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成年後見制度って何?

弁護士 加 藤 美 代

1 はじめに

 成年後見制度は、認知症、知的障害、精神上の障害、その他様々な理由で財産の管理又は日常生活等に判断能力を欠き、もしくは、不十分な人の行為を法律上制限して、自由競争から保護し支援する制度です。(民法7条、成年後見制度の利用の促進に関する法律(以下、法とします)1条)
 成年後見制度で守られる人を判断能力の程度に応じて成年被後見人、被保佐人、被補助人と言います。
 成年後見制度は、成年被後見人の財産を守るだけではなく、成年被後見人の自己決定を尊重し、成年被後見人の意思決定を支援し、障害がある人でも家庭や地域において特別視せずに、自立したごくごく通常の生活を保障されるべき事及び成年被後見人が人間らしい生活を送れるよう、生活の質も支援するという身上保護が適切に図られることが求められます。(法3条)

2 成年後見制度の概要

(1)行為を法律上制限する制限行為能力とされる人は、未成年、被補助人、被保佐人、成年被後見人等が保護対象となります。

3 成年後見制度の各論

(1)成年後見、保佐そして補助はどう違いますか


 ア 成年後見とは

 精神上の障害等により事理を弁識する能力をかく常況にある者いいかえれば判断能力が欠けているのが通常の状態の人を援助します。たとえば、重度の認知症(要介護度4、5程度で財産管理ができない等)の者があたります。援助する人を成年後見人、される人を成年被後見人と言います。


 イ 保佐とは

 精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者いいかえれば判断能力が著しく不十分な人を援助します。たとえば、中程度の認知症(日常の買い物程度は一人でできるけど、重要な財産行為は自分で適切に行うことが出来ず、常に他人の援助を受ける必要があり、事柄によっては正しく判断できるものもあるが、そうでない事柄もある等)の者があたります。援助する人を補佐人、される人を被保佐人と言います。


 ウ 補助とは

 意思能力を欠いてはいないけど精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な人を援助します。たとえば、軽度の認知症(一人暮らしはできるけれども、高度な判断を要する取引社会においては、消費者被害に遭いやすくアドバイスを受けた方がよい等)の者があたります。援助する人を補助人、される人を被補助人と言います。


(2)成年後見、保佐そして補助はどうやってきめるのですか


 本人、配偶者、四親等内の親族等の申立により、家庭裁判所が、医師の診断書に書かれている認知症や精神病などの程度によって判断します。
 家庭裁判所の判断する際に必要に応じて、医師の鑑定や家庭裁判所の調査官による調査が行われます。


(3)どんな人が成年後見人、保佐人、補助人になれるのですか

 欠格事由がない限り誰でもなれます。複数でも,法人でもなれます。ちなみに任意後見人も同じです。


 では、欠格事由のある人とはどんな人でしょう。

 次の人があたります。
 ・未成年者
 ・家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人、補助人
 ・破産者
 ・後見人に対して訴訟をし、または、訴訟をした者、その配偶者及び直系血族
 ・行方の知れない者
 今は、弁護士や司法書士(リストがあります)が選ばれる割合が多くなっています。

(4)成年後見人らの報酬
  

 家庭裁判所が決定し、成年被後見人の財産の中から支払われます。保佐人、補助人の報酬も同じです。

(5)成年後見の職務と範囲

 成年後見人は、成年被後見人の代理権及び取消権を付与されます。
  成年後見人は、成年被後見人の財産調査をし、目録を作成します。そして、毎年支出すべき金額を予定します。
 成年後見人は、善良な管理者の注意(善管注意義務)をもって事務を行い、被後見人の意思を尊重しかつその心身の状態及び生活の状況に配慮して事務を行います(身上配慮義務)。
 具体的に考えてみましょう

ア 成年後見人には、日常生活行為(例)その日のおかずを買う。)を除く全ての行為について代理権があり、取消権があります。そして、この代理権や取消権を使って、成年被後見人の財産管理や身上監護をします。

イ 財産管理

印鑑、預貯金通帳の管理
 収支の管理
 ・預貯金の管理
 ・年金・給料の受け取り
 ・公共料金の支払い
 ・税金の支払い
不動産の管理
 賃貸不動産の管理
 不動産の処分
 動産の管理

ウ 身上監護

 成年被後見人の生活や健康に配慮し、安心した生活が送れるように契約などをします。ただし、成年後見人は法律行為(契約など)のみを行い、成年被後見人に対し、直接介護や看護などをするわけではありません。
例えば
 成年被後見人が住んでいるマンションの家賃の支払いや、契約の更新
 成年被後見人が入居する老人ホームなどの介護施設の入居契約などの 各種手続 や費用の支払い
 病院にかかる際の各種手続
 障害福祉サービスの利用手続
 介護認定に関する手続き
  

エ 成年後見人の仕事ではないこと

・実際に介護や家事を行うこと
・入院や施設への入所の際に、保証人になること
・手術など医療に関する同意をすること
・養子縁組、認知、結婚、離婚などの身分行為をすること
・遺言、臓器提供、延命治療など、成年被後見人の意思に基づくことが必要な行為(あるいはその決定)をすること
・成年被後見人の死後の葬祭、埋葬、家財の整理など死後の手続をすること
  

オ 成年後見人がやってはいけないこと

・成年後見人の預金の流用すること。
・成年後見人と成年被後見人との利益が相反する行為  

(6)保佐人の効果と職務

 保佐人は、被保佐人に対し、同意権及び取消権を付与され、あるいは特定の法律行為につき、被保佐人に代理権を付与されます。
 保佐人は、後見人同様、善管注意義務と身上配慮義務をおいます。
 被保佐人が保佐人の同意がないまま行った行為は、取り消すことができます。
 保佐人が必ず同意を要する被保佐人の行為の種類には次の行為があります。
  ① 他人に自分の財産を貸して収益を取得する場合の元本を領収又は利用
  ② 消費貸借の借り入れや債務保証等
  ③ 不動産などの重要な財産の売買・担保権設定、賃貸借等
  ④ 離婚などの身分に関する者を除く提訴、訴訟遂行、訴えの取下、和解、請求の放棄等の訴訟行為
  ⑤ 贈与や和解等
  ⑥ 相続の承認、放棄又は遺産分割
  ⑦ 贈与の申し込みを拒絶、遺贈を放棄、負担付贈与の申込みを承諾、又は負担付遺贈を承認
  ⑧ 新築、改築、増築、又は大修繕
  ⑨ 次の短期賃貸借期間を超える賃貸借
   ・樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃貸借 10年
   ・前号に掲げる賃貸借以外の土地の賃貸借 5年
   ・建物の賃貸借 3年
   ・動産の賃貸借 6ヶ月

(7)補助人の効果と職務

 補助人は、被補助人の一定の行為について同意権及び取消権を持ち、あるいは被補助人の法律行為につき代理権を持ちます。

 補助人は、後見人同様、善管注意義務と身上配慮義務を負います。
 被補助人が補助人の同意がないまま行った行為は、取り消すことができます。
 補助人が同意を要する被補助人の行為の種類には次の行為があります。
 ① 他人に自分の財産を貸して収益を取得する場合の元本を領収又は利用
 ② 消費貸借の借り入れや債務保証等
 ③ 不動産等の重要な財産の売買・担保権設定、賃貸借等
 ④ 離婚など身分に関する訴訟を除く提訴、訴訟遂行、訴えの取下、和解、請求の放棄等の訴訟行為
 ⑤ 贈与や和解等
 ⑥ 相続の承認、放棄又は遺産分割
 ⑦贈与の申し込みを拒絶、遺贈を放棄、負担付贈与の申込みを承諾、又は負担付遺贈を承認
 ⑧新築、改築、増築、又は大修繕

4 任意後見制度・・・認知症になる前に備える制度


(1)任意後見制度とは

 被保護者が財産の管理又は日常生活等に判断能力を欠く前に、自らの財産管理・身上監護のあり方について自己の意思を明示しておき、判断能力を欠く状態の発生後は、保護者がこの事前の指示に基づいて活動を遂行するという後見形態をいいます。


(2)任意後見は、被保護者と保護者との間で任意後見契約を締結します。任意後見契約書を公正証書により、登記されます。
 任意後見は、被保護者の判断能力が低下したときに、裁判所によって後見監督人が選任されることによって、効力が発生します。
 任意後見人は、善管注意義務、身上配慮義務を負います。


(3)任意後見人の効果と職務

 任意後見人は、任意被後見人の代理権及び取消権を付与されます。
  任意後見人は、任意被後見人の財産調査をし、目録を作成します。そして、毎年支出すべき金額を予定します。
 任意後見人は、善良な管理者の注意(善管注意義務)をもって事務を行い、任意被後見人の意思を尊重しかつその心身の状態及び生活の状況に配慮して事務を行います(身上配慮義務)。
 任意後見人の職務は、任意被後見人との任意後見契約によって、その範囲が定まります。ただ、任意被後見人が判断能力を欠いた状態であることに鑑みると、任意被後見人の自立した通常の生活が保証されるように、成年後見人同様日常生活行為を除く全ての行為について代理権が認められるように範囲を定めます。


(4)任意後見人の報酬

 任意後見契約によって報酬額が定められ、任意被後見人の財産の中から支払われます。

5 最後に


 成年後見の利用は、判断能力のない人の行為を制限して、保護し支援する事を目的とします。そのため、裁判所による後見人等の選任後も、裁判所に対する報告するなど、本人保護のために注意を要します。具体的に成年後見等を必要とされるときは,是非、弁護士にご相談下さい。


以上

この記事の担当者

加藤 美代
加藤 美代
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