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愛知県知事リコール問題

弁護士 加藤美代 

2020年8月25日から10月25日頃まで行われた愛知県知事のリコール運動は、約43万票の署名を愛知県選挙委員会に提出しました。リコールに必要な有権者の3分の1の約86万5400人に遠く及びませんでした。
 通常、署名の真偽は、リコールが成立しないときに調査されることはありません。ところが、今回は、選挙委員会に内部告発が多く寄せられた結果、約43万票の署名の真偽が確認されました。その結果、署名の83.2%に不正が疑われ、約36万2000票が有効と認められませんでした。


 その後、次々に驚くべきことが報道されています。人材紹介会社を通じて佐賀県でアルバイトが集められ、組織的に署名が偽造されていたこと、同一人の拇印が多数認められたこと、他のリコールのために集められた署名が流出し偽造署名のデータとして使用されていたこと、署名集めを担う「受任者」までもが偽造されていたことなどです。また資金面でもクラウドファンディングで4000万円ものお金が集められたにもかかわらず使途が不明なことが挙げられています。あまりにも大胆な署名偽造に鑑みると、そもそも愛知県知事のリコール運動を成立させる意図はなかったと考えざるをえません。


 知事は、住民自治を実現するために住民の直接選挙によって選ばれます(憲法92条、93条)。住民の直接選挙によって選ばれる知事は、住民に直接責任を負っていることからリコールの対象とされ、住民は,知事を解職でます(地方自治法13条2項・81条1項)。

 これに対し、国は、議会制民主主義を採用し、内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で指名されます(憲法43条、67条)。国の間接民主主義を補う制度の一つとして直接民主主義に基づく知事に対するリコールがあります。
 このように、今回の愛知県知事のリコール運動は住民の大切な権利をおもちゃにし、民主主義を冒涜するものです。当然、不正署名は地方自治法違反ですし(地方自治法74条の4)、私文書偽造罪(刑法159条)も問題となり得ます。刑事罰の対象となるだけでなく、調査に多くの時間と労力を余儀なくされ、多額の税金が費やされています。


 住民の損なわれた権利と民主主義を回復するために、徹底的に選挙管理委員会の調査や捜査機関の捜査によって、事実を解明して責任を明らかにして、2度とこのようなことが起こらないようにしなくてはなりません。

この記事の担当者

加藤 美代
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