その他

政治と宗教の関係を考える

弁護士 吉川哲治

1 はじめに

 今年7月8日の安倍元首相銃撃事件は日本中に衝撃を与えましたが、その後は、犯人である山上容疑者の犯行動機にまつわって、旧統一協会と政治家との関係へと世間の関心は動いているようです。
 そして、当初は「ある宗教団体」などと言葉を濁していたマスコミも、連日のようにワイドショーなどで取り上げるようになっており(マスコミによってかなりの濃淡はありますが)、その中で、自民党や日本維新の会の国会議員が、旧統一協会と関係を持つことの何が問題なのかという開き直りを見せ、それに対して大批判が巻き起こるなどの状況も生まれています。
 もっとも、SNSでの言説を見渡すと、特に政教分離原則についての不十分な理解の下で議論が交わされる結果、議論が混迷している状況も見受けられます。
 そこで、今回のブログ記事では、政教分離原則について簡単に解説した上で、明るみになった旧統一協会と政治家との関係は何が問題なのかについて述べさせていただきます。


2 政教分離原則とは

 政教分離原則を一言で言い表すと、「国家と宗教は切り離して考えるべき」ということです。もっとも、国家が宗教と一切の関わり合いを持たないということは不可能ですから、どこまでならOKで、どこまでならOUTか、という線引きをする必要があり、これについては有名な判例がたくさん出ています。ただ、この線引きについて解説することは今回の記事の主眼ではありませんので、別の機会に譲りたいと思います。
 さて、この政教分離原則で注意が必要なのは、「国家と宗教」の関係について規律しているだけで、「政治と宗教」の関係について規律したものではないということです。「政」「教」分離という言葉からは、いかにも「政治と宗教の分離」を謳っているように読めますが、政教分離の「政」とは「政府」のことを指しているとおぼえておけば、誤解することはなくなるでしょう。
 それでは、実際に日本国憲法の条文で確認してみましょう。政教分離原則に関する条文は以下のとおりです(関係する部分に下線を引いてあります)。


第20条 

 信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
② 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
③ 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。


第89条 

 公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。


 読めばお分かりいただけると思いますが、憲法が禁止しているのは、国家権力が特定の宗教団体を優遇することや、宗教的活動をすることで、政治家個人が特定の宗教団体と関係を持つことや宗教的活動をすること自体については、直接的には規定していません(だからと言って、政治家や政党が無限定に特定の宗教団体と関係を持つことが許容されるという訳ではありません。特に、首相や閣僚などは権力の座にあるわけですから、特定の宗教団体の行事に公的立場で参加すること(例:靖国神社公式参拝など)は、政教分離原則に反する可能性が高く、憲法違反を主張する裁判も起こされ、一部の裁判所では違法との判断も出されています。ただ、この点も本記事の主題とは外れるので、別の機会に譲りたいと思います)。


3 政治と宗教の関係について

 こうして見ると、今回の旧統一協会と政治家との関係を問題視するに当たり、政教分離原則違反だという批判の仕方は的外れと言えるでしょう。選挙協力して貰った見返りに、旧統一協会に対して政府与党が特別の便宜を図っていたなら(例:旧統一協会が主催するイベントに国が協賛して公金を支出していた)、政教分離原則に真っ向から反することになりますが、少なくとも現時点においては表面化はしていません。
 このことは、宗教団体を旧統一協会以外の宗教団体に置き換えてみればよく分かるはずです。仏教系、キリスト教系、神道系のさまざまな宗教団体が国政選挙の際に政党を支持・応援する様子は普通に目にしますが、これらの活動によって、特定の宗教団体の教義や目的の達成を政治の側が実現するように動くような事態にならない限り、それ自体が政教分離原則違反だと評価されることにはならないでしょう。
 もちろん、政治と宗教が過度に結びつくことは、政治の公平性を歪めるおそれがありますから、その関係は謙抑的であるべきですし、政教分離原則が日本国憲法に盛り込まれるに至った経緯(大日本帝国憲法の下で、天皇制権力が国家神道を作って国教としての特権的地位を与え、「神国日本」の名で軍国主義をあおったという政教一致への反省)からすれば、政治家が国家神道の象徴であった靖国神社へ参拝することなどは厳しく批判されるべきでしょう。
 しかし、今問題となっている旧統一協会と政治家との癒着ぶりを批判するに当たり、政教分離原則を持ち出しても、直ちにこの問題の本質に迫ることにはならず、かえって「政教分離には反していない」などという言い逃れを許してしまう可能性もあります。


4 旧統一協会との関係は何が問題なのか?

 それでは、今回の問題の本質は何でしょうか?
 それは、旧統一協会が、いわゆる霊感商法などを駆使して信者から多額の金銭を巻き上げるという違法行為を組織的に繰り返してきた反社会的組織であり、そのような反社組織から選挙応援などの恩恵を受け続けてきた見返りとして、安倍元首相を含む多くの政治家が旧統一協会が主催するイベントに賛同するメッセージを送り続けるなどして、旧統一協会による違法行為を黙認・助長し、さらに言えば「広告塔」になってきた結果、数十年にわたって霊感商法などの被害が続いてきてしまったということです。
 つまり、旧統一協会は、「有名な政治家が関わっているから信用できる組織だ。」という宣伝を行い、これを見た人々が旧統一協会を「まともな団体なのだろう。」と信じてしまい、多額の献金などに追い込まれていくという関係にあったのではないでしょうか。
 そして、旧統一協会が、自民党などの政治家の応援をする最大の動機は、「集票で政治家に恩を売って、広告塔になることを承諾させる。」というところにあるのではないでしょうか。この観点で様々な政治家の発言を検証すれば、それがいかに問題かというのはお分かりいただけるでしょう。
 この間の霊感商法被害対策弁護団等の長年に渡る頑張りにより、旧統一協会による違法行為が裁判所によって断罪された例は枚挙にいとまがありません。今こそ全ての政治家は、旧統一協会という反社会的組織ときっぱり手を切り、被害者の救済のためにあらゆる手を尽くすべきです。 

以上

この記事の担当者

吉川 哲治
吉川 哲治
常に依頼者の目線に立ち、依頼者にとって最善の解決方法を探ります。

【相談無料】法律のことについて、身近に相談できる人はいますか? 名古屋法律事務所では、弁護士による無料法律相談会を毎月実施しています。詳しくはこちら

名古屋法律事務所への法律相談・お問い合わせは

名古屋駅052-451-7746 みなと事務所052-659-7020  みどり事務所052-629-0070

受付時間:月〜金 9:00~17:30 土曜日・夜間の相談ご予約OK

相談予約・お問い合わせ