憲法

被爆71周年を迎えた広島で

弁護士 樽井直樹

 「ここ、ここに私のうちがあったんですよ」
広島での弁護団会議に出席した翌日の8月6日、広島の平和公園で広島市長が読み上げる平和宣言を聞いた後、供養塚に向かう途中、平和観音のそばを通りかかり、被爆前のこの地域(中島本町)の地図を掲載した掲示に見入っていた私に、声を掛けてくれたお年寄りの言葉です。
「この辺は,繁華街でした。(地図を差しながら)映画館があったり、カフェーがあったり。私たちは家族疎開をしていたのですが、当日たまたま弟が体調を崩し、母が近所のかかりつけの医者に弟を連れて行くといって広島に戻り、被爆しました。広島から芸備線で二駅先の戸坂(へさか)に疎開していたのですが、母が戻ってこないので、3日後に歩いて広島に行きました。焼け野原で、広島駅からずっと遠くまで見通せました。皮膚が垂れ下がった人がたくさんいました。(爆心地に近い)このあたりでは死体もすべて燃えてしまっていました。弟と姉、母が亡くなりました。向かいに住んでいた親戚も全員亡くなりました。私は当時(国民学校の)3年生、8歳でした。」
そのように語りかけた後、お年寄りは、地域の慰霊祭の席に戻られました。

弁護士として原爆症認定訴訟にかかわり14年が経ちました。この間、多くの被爆者に接し、貴重な体験を伺うことができました。広島でのこのような偶然の出会いを含め、ひとりひとりの被爆者の体験はなにものにも代えがたいものであることを痛感しました。しかし、私に語りかけてくださった方も80歳を迎えようとしています。被爆を直接体験された方が語ることができる年月は限られています。

日本の被爆者運動の大きな特徴は、人類が史上2回しか経験していない核戦争である広島・長崎の被爆の実相に立脚し、「私たちと同じような被爆者をふたたび生まない」ことを目標に、核兵器の廃絶を訴えてきたことにあります。このことは当たり前のように思われるかもしれません。しかし、世界の各地で暴力と報復の応酬によって紛争の連鎖が生じている現実を踏まえるならば、被爆者運動の倫理性は特筆されるべきものです。
オバマ大統領が5月に広島を訪問したことについて、多くの被爆者は好意的に受け止めているようです。原爆を落とした国の大統領が被爆地に足を運び、被爆の実相と向き合おうとした。このことに「うれしい」と感じているという感想を何度も聞きました。もちろん、オバマ大統領の演説には不満を感じた人も多かったと思います。プラハ演説で「核のない世界の実現」を呼びかけて7年経つにもかかわらず、核軍縮は停滞したままであることについて批判されるのも当然です。しかし、核兵器の廃絶を訴えてきた被爆者が,オバマ大統領の広島訪問を喜んでいることを素直に受け止めるべきでしょう。

原爆による放射線被害の実態は、被爆から71年たった今も、そのすべてが明らかになったとはいえません。特に、遠距離被爆者であるとか入市被爆者といわれる比較的低線量の被曝をしたとされてきた被爆者にも、放射線被曝によるとしか考えられないような健康被害が生じていたことが明らかになってきています。
2009年、被爆者団体と当時の首相・自民党総裁麻生太郎氏との間で締結された原爆症認定集団訴訟の終結にかかる確認書は、被爆者が再び訴訟に訴えるようなことがないようにすることを合意しています。ところが、広島・長崎の被爆者が、自分の病気が原爆のせいであることを認めてほしいという原爆症認定訴訟は、現在も続いています。
9月14日には、4名の原告について、名古屋地裁での判決が言い渡されます。勝訴判決を獲得し、原爆症認定行政を改めさせることで、核兵器が、被爆から70年以上も経った現在もなお、生き残った被爆者の健康を蝕み続ける残虐で非人間的なものであることを訴えていきたい。
被爆地広島でそのような決意を新たにしました。

この記事の担当者

樽井 直樹
樽井 直樹
弁護士は、様々な相談事やトラブルを抱えた方に、法的な観点からアドバイスを行い、またその方の利益をまもるために代理人として行動します。私は、まず法律相談活動が弁護士として最も重要な活動であると考えています。不安に思っていたことが、相談を通じて解消し、安心した顔で帰られる姿を見ると、ほっとします。
また、民事事件、刑事事件など様々な事件を通じて、依頼者の立場に立って、利益を実現することに努力します。同時に、弁護士としての個々の事件を通じて、社会的に弱い立場にある方の利益を守ったり、社会的少数者の人権を擁護することを重視しています。
そのような観点から、弁護士会や法律家団体などでの活動にも取り組んでいます。

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