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「死後離縁」とは

弁護士 松本 篤周

 「死後離縁」という仕組み、みなさんご存知でしょうか?

 これは普通養子縁組をした親子つまり養親と養子の関係において、どちらかが亡くなった場合、生存している側から親族としての関係を終了させるための制度です。

 

*死後離縁の意味

 まず、養子縁組を離縁する場合も、婚姻関係を解消するのと同様に「協議上の離縁」と「裁判上の離縁」とがあります。「死後離縁」に関する条文を確認しましょう。

民法第811条 第6項
縁組の当事者の一方が死亡した後に生存当事者が離縁をしようとするときは、家庭裁判所の許可を得て、これをすることができる。

 条文を見ればわかるように、死後離縁の申立ができるのは、生存当事者本人だけであり、他の親族(例えば、亡くなった人の親や兄弟など)から申し立てることは出来ません。

 では離縁をするとどうなるのでしょうか?これもまず条文を見てみましょう。

民法第729条(離縁による親族関係の終了)
養子及びその配偶者並びに養子の直系卑属及びその配偶者と養親及びその血族との親族関係は、離縁によって終了する。

 つまり「死後離縁」以後は親族ではなくなって、相続や扶養義務などがなくなることになります。例えば祖父母にとって、子どもが亡くなり、その子どもの養子が居た場合、本来は養子である「孫」が代襲相続することになりますが、死後離縁した場合は、代襲相続は生じないことになります。

 

*姻族関係終了との違いは?

 この「死後離縁」と「姻族関係終了届」(配偶者死亡後に死亡配偶者の親族(姻族)との関係を終わらせる手続き)との間には大きな違いがあります。

 一つは、「死後離縁」には民法第811条第6項『家庭裁判所の許可を得て』という要件があることです。「姻族関係終了届」では役所に戸籍の届を出すだけで家庭裁判所の許可は不要であるのに対して、「死後離縁」では『家庭裁判所の許可を得て』その書類を添えて役所に届を出す必要があります。

 この違いの理由として、姻族関係が死亡親族との姻戚関係が生じるに過ぎず、相続権や祭祀の承継などとは関連しないのに対して、養子縁組は、いわゆる法定血族として、相続権や祭祀の承継が生じ、扶養の義務もあるなど、姻族関係より法的効果が大きいことがあげられます。

 死後離縁が行われる例としては、妻が夫の死亡後に夫の親族との交際をやめたいとか、養子縁組した夫が養親の死亡後に、養親の実子である兄弟姉妹(養方)との血族関係を養親の死亡を機に解消したいと考える場合などが考えられます。

 それでは、家庭裁判所が許可するかどうかを考える上で、どういうことを考慮するのでしょうか。例えば、多額の相続をしながら祭祀の承継や親族の扶養義務を免れるなど、自分勝手な離縁に該当しないかなどをチェックして判断をすると思われます。

 

*死後離縁の効果は

 死後離縁をすると、次のような効果が生じます。

1 まず、既に発生した養親の相続に影響はありません。
2 しかし、離縁後は養方の兄弟姉妹の相続は生じないことになります。
3 また、養方との親族関係はなくなり、扶養義務が消滅します。
4 氏(苗字・姓)については、原則として復氏することになります。

 4について詳しく見てみましょう。まず条文を見てみます。

民法第816条(離縁による復氏等)
第1項
養子は、離縁によって縁組前の氏に復する。ただし、配偶者とともに養子をした養親の一方のみと離縁をした場合は、この限りでない。
第2項
縁組の日から七年を経過した後に前項の規定により縁組前の氏に復した者は、離縁の日から三箇月以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、離縁の際に称していた氏を称することができる。

 これは基本的には「離婚」の場合と同じで、離縁すると元の姓に戻ることが原則です。ただし、養子の場合の注意点は2点あります。まず民法第816条第1項のただし書きの部分です。

 つまり養親が養父・養母と二人いる場合、例えば養母とのみと離縁しても養父とは縁組が継続しているので、養子の名字に影響がないことになってきます。

 次に第816条第2項ですが、縁組していた時の名字を養子が名乗り続けたいと思っても、離婚の場合と違い『縁組の日から七年を経過した後に前項の規定により縁組前の氏に復した者は』という条件がついています。つまり離縁後にその名字を使い続けるためには、養子の時の名字を少なくとも7年間は名乗っていないといけないというわけです。これは、養子縁組と離縁を繰り返すなどの方法により、姓を変えるための方便に利用されないように制限する趣旨だと思われます。

 「死後離縁」であってもこのルールは基本的に変わりません。つまり「離縁」である以上、この民法第816条第1項の規定に従って、戸籍については基本的に縁組前の戸籍に戻ることが原則となりますが、第2項のように離縁時の氏を名乗るのであれば元の戸籍にはもどれないことになり、その場合は新しい戸籍を作ることになります。

この記事の担当者

松本 篤周
松本 篤周
弁護士法人 名古屋法律事務所 所長。
目指す弁護士像
・依頼者の立場に立ち、その利益を最大限に実現するとともに、実質的な満足が得られるよう依頼者とのコミュニケーションをはかり、スキルを常に磨く努力すること
・特に大企業や行政の壁にぶつかって苦しんでいる人のために、ともに手を携えて壁を打ち破る取り組みに全力を尽くすこと

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