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あおり運転行為に対する厳罰化が施行(その2)

弁護士 吉川 哲治

※前回の記事をお読みでない方はこちらをご覧下さい。

あおり運転に対する厳罰化が施行

1 前回の記事をお送りしてから4か月も経ってしまいました。正直、前回の続きの記事を書くには遅すぎるのではないかとも思いましたが、ニュースでは今でも定期的にあおり運転が話題に上がっています。警察も取り締まりを強化しているようで、全国であおり運転が摘発された件数は、2018年が約1万3千件、2019年が約1万5千件とのことです。
  むしろ、厳罰化が話題になった半年前に比べて、今こそ改めて、あおり運転の加害者にも被害者にもならないために、普段の運転で気をつけるべき事について皆さんに記事をお届けしようと思います。

2 さて、前回の記事では、運転する際の心がけとして、「他の車両の交通に危険を生じさせるような運転をしない」と意識することが大事だと書きましたが、今回はより具体的に、道交法117条の2の2・11項に規定されている「あおり運転に当たりうる行為」を1つ1つ取り上げながら解説していきたいと思います。

⑴「イ 第十七条(通行区分)第四項の規定の違反となるような行為」

 ここで引用されている条文は、以下のとおり、左側通行の原則を定めたものです。

「4 車両は、道路(歩道等と車道の区別のある道路においては、車道。以下第九節の二までにおいて同じ。)の中央(軌道が道路の側端に寄つて設けられている場合においては当該道路の軌道敷を除いた部分の中央とし、道路標識等による中央線が設けられているときはその中央線の設けられた道路の部分を中央とする。以下同じ。)から左の部分(以下「左側部分」という。)を通行しなければならない。」

 具体的にどのような行為がこれに当てはまるかと言うと、少し前にニュースでも話題になった「ひょっこり男」の行為がまさしくこれに当てはまります。
 車両(ちなみに自転車も車両に含まれます)は道路の中央より左側部分を通行しなければならず、駐停車車両を追い越す場合など、必要やむを得ない場合以外には反対車線にはみ出て通行してはいけないのですが、何の必然性もなく反対車線にはみ出す行為は、あおり運転とみなされる可能性が高いといえます。

⑵「ロ 第二十四条(急ブレーキの禁止)の規定に違反する行為」

 ここで引用されている条文は、以下のとおり、急ブレーキ禁止を定めたものです。

「第二十四条 車両等の運転者は、危険を防止するためやむを得ない場合を除き、その車両等を急に停止させ、又はその速度を急激に減ずることとなるような急ブレーキをかけてはならない。」

 典型的なあおり運転の1つとして、急ブレーキをかけて後方車の運行を妨害するというものがありますが、これを禁止しているのが同号です。
 問題は、どこからが急ブレーキと判断されるかですが、実は明確な基準がある訳ではなく、その時々の具体的な状況により判断するとしか言えません。ただ、歩行者の急な飛び出しといった危険が何もないのにブレーキをかけ、それにより後方車にもブレーキを踏ませた場合は、あおり運転とみなされる可能性が高いと言えます。

⑶「ハ 第二十六条(車間距離の保持)の規定の違反となるような行為」
 

 ここで引用されている条文は、以下のとおり、前方車との車間距離の保持を定めたものです。

「第二十六条 車両等は、同一の進路を進行している他の車両等の直後を進行するときは、その直前の車両等が急に停止したときにおいてもこれに追突するのを避けることができるため必要な距離を、これから保たなければならない。」

 やはり、典型的なあおり運転の1つとして、前方車の後方にぴったりとくっついて走行するというものがありますが、これを禁止しているのが同号です。
 車間距離の目安は、速度マイナス15(時速40㎞なら22m、時速60㎞なら44m)と言われており、これより近いとあおり運転とみなされる可能性があります。
 そんな車間距離を保っている車なんて見たことない、というツッコミが聞こえてきそうですが、この車間距離というのは、もらい事故を防ぐという点でも大事な目安ですから、きちんと保持するように心がけた方がよいでしょう。

⑷「ニ 第二十六条の二(進路の変更の禁止)第二項の規定の違反となるような行為」

 ここで引用されている条文は、以下のとおり、車線変更が禁止される場合の規定です。

「2 車両は、進路を変更した場合にその変更した後の進路と同一の進路を後方から進行してくる車両等の速度又は方向を急に変更させることとなるおそれがあるときは、進路を変更してはならない。」

 同じく典型的な、あおり運転の1つとして、片側2車線以上の道路で、後方車による追い抜きを防ごうと、後方車の動きに合わせて前方車が車線変更を繰り返すというものがありますが、これを禁止しているのが同号です。
 問題は、自分ではそのつもりがなくても、車線変更したことで結果として後方車にブレーキを踏ませたり急ハンドルを切らせたりしたら、あおり運転になってしまうのではないかという点ですが、これについては、車線変更のルール(ウインカーを出してから3秒後に、後方車との車間距離が十分に離れていることを確認してから車線変更を開始する)さえ守っていれば大丈夫でしょう。

⑸「ホ 第二十八条(追越しの方法)第一項又は第四項の規定の違反となるような行為」

 ここで引用されている条文は、以下のとおり、追越しの方法を定めたものです。

「第二十八条 車両は、他の車両を追い越そうとするときは、その追い越されようとする車両(以下この節において「前車」という。)の右側を通行しなければならない。
…(中略)…
     4 前三項の場合においては、追越しをしようとする車両(次条において「後車」という。)は、反対の方向又は後方からの交通及び前車又は路面電車の前方の交通にも十分に注意し、かつ、前車又は路面電車の速度及び進路並びに道路の状況に応じて、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。」

 あおり運転そのものというより、あおり運転の前段階の行為として、無理な追越しによって前方車の前に出る行為がありますが、これも禁止しているのが同号です。
 ここで注意しなければならないのは、第1項の「追い越すときは右側から」というルールです。高速道路や主要幹線道路で時々見かける運転として、追越車線を低速度で走行している車両を、後方車が左側から追い越すというものがありますが、これは明らかな法律違反であり、かつ、その態様からもあおり運転とみなされる危険性が高いので、いくら前方低速車にイライラしても、決して左側から追い越したりしないで下さい。

⑹「ヘ 第五十二条(車両等の灯火)第二項の規定に違反する行為」

 ここで引用されている条文は、以下のとおり、車のヘッドライトの操作について定めたものです。

「2 車両等が、夜間(前項後段の場合を含む。)、他の車両等と行き違う場合又は他の車両等の直後を進行する場合において、他の車両等の交通を妨げるおそれがあるときは、車両等の運転者は、政令で定めるところにより、灯火を消し、灯火の光度を減ずる等灯火を操作しなければならない。」

 条文にもあるとおり、夜間に限った場合ではありますが、典型的なあおり運転の1つとして、前方車に対してパッシングを繰り返したり、ハイビームを照射し続けたりするという行為がありますが、これを禁止しているのが同号です。
 パッシングというのは操作を誤って行うものではないため、そのような行為をした場合は問答無用であおり運転とみなされる可能性が高いといえるでしょう。他方、ハイビームについては、前方車がいない状況でハイビームにしていて、前方車が現れてもそのままにしてしまう場合があるため、判断が難しいと言えますが、途中までロービームだったものをハイビームにしたのであれば、やはりあおり運転とみなされる可能性が高いと言えます。

⑺「ト 第五十四条(警音器の使用等)第二項の規定に違反する行為」

 ここで引用されている条文は、以下のとおり、クラクションの操作について定めたものです。

「2 車両等の運転者は、法令の規定により警音器を鳴らさなければならないこととされている場合を除き、警音器を鳴らしてはならない。ただし、危険を防止するためやむを得ないときは、この限りでない。」

 同じく典型的なあおり運転の1つとして、前方車に対してクラクションを鳴らし続けるというものがありますが、これを禁止しているのが同号です。
 条文にもあるとおり、クラクションというのは、法律で鳴らすように定められている場合を除いて、鳴らしてはいけないとされていますが、実際にはクラクションが鳴らされている場面にはしばしば出くわします。
 このうち、前方車が青信号に気付かずに停車し続けていた時に、注意喚起のためにクラクションを鳴らす場合というのは、危険防止のためにやむを得ないと言えるでしょう。他方、前方車の速度が遅いときに、もっと速度を上げるようにという意味でクラクションを鳴らすのは、あおり運転とみなされる可能性が高いと言わざるを得ません。
 普段の心がけとしては、危険防止のためにやむを得ない場合以外には、めったやたらとクラクションは鳴らさないようにすべきでしょう。

⑻「チ 第七十条(安全運転の義務)の規定に違反する行為」

 ここで引用されている条文は、以下のとおり、全般的な安全運転の規定です。

「第七十条 車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。」

 この条文があることによって、他の具体的な規定ではカバーできないような非典型的なあおり運転行為を取り締まることが出来ることになります。
 この規定を踏まえての具体的な注意点というのは特にありませんが、強いて挙げれば、「常に安全運転を心がけよう」になるでしょう。

⑼「リ 第七十五条の四(最低速度)の規定の違反となるような行為」

 ここで引用されている条文は、以下のとおり、高速道路等での最低速度の定めです。

「第七十五条の四 自動車は、法令の規定によりその速度を減ずる場合及び危険を防止するためやむを得ない場合を除き、高速自動車国道の本線車道(政令で定めるものを除く。)においては、道路標識等により自動車の最低速度が指定されている区間にあつてはその最低速度に、その他の区間にあつては政令で定める最低速度に達しない速度で進行してはならない。」

 やはり、典型的なあおり運転の1つとして、わざと低速度で走行し、後方車の円滑な走行を妨げるというものがありますが、これを禁止しているのが同号です。
 もっとも、一般道では原則として最低速度の定めはありませんので、これが適用されるのは高速道路や一部の主要国道だけでの話になります。そして、高速道路で時速50㎞以下の速度で走行することは、気象条件等により速度制限がされている場合を除けば、それだけであおり運転行為とみなされても文句は言えませんので、ご注意下さい。

⑽「ヌ 第七十五条の八(停車及び駐車の禁止)第一項の規定の違反となるような行為」

 ここで引用されている条文は、以下のとおり、高速道路等での駐停車禁止についての定めです。

「第七十五条の八 自動車(これにより牽けん引されるための構造及び装置を有する車両を含む。以下この条において同じ。)は、高速自動車国道等においては、法令の規定若しくは警察官の命令により、又は危険を防止するため一時停止する場合のほか、停車し、又は駐車してはならない。ただし、次の各号のいずれかに掲げる場合においては、この限りでない。
一 駐車の用に供するため区画された場所において停車し、又は駐車するとき。
二 故障その他の理由により停車し、又は駐車することがやむを得ない場合において、停車又は駐車のため十分な幅員がある路肩又は路側帯に停車し、又は駐車するとき。
三 乗合自動車が、その属する運行系統に係る停留所において、乗客の乗降のため停車し、又は運行時間を調整するため駐車するとき。
四 料金支払いのため料金徴収所において停車するとき。」


 同じく典型的なあおり運転の1つとして、高速道路等において、後方車の進行を妨害するために駐停車するというものがありますが、これを禁止しているのが同号です。
 警察に取り締まられた場合や、車両の故障の場合以外に、高速道路でわざわざ駐停車しなければいけない状況というのは考えられませんから、そのような場合以外に高速道路上で駐停車すれば、問答無用であおり運転とみなされてしまうでしょう。そもそも、高速道路上で駐停車するというのは、後続車に高速度で追突されるなど、非常に危険な行為ですから、絶対にそのようなことはしないで下さい。

3 以上、最初に予想したよりも、かなり長い記事となってしまいましたが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。
 この記事をお読みいただいた方が、改めて安全運転を心がけていただき、少しでも交通事故が減ることを願っております。

以上

この記事の担当者

吉川 哲治
吉川 哲治
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