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再審法の改正を求めます

弁護士 酒井 寛

再審法の改正を求めます

1 本年6月22日、鹿児島地方裁判所が、「大崎事件」の第4次再審請求を棄却する決定をしました。
 大崎事件とは、1979年、鹿児島県大崎町で、男性が堆肥の中から遺体で発見された事件です。近親者の犯行として原口アヤ子さんが殺人と死体遺棄容疑で起訴されたことをはじめ、そのほか親族3人が殺人や死体遺棄容疑で起訴されました。しかし、原口さんは一貫してこれを否認しています。原口さんについては、3度も再審開始を決定する判断が出ているのに、未だに殺人犯の汚名を晴らすことができていません。
 この原因の一つに現在の再審法の問題があると思います。

 以下、そもそも、再審制度とはどのようなものか、そして、現在の再審制度にどのような問題点があって、どのような改正がなされるべきかについてお話しします。

2 再審とは?
皆様ご存知の通り、日本の裁判制度は、三審制を採っており、第1審(通常は地方裁判所)、第2審(控訴審:通常は高等裁判所)、第3審(上告審:通常は最高裁判所)のすべての裁判所の判断を受けて有罪が確定した事件については、もはや、争うことができないのが原則です。
  しかし、無辜(罪の無いこと=えん罪)の救済のために、例外的に確定した裁判をやり直す制度が再審です。
 
3 再審が認められる場合は?
 ⑴ 再審が認められる場合については、刑事訴訟法(435条)で定められており、以下のようなことが列挙されています。
① もとの裁判で証拠となった証拠物や証拠書類などが、偽造(新たなもの を作り出すこと)または変造(内容を変更すること)されたものであった とき
② もとの裁判で証拠となった証言や鑑定などが、虚偽であったとき
③ もとの裁判で有罪判決を受けた者を誣告(わざとに事実と異なる内容
 で、人を訴えること)した罪が別の刑事裁判で確定したとき
④ もとの裁判の証拠となった別の事件の裁判の内容が変更されたとき
⑤ 特許権などを侵害した罪の事件について、別の裁判で、そもそも、その特許権などが無効だと確定したとき
⑥  もとの裁判で有罪の言渡を受けた者に対して無罪を言い渡すべき明らかな証拠をあらたに発見したとき(有罪判決を受けた者にとって利益となる、明らかな証拠があらたに発見されたとき)。
⑦ もとの裁判で証拠となった証拠書類の作成に関与した裁判官、検察官、
 警察官などが、その事件について職務上の罪を犯したとき

 ⑵ このうちでもっとも問題となることが多いのは、⑥の”もとの裁判で有罪
判決を受けた者にとって利益となる、明らかな証拠があらたに発見されたとき”にあたるかどうかです。
 では、”有罪判決を受けた人にとって利益となる、明らかな証拠”とはどのような証拠なのでしょうか?
 この点については、白鳥事件という有名な事件の最高裁判所決定において、”もとの裁判の事実認定について、合理的な疑いを抱かせる証拠で足りる”と判断されています。
 つまり、”もとの裁判が疑わしい”と思える程度の証拠で良いのであり、”無罪を証明する証拠”である必要はないということです。
 また、上記白鳥事件の最高裁決定は、総論で再審を言い渡すべき場合になる判断基準として①新証拠と旧証拠を総合評価すること、②その際、「疑わしきは」原則が適用されるべきとの判断を示しています。 つまり、まず、「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」だけで無罪にならなくても、有罪となった裁判で使われた証拠のなかに、今回見つかった新しい証拠があったと仮定したら、有罪を言い渡すことはなかったと考えられること、その判断については、「無罪を完全に立証する」必要はなく、確定判決を覆すべきかを検討する再審においても、普通の刑事裁判と同じように「疑わしきは被告人の利益に」の原則が適用されることを明らかにしたのです。
4 現在の再審法の問題点
 ⑴ 現在の再審法には、以下のような大きな問題点があると言われています。
  ① 証拠を捜査機関(検察官や警察官)が独占し、十分に開示(弁護人側に見せる)をさせるための規定がないこと
  ② せっかく再審が開始されても、再び検察官が蒸し返して、高等裁判所や最高裁判所に対して何度も 不服申立できること
  ③ 再審の裁判において、どういうルールの下で審理すべきかの規定がないに等しいこと

 ⑵ 証拠を開示させるための規定がないことについて
  ア 証拠を開示することの重要性
 たとえば、松橋事件という事件においては、再審請求前に検察官から開示された証拠物(自白によれば「凶器に巻き付けて犯行に使用した後、燃やして捨てた」とされたはずのシャツの左袖が実際にはあったこと)が再審開始決定の決め手となりました。
  イ 再審での証拠開示
    しかし、再審においては、証拠の開示に関するルールはなく、裁判官の判断に委ねられています。
    これでは、真実の解明に熱心な裁判所とそうでない裁判所で大きな差が生じてしまいます。
 このことを称して、再審格差などとも言われています。
     
 ⑶ 検察官が不服申立てできること
ア 冒頭で述べた大崎事件は、これまで3度にわたって再審の開始が認められました。
 1つの再審を勝ち取るまでに、何年もの膨大な時間と労力をつぎ込んで再審を勝ち取ったのです。
 しかし、その都度、検察官が不服申立をすることによって、再審が取り消されてしまいました。
 それが3度も続いたのです。
イ 前にも述べたように、再審が認められるためには、合理的な疑いを抱かせる証拠があれば良いのです。
 再審が認められたことにより、もとの裁判に合理的な疑いが生じたのは明らかなのですから、検察官に不服申立を認めさせるのは不合理です。すなわち、そもそも「針の穴を通すより難しい。」とされる再審の扉がようやく開かれたということは、再審申立人側の多大な努力により、それまでの裁判における誤りが重大であったことが明らかになったことを意味します。そうであるにもかかわらず、もともと間違った起訴をした可能性が大きく、かつ証拠も人材も豊富な検察の側に、再審決定を覆すための機会を無制限に与えることは、あまりにも被告人側にとって酷であり、正義に反するからです。

 ⑷ どういうルールの下で審理すべきかの規定がないに等しい
  ア 再審の裁判においては、
    ① 必要があるときは裁判官に事実の取り調べ(証拠物の取り調べや証人尋問など)をさせることができる(やらなくても良い)。
    ② 再審の請求について決定する場合には、再審請求者及び相手方(検察官)の意見を聴かなければならない(取り敢えず、意見を聴けば良
い)。
    というルールくらいしかありません。
  イ そのため、裁判官、検察官、弁護人の三者間での協議を一切行わない、
弁護人が申し出た事実の取調べを一切しない等、しっかりと役割を果たさない裁判所が余りにも多いというのが現実です。

5 どのように改正すべきか
 ⑴ 証拠の開示について
  ① 検察官に対し、持っている証拠の一覧表の作成と提出を義務づける
  ② 裁判官が、検察官に対して、一定の証拠の開示を命令できる
   なのルールを策定すべきです。
 ⑵ 検察官が不服申立てできることについて
   再審開始決定に対する検察官の不服申立は禁止すべきです。
 ⑶ 審理のルールについて
 再審請求人、弁護人に裁判所に対して事実や証拠の取り調べをすることを求める権利を保障すべきです。
 また、弁護人に裁判官、検察官、弁護人の三者での協議を求める権利を保障すべきです。

6 おわりに
 そもそも、えん罪の被害者を生み出すこと自体が許されないことですが、もし、えん罪が生じてしまったら、ただちに、その被害から解放される手段が確保されるべきです。
 しかし、これまでに見てきたように、残念ながら、現在の再審法は、かかる手段としてはきわめて不十分なものと言わざるを得ません。
 ですので、一刻も早く、これまでに述べてきたような再審法の改正が実現すること、そして、1つでも多くの「無辜の救済」が実現することを望みます。

この記事の担当者

酒井 寛
酒井 寛
依頼者や相談者の方々から良く「話しやすい」と言っていただくことがあります。今後も、依頼者や相談者の方々のお話にじっくりと耳を傾けることができる弁護士であり続けたいと思っております。

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