人申告登記をしたとしても、その後に遺産分割が成立した場合には、以下のように、その内容を踏まえた登記申請をすることも義務づけられています(改正不動産登記法第76条の2第2項、76条の3第4項等)。
(1) 3年以内に遺産分割が成立しなかったケース
 ① まずは、3年以内に法定相続分での相続登記または2(2)の相続人申告 登記を行う。
 ② その後に遺産分割が成立したら、遺産分割成立日から3年以内に、その内容を踏まえた相続登記の申請を行う。
 ③ その後に遺産分割が成立しなければ、それ以上の登記申請は義務づけられない。
(2) 3年以内に遺産分割が成立したケース
 ① 3年以内に遺産分割の内容を踏まえた相続登記の申請が可能であれば、
   これを行えば足りる。
 ② それが難しい場合等においては、3年以内に法定相続分での相続登記または2(2)の相
     続人申告登記を行った上で、遺産分割成立日から3年以内に、その内容を踏まえた相続
     登記の申請を行う。

4 遺言書があった場合

 遺言によって不動産を取得した相続人が取得を知った日から3年以内に遺言の内容を踏まえた登記の申請、または2(2)の相続人申告登記を行う必要があります。

5 住所変更登記等の申請の義務化


  所有者自体に変更があったわけではなくても、登記に記載されている所有者の住所に変
 更があった場合、
 ① 住所等の変更日から2年以内にその変更登記の申請をすることを義務づける(改正不
  動産登記法第76条の5)
 ② 「正当の理由」がないのに申請を怠った場合には、5万円以下の過料に処される(改
  正不動産登記法第164条第2項)
 ことになります。
  ただし、手続の簡便化のために、登記官が他の公的機関から取得した情報に基づき、
 自ら変更登記をする新たな方策も導入されました(改正不動産登記法第76条の6)

6 今回の改正においては、他にも、被相続人登記名義の不動産を把握しやすくすること
 で、相続登記の申請にあたっての負担を軽減するために、被相続人が所有権の登記名義
 人として記録されている不動産を一覧的にリスト化し、証明する制度(改正不動産登記法
 第119条の2)なども設けられました。
  このような登記の問題も含めて、不動産の相続についてお困り事がありましたら、ぜ
 ひ、弁護士に相談をしてみてください。

参照:法務省民事局ホームページ

以上

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