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「不要不急」の検察庁法改正

弁護士 樽井 直樹

 「#検察庁法設置法改正案に抗議します」というハッシュタグが瞬く間に400万を超え、話題を呼んでいます。

1 国家公務員の定年を60歳から65歳に延長する「国家公務員法等の一部を改正する法律案」が国会に提出されています。その法律案の第4条は「検察庁法の一部改正」で、①検察官の定年を65歳とする、②63歳以上は原則として検事総長を除く役職(次長検事、検事長、検事正)にはつけないものとする、③一方で、「内閣」が「公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由として内閣が定める事由があると認めるとき」には引き続きその官職で勤務させることができ、④内閣は、勤務延長を再延長、再々延長させることができる、とするものです。

検察官の定年を「検事総長は、年齢が65年に達した時に、その他の検察官は年齢が63年に達した時に退官する」と規定している検察庁法22条について、もともと法務省が準備していた改正案は「検察官は、年齢が65年に達したときに退官する」(1項)、「次長検事及び検事長は、年齢が63年に達したときは、63年に達したときの翌日に、検事に任命されるものとする」(2項)というシンプルなものでした。

つまり、一般の国家公務員の定年延長にあわせて検察官の定年についても63歳から65歳に延長するが、63歳以上のものは検事総長を除く役職者にはつけない、というものでした。それに、内閣が勤務の延長を認めることができるという例外を盛り込んだのです。

2 このような例外が盛り込まれた背景には、検事総長の人事をめぐる、安倍内閣による検察官人事への介入がありました。

今年の1月に63歳の定年を迎えた東京高等検察庁検事長について、安倍内閣は、閣議決定で定年の延長を決めました。この異例の決定は、現在の検事総長の後任に、この東京高検検事長を据えるための布石以外の理由は考えられません。しかし、検察官の定年は検察庁法で定められており、国家公務員法の規定による定年延長はできないはずです。そのため、安倍内閣は、検察庁法の解釈を変更したのだと強弁しました。では、いつ解釈を変更したのか、法務大臣や人事院局長の国会での答弁との整合性はどうなるのか。答弁に窮した法務大臣は「口頭での決済」という言い逃れまで始めました。

このような無法に無法を重ねた東京高検検事長の勤務延長措置を、事後的に合法化させ、さらなる勤務延長も可能にする。これが、今回の検察庁法改正の狙いです。

3 新型コロナウイルスの蔓延の収束は未だ見通せず、国民は十分な補償もないまま自粛を強いられているのに、政府の対策は後手後手に回っている。このようなもとで、不要不急の検察庁法の改正をごり押ししている場合か!「#検察庁設置法改正案に抗議します」のハッシュタグが広がったのは、そのような国民の思いが広く共有されたからだと思います。

しかし、この法案の提出者にとっては、不要不急どころか緊急かつ不可欠な法案なのでしょう。政権との距離が近く、法務省の官房長、事務次官を異例の長さで務め、政界に関係する事件の捜査を潰してきたといわれる特定の検察官を、どうしても検事総長の地位に就けなければならないのでしょう。

検察は、刑事事件の公判を提起する権限を独占するという特別の役割を担う国家機関です。だからこそ、検察には政治権力から独立していることが求められます。政治権力が、人事権を行使することで、検察に介入し、検察のあり方をゆがめることを許さない。そのために今緊急に声を上げる必要があります。

検察官勤務延長問題弁護士共同アピール

(2020・5・12執筆)

 検察庁法改正に対する国民の批判の急速な広がり、検事総長経験者を含む検察OBからの反対意見の表明、野党の国会での追及もあり、政府与党は5月18日に国家公務員法等の一部改正案の通常国会での成立を断念し、秋の臨時国会での継続審議とする方針を打ち出しました。世論の批判の前にして採決の強行を断念したものですが、内閣が関与して検察官の定年延長を行う、という法案自体を撤回したわけではありません。国家公務員の定年年齢を引き上げること自体に、また検察官についても、政治介入を招きかねない勤務延長制度を導入せずに定年年齢を引き上げることに、反対の意見があるわけではありません。検察の独立性を侵害する危険のある定年延長を断念させることが必要です。

(2020・5・19一部訂正、追記)

この記事の担当者

樽井 直樹
樽井 直樹
弁護士は、様々な相談事やトラブルを抱えた方に、法的な観点からアドバイスを行い、またその方の利益をまもるために代理人として行動します。私は、まず法律相談活動が弁護士として最も重要な活動であると考えています。不安に思っていたことが、相談を通じて解消し、安心した顔で帰られる姿を見ると、ほっとします。
また、民事事件、刑事事件など様々な事件を通じて、依頼者の立場に立って、利益を実現することに努力します。同時に、弁護士としての個々の事件を通じて、社会的に弱い立場にある方の利益を守ったり、社会的少数者の人権を擁護することを重視しています。
そのような観点から、弁護士会や法律家団体などでの活動にも取り組んでいます。

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