刑事・少年事件

名張毒ぶどう酒事件 第10次再審請求異議審 ~結論ありきの不当決定~

<事件概要>

<事件概要>
1961年3月28日夜,三重県名張市葛尾の公民館で,生活改善クラブの総会後の宴会で振る舞われたぶどう酒に混入されていた農薬による中毒により,ぶどう酒を飲んだ女性17名のうち5名が死亡し,12名が入院した事件。
 ぶどう酒を会長宅から公民館へ運んだ奥西勝さんが犯人として逮捕された。第一審では無罪だったが,控訴審で逆転有罪死刑判決となる。
 勝さんは死刑確定後も無罪を訴えていたが,2015年に獄中死したため,妹の岡美代子さんが遺志を継いで闘っている。

<本文>

2022年3月3日,名古屋高等裁判所刑事第2部は,第10次再審請求異議申立て(異議審)を棄却する不当決定(本決定)をしました。僅か33頁の決定文に対し,弁護団は約280頁にもわたる特別抗告申立書を提出し,闘いの場は最高裁判所第3小法廷へと移りました。
当審で提出された主要な新証拠の一部とそれに対する裁判所の判断を報告します。

ことごとく否定された新証拠

まず,封緘紙の裏面の付着物についての鑑定(糊鑑定)は,未開栓の偽装工作を裏付けるものです。毒物混入のために開栓した後に封緘紙を貼り直した場合,「封緘紙の落下場所が犯行場所」とはいえなくなり,確定判決に重大な疑いが生じます。しかしながら,本決定は,弁護団が求める鑑定人の尋問等を行わない一方で,素人的判断で随所に「説明されていない」を繰り返し,鑑定書等の信用性を完全否定しました。
次に,当審では過去に検察が「存在しない」と報告していた供述調書9通が開示されました。うち3通は,「宴会準備時点でぶどう酒瓶に封緘紙が巻かれていた」という内容の供述です。糊鑑定で明らかになった未開栓の偽装工作がなされたことと矛盾なく説明でき,他方で,毒物混入時に封緘紙が外れて落ちたとする勝さんの自白や確定判決と矛盾するのです。そのような重要な意味を持つ証拠に対し,本決定は,封緘紙の有無は「一般的に関心をもって観察すべき対象ではない」として信用性を限定(ほぼ否定)しました。
さらに,開示証拠には,ぶどう酒が「油臭い」「石油臭い」という供述もありました。他方で,ニッカリンTを入れたぶどう酒とぶどう酒のみを比較して「臭気に変化なし」とする証拠があります。これらによると,通常のぶどう酒を飲んだことのある人が本当にニッカリンT入りのぶどう酒を飲んだのであれば、異口同音に「石油臭い」「油臭い」と違和感を覚えるとは考えられません。従って、この事実から混入された毒物がニッカリンTではないと考えるのが合理的です。この点,本決定は,「臭いの感じ方には個人差がある」「口に含んで感じる臭いと鼻で感じる臭いには差がある」「油臭い,石油臭いがどのような臭いを感じてそのように表現したか明らかではない」などと判断し,異口同音に訴えられた違和感を一般論で一蹴してしまいました。

弁護団は再審を求め特別抗告へ

再審請求にも「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則は適用されます。そして,再審請求が認められる要件である「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」とは,もし当該証拠が「確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていたとするならば,はたしてその確定判決においてなされたような事実認定に達したであろうか」(=合理的な疑いが生じていないか)という観点から新旧全証拠を総合的に判断すべきとするのが最高裁判例です。
以上の考え方を前提とすると、今回提出した新証拠が当時の控訴審に提出されていた場合,はたして勝さんは有罪になるでしょうか。
 本決定は、最高裁判例の判断基準を全く無視し、新証拠の持つ意味をことさら無視した結論ありきの不合理な判断であると言わざるをえません。

この記事の担当者

中川 亜美
中川 亜美
名張毒ぶどう酒事件をきっかけに弁護士を目指し、これまで多くの方々の力添えがあってこそ、この職に就くことができました。人権が蔑ろにされない健やかな社会を目指して日々精進してまいります。
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