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民事裁判のIT化
1 改正民事訴訟法の成立
5月18日、民事裁判をIT化するための改正民事訴訟法案が参議院で可決され、成立しました。裁判というと、法廷に出て裁判官の前で訴えを述べるといったイメージがありますが、IT化されると何がどう変わるのでしょうか。パソコンやインターネットに詳しくないと訴訟を起こすのが難しくなってしまうのでしょうか。
2 これまではどうなっていたか
実は、これまでも民事裁判の手続でも、代理人弁護士が付いている場合には裁判所に出頭しなくとも、代理人の事務所などで電話会議を使って手続を進めるという方法がとられてきました。そうした方法を利用することで、遠方の裁判所にわざわざ出向いたりしなくても裁判や調停に参加することができるというメリットがあります。
今回の改正は、さらに進んで民事裁判をIT化しようというものです。その具体的な変化は、2019年頃から少しずつ進められています。
例えば、一部の裁判所では、ウェブ会議による裁判手続が可能となり、当事者それぞれの代理人弁護士の事務所と、裁判所をインターネットのTV電話で繋いで、顔を見ながら協議をしたりすることができるようになっています。このウェブ会議は、コロナ禍もあいまって、急速に利用されるようになっていきました。
3 民事裁判のIT化とは
つまり、これまでは「裁判所に行かなくても裁判手続を進められる」という変化でしたが、これからは書面の提出もインターネットを用いて行うようになっていきます。
訴訟手続に沿って順を追って見ていくと、まず訴えを起こすために訴状を提出する方法も、現在は紙に印刷した訴状や、印刷した証拠(書証)を裁判所に持参するか郵送する方法を採っていますが、これがインターネット上で書面や証拠のデータを裁判所に提出する方法で訴訟を起こすことが可能になっていきます。
また、訴状や判決を裁判所から被告などの相手方に送る方法(送達といいます。)についても、これまでは原則「特別送達」という特殊な郵便で行っていましたが、受け取りに時間がかかったり、費用がかかったりというデメリットがありました。
この点、裁判所から被告に通知をして、被告はインターネット上で訴状などの書面のデータをダウンロードする方法に変わっていきます。
その後の手続は、現在利用されているようなウェブ会議が利用され、お互いが提出する書面はインターネット上でやり取りすることになります。
さらには、証人尋問などもテレビ会議で行うことができるようにしていくとのことです。
そして、判決もインターネット上にアップロードされ、これをダウンロードして閲覧する方法になっていきます。
4 便利さのメリットがある一方で
このような変化により、当事者は膨大な書面(場合によっては旅行鞄でも収まらないこともあります)を持ち歩いたり、遠方の裁判所まで出向いたりということが不要になり、時間や費用が大幅に節約されるようになることが期待できます。また、離婚調停などでは、DV事件など、相手と会うことが避けられるべき事件の手続も安全に行うことができるようになります。
改正法に基づいて、こうしたIT化を段階的に行っていくことになります。最近は裁判所から書面をインターネット上にアップロードするように指示を受けたりするようになりました。まずは弁護士などの士業者はITによる訴訟手続をすることが義務化され、最終的には2025年度を目標に、完全IT化を目指すようです。
ですが、便利さの一方で、様々な不安もあります。例えば、ITに詳しくない人は裁判を受けられなくなるのではないかということが危惧されます。
日本国憲法では、何人にも裁判を受ける権利を保障していますので、IT化をしてもITに詳しくない人を補助する体勢は整えられるようです。ですが、ITに詳しいかどうかということが、訴訟での力量差に直結してしまう可能性はあり得ます。
このことは弁護士にとっても例外ではなく、今後は法律事務所にITの施設を充実させることが求められ、システムやソフトウェアを使いこなしたり、効率よくデータを獲得したり、作成したりする能力が問われてくると思われます。
また、インターネットを通じた不祥事が社会問題になる中、極めてデリケートな裁判に関する資料をインターネット上で管理するということにも、セキュリティやプライバシーの面から不安や課題があります。
便利さを追求するあまり、これまで守られてきた大切な権利が疎かになってしまうことのないよう、慎重な変化が求められるところです。
この記事の担当者

- 法曹を志してから弁護士になるまで、人よりだいぶ長い時間がかかってしまいました。私の二十代は挫折の繰り返しでしたが、そうした中で感じた不安や心細さ等の経験を、少しでも皆様の安心のために役立てることができればと思います。
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