個人の労働問題

「働き方改革」について

弁護士 樽井直樹

1 はじめに

政府は、4月6日に働き方改革関連法案を閣議決定し、国会に提出しました。安倍首相が施政方針演説で、今通常国会を「働き方改革国会」と名付けながら、厚生労働省が裁量労働制に関するデータを偽造したことが明らかになり、裁量労働制の拡大対象を法案から外すことを表明したため、提出が当初の予定から大幅に遅れることになりました。

2 働き方改革関連法案の内容と問題点

法案の中身は、大きく2つあります。1つは労働時間制度に関するもの、もう1つは非正規労働者の処遇改善に関するものです。

(1)労働時間制度に関して

労働時間制度に関しては、時間外労働の上限規制と労働時間の規制緩和が盛り込まれています。

a 時間外労働の上限規制

電通事件で明らかになったように、日本の労働現場では異常な長時間労働がまかり通り、過労死、過労自殺が後を絶ちません。現在の制度では、36協定を締結した場合に、法律的に時間外労働の上限を規制するものはなく、大臣告示によって1カ月45時間、1年間で360時間を超えないようにという限度時間を定める基準が示されているだけです。しかも、特別条項を結べば限度時間を超えることも認められています。
法案では、法律で限度時間を定めることとし、違反には罰則による制裁が盛り込まれました。この点では、上限規制を強化したものといえます。しかし、臨時的な必要がある場合には、年間720時間、1カ月100時間未満の時間外労働を認めることができるとしています。さらに休日労働を算定すると、年間最大で960時間の時間外労働を許容する制度になっています。
1カ月100時間の労働時間というのは過労死基準に該当するような働き方です。過労死するかもしれないような労働時間を法律で許容する、これがほんとうに実効性のある労働時間の上限規制といえるでしょうか。

b 高度プロフェッショナル制度

しかも、高度プロフェッショナル制度という名の労働時間に関する規定などの適用除外制度が新たに設けられます。これは、第一次安倍内閣当時に国会に提出しようとし、「残業代ゼロ法」「過労死促進法」との批判を受けて断念に追い込まれたホワイトカラーエグゼンプションの再来にほかなりません。
対象労働者を年収1075万円以上としているため、一部の高収入の専門職の問題ととらえられがちです。しかし、厚労大臣経験者が「小さく産んで大きく育てる」と広言するなど、一度導入されてしまうと、対象が拡大されていくのは目に見えています。

c 労働時間制度改革の問題点

このように、時間外労働の上限規制は限度時間を法律事項とすること自体は評価することができますが、過労死基準を容認するような制度を認めるべきではありませんし、労働時間規制を根本から破壊する高度プロフェッショナル制度の導入は、長労働時間を根絶するという方向とは完全に矛盾します。

(2)非正規労働者の処遇改善

パート、契約社員、派遣労働者と様々な形で非正規労働者が増えています。非正規労働者には、雇用が不安定であること、賃金など労働条件で正規労働者に比べて相対的に劣悪な条件に置かれていること、という問題が指摘されています。安倍内閣は生涯派遣を可能にする労働者派遣法の改正を2015年に強行した後、「一億総活躍社会」を作るためには非正規労働者の処遇改善が必要だとして、「同一労働同一賃金の導入」ということを言い始めました。そして、働き方改革においてこれを実現しようと打ち上げたのでした。
非正規労働者の処遇改善に関する法案の核心部分は、①パートタイム労働者、有期雇用労働者の待遇がその職場の正社員の待遇と相違する場合、職務の内容、職務内容および配置の変更、その他の事情を考慮して不合理と認められるものであってはならない旨を規定するパートタイム労働法8条、労働契約法20条を一本の条文にするとともに、②通常の労働者と同視すべき短時間労働者の待遇について差別的取扱いを禁止したパートタイム労働法9条の規定が通常の労働者と同視すべき有期労働者にも適用が広がること、③派遣労働者についても、①②と同様の規定が設けられることにあります。
これは一見、非正規労働者の処遇改善につながるようにも思えます。しかし、しかし、法案では同一労働同一賃金といった考え方は採用されていません。この点で、「看板倒れ」といって差し支えないでしょう。労働契約法20条に違反するとして訴えられた裁判において、なかなか同条違反が認められず、認められたとしても限定された手当にとどまっているのが現状です。現在の条文を前提とし、適用範囲を少し広げるだけでは問題の解決にはつながりません。
また、派遣労働者については、労使協定を締結することで③の適用が除外されるというものとなっています。平等取扱いの実現という人権にかかわる問題を労使協定で排除するという制度設計を認めることはできません。

3 まとめ

働き方改革は、時間外労働の規制や非正規労働者の処遇改善といった労働者が求めてきた課題を掲げているため、少なくとも現状を改善するものだろうと思われがちです。しかし、実態は、労働法制による労働者を保護する規制(これは憲法27条2項に基づくものです)を「岩盤規制」と呼んで敵視し、これを骨抜きにしようというものです。その点で、日米の経済界が執拗に求めてきた規制緩和路線に基づく「働かせ方改革」というほかありません。
このことを端的に示すのが、雇用対策法の目的規定(1条)の文言を「労働力の需給が質量両面にわたり均衡することを促進」から「労働者の多様な事情の応じた雇用の安定及び職業生活の充実並びの労働生産性の向上を促進」に変えようとしていることです。
労働者を保護すべき労働政策の目的を、生産性向上という経済政策に従属させようとする、このような「働き方改革」は御免です。

 

*働き方改革関連法案
正式名称は「働き方改革を推進するための関連法律の整備に関する法律案」で、主に、労働基準法、じん肺法、雇用対策法、労働安全衛生法、労働時間等設定改善法、労働者派遣法、パートタイム労働法、労働契約法の8つの法律の改正を内容としています。

*裁量労働制をめぐって
当初、政府は働き方改革法案で企画業務型裁量労働制の対象業務に「裁量的にPDCAを回す業務」と「課題解決がったの開発提案業務」を追加することを狙っていました。裁量労働制と労働時間のみなし制度の一種です。つまり、実際には10時間働いても8時間働いたものと「みなし」、残業代を支払わなくてもよくする制度です。ですから、長時間労働を促進する効果を持ちます。ところが、安倍首相が「裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均的な労働者で比べると、一般労働者より短いという厚生労働省のデータもある」旨の答弁を行いました。このデータに疑義があることが専門家によって明らかにされました(例えば上西充子さんの「裁量労働制、政府の答弁を検証する」を参照)。このような経過は安倍内閣が労働現場の実情を知らず、また関心もないことを示しています。

*働き方改革関連法案の内容と問題点
この点については日本労働弁護団が2017年11月に発表した『「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案要綱」(働き方改革推進法案要綱)に対する意見書』(2017年9月に厚労省が発表した法案要綱を分析したものを参照してください)。

*時間外労働の上限規制の実態について
法案が導入しようとしている時間外労働の上限規制は極めて複雑な制度です。上記の日本労働弁護団の意見書にある別表を参照してください。

現行  法律要綱案
原則 1日8時間 週40時間 1日8時間 週40時間

三六協定で定めた場合 <労働省告示の限度時間>
・時間外労働
 =月 45 時間、年 360 時間
 ※休日労働含まず
<限度時間>
・時間外労働
 =月 45 時間、年 360 時間
 ※休日労働含まず
<全体にかかる上限~罰則付き>
・坑内労働等の時間外労働
 =日 2 時間以内
・時間外労働+休日労働
 =月 100 時間未満
・時間外労働+休日労働
 =月平均 80 時間以内

<臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別の事情が予想される場合>
・1 年に 6 回まで
 ※時間数に規制なし
<通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合>
・1 年に 6 カ月以内
・1箇月について 100 時間未満(休日を含む)
・通常予見される時間外労働も含み年720 時間以内
(休日は含まず)

*高度プロフェッショナル制度
裁量労働制が労働時間の「みなし制度」の一種であるのに対し、高度プロフェッショナル制度は労働時間、休憩、及び休日に関する規定の適用を除外する制度です。管理監督者などを適用除外とするとした労働基準法41条の次に41条の2という条文を設けることを予定しています。以下の表を参照してください。

労働時間等規定の適用の比較

一般労働者 管理監督者 裁量労働制対象者 高度プロフェッショナル制度対象者
労働時間 × ×
休日 × ×
割増賃金 時間外 × ×
休日 × ×
深夜 ×
休憩 × ×
年次有給休暇
独自の健康確保措置

○は適用対象 ×は適用除外 

△は「みなし労働時間」が8時間を超える場合には,三六協定の締結及び届出,割増賃金の支払いが必要となる。

〔出典〕厚生労働委員会調査室 成嶋建人「今後の労働時間法制等の在り方について -労働基準法等の一部を改正する法律案-
 

*派遣労働者についての適用除外制度
労使協定によって、派遣労働者に適用が除外される場合にも、全く放任されるわけではなく、同種業務の一般労働者の平均賃金額と同等以上の賃金の額、かつ職務内容、成果等の向上があった場合に賃金が改善される決定方法を定めるなど、労使協定に基づく待遇決定が定められることは大切なことです。しかし、労使協定を締結して適用を除外することが大部分だろうと前提されていることは、制度設計として大問題です。派遣先が変更されると、労働条件が変更されることになり不安定になるという意見もあるようですが、そもそも同一労働同一賃金という考え方を取っていないことを示しています。

事業活動総合保険って,どういう保険?会社のピンハネにご用心

弁護士 松本篤周

事業活動総合保険を使った従業員への補償とは?

会社が,従業員の通勤途中や業務上の災害(例えば,通勤途上に交通事故に遭って怪我をした,業務中に足場から転落して怪我をしたり,死亡した)に備えて,労災保険とは別に,その従業員への補償を目的とする内容を含む「事業活動総合保険」契約をしているケースがあります。その保険料は,税金の申告の際,企業の福利厚生費などとして経費として計上することが出来ます。

そして,この事業活動総合保険(従業員への補償)は,保険で定めた事由(通勤途中や業務上の災害)が従業員に発生したときに,従業員に対して直接保険給付金が支払われるのではなく,企業が従業員(従業員が死亡した場合は遺族)に補償金を支払い,その後に補償金相当額の保険給付金を企業が保険会社から受け取るという仕組みになっています

企業は,従業員に補償金を支払ったということで従業員に領収書を書かせ,その領収書を保険会社に提出して保険給付金を受け取ることになります。もっとも,実態としては先に補償金に関する領収証を従業員に書かせておいて,保険会社から企業に保険給付金全額が支払われ,その後に従業員に対して保険給付金全額の補償金を支払うケースがあります。

なお,保険の内容については保険契約によって変わるため,全ての「事業活動総合保険」がこのような内容となっているわけではありません。

事業活動総合保険を悪用するケース

企業の中には,この事業活動総合保険(従業員への補償)の仕組みを悪用して,保険事由が発生して保険金を受領しても,従業員に対する補償金を全額支払わず,例えば保険給付金の半分を企業が取ってしまって,残りの保険給付金を従業員への補償金に充てるというやり方をする企業があります。場合によっては保険給付金を全額取り上げようとする企業もあります。つまり,従業員が受け取れる補償金相当の保険給付金を企業がピンハネするということです。

従業員も,社長から「会社が保険料を支払っているのだから,半分は会社にもらう。」などと言われると逆らえずに,「半分でももらえるなら良いかと」承諾してしまうこともままあるようです。

しかし,これは保険契約の本来の趣旨に反した違法なやり方であって,もしも判明した場合は,保険会社としては,保険契約を解除して,保険給付金の返還を企業に求める必要があります。ところが,保険会社も,営業で企業から保険料を支払ってもらっているので,見て見ぬふりとまではいかないとしても,従業員に本当に受け取ったか確認したりすることもなく,趣旨通り運用されているかを厳密に追及していないのが実情です。

また企業が従業員への補償金の支払に充てずに保険給付金を受け取ると,従業員のための福利厚生のための支出との事実に反する結果となり,保険料の支払いが経費としては否認されることになりますので,修正申告しなければ脱税の問題も生じます(多くの場合は修正などしていないと思われます)。

会社のピンハネを許さない

現に,私が依頼を受けて会社と交渉したケースでも,会社側が従業員に対して「保険給付金の半分をよこせ。」と要求したため,勇気ある従業員が断ったところ,「それなら補償金を払わない。」と言われ,相談に来られたケースでした。
私は,会社に対して,「契約の趣旨からいって,会社が受け取った保険給付金全額を従業員への補償金として支払うべきだ。」と通知したところ,その会社の社長は,「それなら今回の事故については,事故扱いせず,保険会社に保険給付金を全額返金する。」という回答をしてきました。

このため,私は保険会社に対して質問状を送付し「こういうことが許されるのか。」と問いただしました。保険会社の回答は,顧問弁護士と相談した結果として「保険事由に該当するか否かの判断は,会社と従業員との関係なので,保険会社としては意見を言う立場ではない。」という木で鼻をくくったようなふざけた回答でした。これでは会社が「半分会社に支払わうことに同意しなければ,全額支払わないぞ。」として,従業員に「全然もらえないよりはいいか。」という気分にさせて同意させる手段を正面から認めることになってしまいます。
これはあまりに理不尽で,保険会社の社会的責任に照らしても問題だと思いました。そこで私は,改めて,保険会社のホームページでその保険契約をパンフレットを調べてみました。そうすると,契約の条件として,従業員に対する補償に関して災害補償規程を制定していることが条件になっていることが分かりました

なるほど,そうであれば,会社が災害補償規定にある補償金の支払事由に該当するかどうかを勝手に判断することは許されず,客観的に災害補償規程にある補償金の支払事由に該当すれば,原則として,補償金の支払義務が会社に発生することになります。そのため,従業員への補償金支払のために「保険を使うかどうか」は会社側の自由(保険を使って補償金を支払うか,保険を使わないで補償金を支払うかは自由)であるとしても,補償規定による「従業員への補償金の支払」は会社が勝手に決めることが出来るわけではなく,災害補償規程における支払拒否事由など客観的な根拠なしに,従業員への補償金の支払いを会社が拒否することはできません

そして災害補償規定の内容は会社との契約にあたって保険会社に提出されていたはずですが,保険会社の回答は,その点については敢えて避けていたようです。

そこで,私は,再度会社に対して,下記の内容証明郵便を送りつけました。
「 事業活動総合保険○○○○(以下「本件保険契約」と言います。)によれば,契約にあたっては,被保険者(事業者)が社内において災害補償規程を制定していることが前提条件とされています。これは,本件保険契約の趣旨が,被保険者が,従業員が業務上発生した事故等によって傷害を負った場合に,これを補償する制度をもうけていることを前提に,それによって従業員に補償金を支払う原資を保険によって填補するところにあるからです。従って,貴社が従業員に補償金を支払った後で,それに相当する金額を填補するために保険金の請求をするかしないかは貴社の自由であるとしても,貴社における災害補償規程によって従業員に補償金を支払う義務自体は発生していると考えます。」
これに対する会社からの回答がないので,次に保険会社に対しても下記の内容証明を送付しました。
「貴社に対し,会社が貴社との間で本件保険契約を締結するに際して,貴社に対して提出されている災害補償規程について,その内容を明らかにして頂くとともに,その文書の写しを当職宛てに送付頂きますようお願い致します。」
すると,それからしばらくして,会社からも保険会社からも回答が来ないうちに,社長から従業員に対して直接「降参する。手続きをやり直して保険金(補償金全額)は支払う。」と言ってきました。おそらく保険会社から社長に対して,何とかして貰わないと困る,というような連絡が入ったのではないかと思われます。

このように補償金全額の支払を会社に認めさせたのは,ご本人があきらめずに頑張ったことと,私も粘って調べて考えて,会社と保険会社にしつこく追及し続けたことが勝因だと思います。
類似の件がありましたら,会社のピンハネに対して簡単に応じたりすることなく,まずは当事務所までご相談下さい。

有期雇用の無期転換ルールの運用開始を控えて

弁護士 樽井直樹

 来年(2018年)4月1日から、有期雇用の無期転換ルールの運用が本格的に始まります。
 「有期雇用の無期転換ルール」といわれてもピンと来ないかもしれませんが、パートや契約社員のような契約期間が決まっている働き方(「有期雇用契約」または「有期労働契約」といいます。)をしている人も、そのような契約が一定期間継続した場合には、契約期間の定めがない契約(「無期雇用契約」または「無期労働契約」といいます。)に転換できるという制度です。この制度について、説明します。

1.労働契約法の2012年改正

 はなしは2012年にさかのぼります。
 パート、契約社員、派遣といった非正規労働者が増加する一方、非正規労働者が正規労働者に比べて相対的な賃金が低いいった不公正な労働条件の下で働いていることや、リーマンショックによる派遣切り、非正規切りによって明らかになったような雇用が不安定であることが社会問題となりました。そこで、民主党政権下の2012年に有期雇用労働者の保護に向けて、労働契約法18条、19条、20条の改正という重要な前進がありました。
 簡単に説明すると、19条で、有期労働契約の更新拒絶(雇止め)について、雇用継続の合理的な期待がある場合に解雇権濫用法理(労働契約法16条)を類推適用するという裁判を通じて形成されていたルール(判例法理)を明文化しました。
 20条は、パートタイム労働法8条と同様に、有期労働契約であることを理由とする不合理な差別を禁止するものです。この改正法施行後、長澤運輸事件やハマキョウレックス事件など、20条を根拠として重要な裁判が闘われています。
 本稿のテーマである有期労働契約の無期転換ルールを定めた18条は、有期労働契約が5年を超えて反復更新されたときに、労働者に無期転換申込権の行使を認めるというもので、12年改正法が施行された2013年4月1日以降に締結または更新された有期労働契約から適用されるため、2018年4月1日以降に5年を超える契約が発生することになります。そのため、来年4月から本格的な運用が始まることになるのです。

2.有期雇用の無期転換ルール(労働契約法18条)とは

 では、有期雇用の無期転換ルールの内容を具体的に見ていきましょう。

1)目的

 まず、有期雇用の無期転換ルール(労働契約法18条)を設けた目的は、有期労働契約が同一の労働者と使用者との間で5年を超えて反復更新された場合に、労働者の申し出により期間の定めのない労働契約に転換させることで、有期労働契約を濫用的に利用することを防止し、労働者の雇用の安定を図ることにあります。

2)無期転換のための要件

 では、どのような要件を充たせば無期転換ができるでしょうか。

A.労働者に無期転換申込権が発生すること

 まず、「同一の使用者」との間で「二以上の有期労働契約」が締結されてきたことが必要です。簡単に言うと、同じ使用者との間で、有期労働契約が1回以上は更新されたことがあるということです。
 次に、「二以上の有期労働契約」を通算した雇用期間が「5年を超えた」ことが必要です。ただし、空白期間(クーリング期間)についての複雑な規程があり、これについては後ほど見ることにします。

B.労働者が無期転換申込権を行使すること

 無期転換は自動的には発生しません。労働者が使用者に無期契約に転換したいという申込権を行使することが必要です。申込権の行使には、特に様式が定められているわけではありませんが、重要な権利に関するものですから、証拠を残しておくという趣旨で書面で行うことが望ましいと思います。
 無期転換申込権の行使は、現に締結されている有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に行使する必要があります。もっとも、有期労働契約が更新されるたびに無期転換申込権は発生すると考えられていますので、新たに更新された場合には、新たに発生した無期転換申込権を行使することができます。

3)無期転換申込権行使の効果

 無期転換申込権が行使されると、その時点での契約期間が満了した翌日から労務を提供される無期労働契約を締結することの申込みがなされたことになります。そして、無期転換申込権が行使された場合、使用者は、この無期労働契約を締結することの申込を承諾したものとみなされるため、無期労働契約が成立することになるのです。
 無期転換後の労働条件は、原則として有期労働契約中の労働条件と同一のものとなります。いわゆる正社員の就業規則が適用されるかどうかも、具体的な事情によって決まってきます。ですから、無期転換後の労働条件を向上させるためには、別途交渉などが必要になります。

4)クーリング期間

 一の有期労働契約と次の有期労働契約の間に一定の長さのクーリング期間を置けば、契約期間が通算されない(つまりリセットされる)という取扱いが認められています。
 クーリング期間は、①原則として6カ月以上ですが、②契約期間が1年未満の場合は、当該期間の2分の1(契約期間が6カ月であれば3カ月)、③②の場合でも1月未満の端数がある場合には切り上げる(契約期間が3カ月の場合は2カ月)であることが必要だとされています。

3.無期転換ルールの本格運用を控えて

 このように、無期転換ルールは非正規労働者の雇用の安定を実現するという点で画期的な制度なのですが、このような制度の運用が本格化するということについては、労働者にも使用者にもまだまだ知られていないのです。そこで、様々な機会を通じて、無期転換ルールについて周知していくことが求められます。
 一方で、無期転換ルールの運用が本格化するのを控えて、これを回避するような対応も出てきています。例えば、東京大学では非正規教職員を雇止めすることを計画しているということが報道されました(朝日新聞2017年8月24日)。同様のことは、昨年東北大学でも報道され、私もラジオ番組のインタビューに答えたことを以前この欄で紹介しました。
 無期転換ルールの適用を回避するための雇止めとして、①当初から「契約の更新は4回まで、通算4月11カ月を超えないものとする」といった規程を設けていた場合や②6カ月更新を繰り返してきたが、10月の更新にあたって「次回以降は契約更新を行わない」旨の条項が契約書に盛り込まれた、といったケースが考えられます。②のケースの場合には、合理的な労働条件の変更といえるのかが問題となりますし、①のケースでもそもそも無期転換ルールの適用を免れるためのものであればこのような規定の有効性を問題にすることも考えられます。いずれにせよ、労働組合や労働問題に詳しい弁護士に相談することが必要です。

4.まとめ

 無期転換ルールは、濫用的な有期雇用の利用を抑止し、労働者の雇用の安定を図る制度であり、積極的に活用しましょう。ただし、無期転換ルールの適用を回避するための雇止めなども起きかねず、このような経験をした場合には専門家に相談しましょう。
 そして、非正規雇用労働者の保護のためには、入り口規制の実現、均等待遇の実現などを要求し続けることが大切であると思います。

 

【労働契約法】
(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)
第十八条  同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において「通算契約期間」という。)が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。この場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。
2  当該使用者との間で締結された一の有期労働契約の契約期間が満了した日と当該使用者との間で締結されたその次の有期労働契約の契約期間の初日との間にこれらの契約期間のいずれにも含まれない期間(これらの契約期間が連続すると認められるものとして厚生労働省令で定める基準に該当する場合の当該いずれにも含まれない期間を除く。以下この項において「空白期間」という。)があり、当該空白期間が六月(当該空白期間の直前に満了した一の有期労働契約の契約期間(当該一の有期労働契約を含む二以上の有期労働契約の契約期間の間に空白期間がないときは、当該二以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間。以下この項において同じ。)が一年に満たない場合にあっては、当該一の有期労働契約の契約期間に二分の一を乗じて得た期間を基礎として厚生労働省令で定める期間)以上であるときは、当該空白期間前に満了した有期労働契約の契約期間は、通算契約期間に算入しない。

(有期労働契約の更新等)
第十九条  有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一  当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二  当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
第二十条  有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

夫の育児休暇について~体験をふまえて~

弁護士 倉知孝匡

なぜか書いている記事が動物やロボットばかりですが,今回は,夫の育児休暇についてです。

1 夫にも育児休暇が必要な理由

夫にも育児休暇は認められていますが,まだまだ育児休暇を取得する方は少ないようです。一方で,夫でも育児休暇を取得して,育児,そして家事をしている方もたしかにいます。
では,育児休暇がなぜできたのでしょうか。そもそも夫も育児休暇を取ることの必要性やメリットはどこにあるのでしょうか。まずは,これを見ていきたいと思います。なお,ここでの夫婦には,婚姻届を提出している夫婦だけでなく,婚姻届は提出していないけれども夫婦として生活しているカップルも含みます。

(1)出産によるダメージ

育児休暇には子どものためという面があるのは当然ですが,実は,出産をした妻のケアという面が非常に重要です。
出産時の極度の疲労,出産に伴った大量の出血,骨盤を始めとする骨格の急激な変化,ホルモンバランスの影響などによって体調を崩すなど,出産によって母体には大きなダメージがあります。
程度の差はあれど,出産前,ましてや妊娠前のように動けるようになるまでに回復するには時間を要します。
そのような状況の妻に家事や育児を担当させるのは体の回復を遅らせ,時には疾患につながることも考えられます。
そもそも,出産の痛みで悶え苦しんでいる姿を目の当たりにすると,出産後に夫が育児や家事を担当しないのは,まさに不公平な状況かと思います。
一方で,仕事で忙しいと育児や家事を十分に行うことはできません。そのため,夫も育休を取得して,育児や家事を行う必要があります。

(2)育児に追われると家事ができない

育児をしていると,夜中に何度も起きたり,授乳して「寝た」と思って布団に寝かせても,急に泣き出すなどということはしょっちゅうあり,結局四六時中赤ちゃんを抱いたりすることになります。
そんな状況なため,妻が家事を行うのは難しくなり,妻が担当する家事が溜まっていくだけでなく,夫婦ゲンカの元になったり,妻が精神的に追い込まれていく要因にもなります。
これを解決するには,夫が担当する家事を増やすか,夫も育児(授乳やオムツ替えだけでなく,病気やちょっとした体の異常への対応や調べ物なども)を行う必要があります。
育休があれば,こういった対応も十分に可能になります。

(3)気軽に相談したい

出産後に,子どもの体調の変化などについて不安に思うことがあっても,仕事で忙しいなどで気軽に夫に相談できないと,妻の不安が大きくなっていて精神的に追い込まれていってしまうことがあります。
育休を取得することで,相談しやすい環境を整え,問題の発生を未然に防ぐことができます。
また,夫も,育休を取得していると相談を受けるだけでなく,普段から妻の様子を見ることができるので,体調の変化や精神状況などにも気づきやすく,いきなり体調不良になったり,精神的に追い込まれてしまう前に対応できるということもあります。

(4)子どものことがよく分かる

そして,育休を取得することで,子どもの普段の様子がよく分かり,子どもの好みや癖などを知ることができるので,充実した育児にもつながります。

(5)まとめ

夫も育児休暇を取得することで,育児や家事をこなせ,妻の産後の回復に役立ったり,妻の精神的な安定につながったり,ひいては子どものためにもなります。何より,産後の夫の非協力が妻が離婚を考える理由になるケース(出産直後の離婚だけでなく,数十年後に問題になる場合も)があり,とても重要なことかと思います。

2 育児休暇制度について

それでは,夫の育児休暇制度について解説したいところですが,これだけでものすごく長くなってしまうので,またの機会とさせていただきます。

3 少しでも育児や家事に回せる時間を

育児休暇について法律で認められ,育休取得について不利益を与えることは禁止され,「イクメン」などの言葉が広まったといっても,「育児休暇を取るのは気が引ける」「そんな育児休暇を認めていたら会社が回らない」という意見があるかと思います。企業側(同僚も含む)の理解や後押しがないと,育児休暇を実際に取得するのはなかなか難しいのが現状かと思います。そこで,少しでも夫が育児や家事ができるように,企業側ができる工夫をお話したいと思います。

(1)休暇を増やす・勤務時間の短縮

まず,完全な育児休暇となるとなかなか難しいのであれば,一月や二月などに限定して勤務を週4日や3日にするといった方法も考えられます。これであれば,勤務を続けたままですので,人員不足の問題も抑えられます。
また,一定期間だけ勤務時間を10時から16時などの時短勤務にして,朝と夕方に育児や家事をする時間を設ける方法もあります。なお,この時短勤務については,法律でも規定されています。
さらに,この二つを組み合わせて,1ヶ月は勤務日を3日にして,2ヶ月目からは時短勤務にするということも考えられます。
完全な育児休暇の導入は難しいとしても,勤務日数や時間を短くして,育児や家事に回せる時間を認めることであれば実現しやすいかと思います。

(2)自宅勤務

他にも,自宅勤務を導入する方法があります。
この場合も,全ての勤務を自宅勤務にするだけでなく,週の1日を自宅勤務にする方法もあります。
ただ,現場での仕事などでは自宅勤務はできませんし,また,情報漏洩の問題を含めセキュリティ対策の面からは,慎重な対応が必要となります。
参考までに,僕が行っているのは,週2回を自宅勤務にして,妻が料理などの家事をしている間に子どもを抱っこしたりあやしたりしています。
これだけでも,妻が落ち着いて料理ができたり,家事をすることができます。また,妻の体調が優れない時には,妻が休む時間を確保できます。緊急の対応が必要な案件があると,どうしても自宅勤務が難しいこともあるので,常にとはいきません。
ちなみに,自宅勤務でないときも,僕の担当(共同のも含む)は,オムツ替え,食器洗い,オムツや子どもの服の洗濯,お風呂入れです。

4 スムーズな家事や育児

育児や家事に使える時間を増やすことも重要ですが,育児や家事を効率よく行うことも家事や育児の負担を減らすためには重要かと思います。

(1)役割をよく話し合う

効率よく家事や育児を行うには,まず,出産の前から役割分担について夫婦や同居の家族と話し合うことが重要です。
行き当たりバッタリでは,何をしていいのか分からず右往左往し,時にケンカとなって無駄に時間を使ってしまいます。
また,妻の側も,しっかりと要望を伝えないと夫は気づきません。家事をやる夫にしろ,家事をやらない夫にしろ,妻が感じる妊娠や出産に伴って生じる変化について,夫には分からないことがたくさんあったります。言わなくても分かってくれるは「厳禁」です。
妊娠前から,出産前から,妊娠・出産で動けなくなる可能性や精神的な変化(落ち込む,怒りやすくなる,子ども中心になる)可能性などを説明し,「こうして欲しい」という要望を伝えて,役割分担をしておくと,夫も予測した上で行動できるので,スムーズにいきます。
もちろん,それぞれの家庭における環境,経済状況,性格などによって対応は千差万別ですが,役割について話し合うのは非常に重要なことです。

(2)効率的な作業動線の確保

次に,家事や育児について効率的な作業動線を確保することが重要です。
オムツを替えるといっても,オムツをいちいち探しに行ったり,おしりふきとオムツが別々の所にあっては,無駄に時間を使うだけです。
たとえば,オムツ替えを行う場所から近い定位置にオムツをストックし,おしりふきや(着替えが必要な場合に備えて)着替えを分類のうえ集約し,オムツ廃棄専用のゴミ箱を用意すると,すぐに作業が出来て,無駄もありません。
どのような方法が効率的かは,間取りや育児の方法(母乳かミルクか,布オムツか紙おむつかなど)でも変わってきます。
ちなみに,僕の所は,母乳と布オムツなので,毎日布オムツを洗濯する必要があります。それなりに手間がかかるので,作業動線を確保するように工夫しています。たとえば,洗濯機の近くに洗浄と浸け置き用のバケツを並べています。こうすると,布オムツを簡単に洗浄した流れで浸け置きができ,また,浸け置きした布オムツをすぐに洗濯機に入れられます。他にも,物干しにパラソル型のものを使うことで,布オムツを引っかけるだけで干すことができ,作業工数を少なくしたり,洗濯ネットなどであらかじめ分類(形成オムツとうんち用ネット,子供服,ガーゼなどに分類)しておくことで,効率的に作業ができます。

(3)無理をしない

もう一つ重要なのが,育児も家事も無理をしないということです。
想像以上に育児は重労働だったり,慣れない家事をする人だと上手くいかないことも多いと思います。
無理をして倒れてしまったり,上手くいかずに夫婦ゲンカになっては,夫婦にとっても子どもにとっても良くありません。
責任感が強い人ほど,どうしても頑張ってしまったりしがちですが,根気よく続けて行くには,無理をせず,楽をすることも大切です。

CBCラジオ「北野誠のズバリサタデー」に出演~非正規雇用労働者の雇止めについて答えてきました~

弁護士 樽井直樹

東北大学が、契約期間を決めて働いている教員、職員を、再来年(2018年)4月以降順次雇止めにしていくということが報道されました(2016年7月25日朝日新聞など)。その数は、なんと3200人にのぼるとされています。
この問題が7月30日のCBCラジオ「北野誠のズバリサタデー」という番組の「ズバリ聞きたい」というコーナーで取り上げられ、電話出演しました。
そこで、当日の説明を再現してみました(一部補充した部分があります)。

 

Q 「雇止め」って何のこと?
A 雇止めというのは、契約期間を決めて働いている労働者の契約が終了してしまうことをいいます。
「働く」ということは、労働者と使用者との間で、労働契約を結んで、賃金や労働時間について取り決めをしていることが前提となります。取り決める内容(労働条件)の一つに契約期間があります。正社員は契約期間を定めずに、定年まで働き続けることを前提としています。一方、3カ月とか1年といった契約期間を定める場合、有期契約労働者といいます。パートタイマー、期間工、契約社員や準社員と呼ばれている人のほとんどが契約期間の定めがある労働者で,非正規雇用労働者ともいわれます。
契約期間の定めがあるかどうかで、使用者が一方的に労働契約を解消する、つまり労働者から見たら「クビになる」場合の取扱いが変わってきます。
労働契約期間の定めがない正社員が定年前に使用者から労働契約を解消される(クビになる)ことを「解雇」といいます。解雇は自由にできるわけではなく、労働契約法という法律で、「客観的で合理的な理由がない場合」には無効になるとされています(16条)。
労働契約期間の定めのある労働者の契約を終了させるのが雇止めなのですが、雇止めには2つの場合があります。一つは、契約期間中に使用者が労働契約を解消すること。この場合は、「やむを得ない理由」がなければならないとされていて(労働契約法17条1項)、正社員の解雇の場合よりも厳しいといわれています。
もう一つは、契約期間が満了して契約が終了する場合です。一般に「雇止め」はこの場合を指します。

 

Q 「雇止め」について法律は規制をしているの?
A 契約期間が終わるので契約がなくなるのは当たり前と思われるかもしれませんが、有期契約が繰り返し更新され、長い間、同じ職場で、有期契約労働者として働き続けている人もいます。このような方々にとっては、今まで繰り返し更新されていた契約が打ち切られてしまうことは、正社員の人が解雇されることと同じような不利益があります。そこで、雇用が継続する正当な期待がある場合には、解雇の場合と同じように、客観的で合理的な理由がない雇止めは無効とされるということが2012年に法律(労働契約法19条)でも明記されました。
もう一つは、有期労働契約を2回以上更新した通算期間が5年を超えた労働者が、現在の契約期間が満了するまでの間期間の定めのない契約を締結したいと申し込んだら、使用者はこれを承諾したものとみなされる、つまり有期契約から無期契約に転換するという制度があります(労働契約法18条)。この制度は平成25年(2013年)4月1日以降に契約期間の初日がある契約に適用されます。無期転換が認められると、契約期間がなくなりますから、契約期間が満了したら契約してもらえなくなるんじゃないかという心配はなくなり、その分、雇用は安定します。

 

Q 東北大学で大量の雇止めがなされるという報道があったが
A 東北大学には全学で3200名の期間の定めがある非正規の教職員がいるそうですが、2018年(平成30年)春以降、順次雇止めにするという通告がされたということです。先ほど紹介したように、5年以上契約が更新された場合の無期転換が2018年4月以降に認められることになります。東北大学は、この無期転換の適用を免れるために、5年を迎える前に雇止めにする、ということをしようとしているようです。
しかし、無期転換をしても賃金などの労働条件は今までと同一とされていますから人件費が今までより増えるわけでもなく、一律に雇止めにするのは雇用の安定を図るという制度の目的に反することから、大きな批判がわき起こっています。

 

Q 非正規労働者の保護を強めれば、かえって雇止めを誘発してしまうのでは?
A 東北大学のケースを見ればそのように感じてしまうかもしれません。
しかし、本来、非正規労働者を使うのは、会社の側に一時的・臨時的な必要がある場合に有期雇用労働者を雇うという形をとるべきで、会社にとって必要不可欠な仕事を契約期間を定めた労働者にさせるというのは本末転倒なのです。会社にとって必要不可欠な仕事をどんどん有期雇用労働者にゆだねることが増え、現在では非正規雇用労働者が全体の4割、若い人の中では5割を超えるようになってしまいました。
非正規雇用労働者は、正社員に比べて賃金が低いこと、そして雇止めにあいやすいといった不安定な状態におかれています。このような状況を改善しなければならないというのは政府もいっていることなのです。

 

Q 雇止めを避けることはできるの?
A 大切なことは、理不尽な雇止めを受け入れるべきではないということです。
契約をこれ以上更新しないといわれたときには、その理由は何かということを尋ねましょう。できれば書面で雇止め(更新拒絶)の理由を明らかにさせるべきです(労働基準法22条1項)。
気をつけるべきなのは、「今回で最後の更新です、次回は更新しませんということを契約書に記載し、この書面に署名押印しなければ更新しない」といわれたときの対応です。雇止めされることを承諾したような書面を作成されることになってしまいます。このような書面には簡単に署名押印しないようにしましょう。
雇止めを受けそうになったら弁護士や労働組合などの労働相談に相談してみることをおすすめします。東海3県では東海労働弁護団が毎週1回電話で無料相談を受け付けています。「東海労働弁護団」で検索してみてください。

 

というわけで、最後は私も所属している東海労働弁護団の宣伝をさせてもらいました。
北野さんをはじめパーソナリティーの方々とは直接打ち合わせをしないままインタビューを受けたのですが、北野さんは本当に普通の会話を楽しむように自然に質問をしてくれ、素直に答えることができました。
安倍内閣は8月の内閣改造で「働き方改革担当相」なるものを設置して、雇用制度改革を実現しようとしているようですが、本当に働く者のためになる改革が実現できるのか、非正規労働者の拡大に歯止めをかけ、非正規労働者の権利が強められるかどうかが一つの鍵になると思います。

会社が辞めさせてくれない・・・

1 退職の自由

労働問題に関する法律相談をお受けする中で、「辞めたら損害賠償を請求すると言われ、怖くて退職できないが、どうしたらいいか」、「辞めたくて、退職願いを出したのに、何度も呼び出されて延々と説得され、辞められない」等のご相談が、数年前から増えているように感じています。

これらのご相談に端的にお答えするとすれば、原則として「辞めるのは、労働者であるあなたの自由ですよ。」ということになります。

法律上の原則について知っておくことが、確信をもって行動できることにつながりますので、今回は、退職の自由という原則に関して、法律ではどのように規定されているのかというお話をさせていただこうと思います。

2 退職の自由は法律で認められてます

(1)民法627条1項

まず、辞職(退職)というのは、労働者による労働契約の一方的解約のことです。これに対し、労働者と使用者が合意によって労働契約を将来に向けて解約するのは、合意解約です。なお、使用者による一方的な解約は、解雇です。

先程、辞めるのは自由ですと申し上げましたが、その原則は、民法627条1項で規定されています。

民法
(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
627条
1 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申し入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申し入れの日から2週間を経過することによって終了する。

ここで規定されているように、雇用期間に期限の定めのない労働契約、いわゆる正社員の場合、各当事者は2週間の予告期間をおけば「いつでも」(=いつでも、またいかなる理由があってもという意味とされています)解約できるとされ、解約の自由が原則とされています。

(2)退職の自由が認められる理由

民法の規定としては、このように契約当事者双方に「解約の自由」を保障した形になっていますが、使用者側からの解約(=解雇)は、経済的・社会的に使用者より圧倒的に弱い立場にある労働者に与える打撃が著しく大きいために、労働法規による規制を受け、大きく修正されています。

これに対し、労働者側からの解約(=辞職)は、職業選択の自由(憲法22条)や奴隷的拘束の禁止(憲法18条)という憲法上の人権が保障されていることの帰結として、修正を受けることなく原則として認められており、労働者側からの退職の意思表示が使用者に到達してから2週間を経過すると労働契約は終了することになります。

(3)退職の手続ー退職の予告について

長期の予告期間

先ほどの予告期間については,2週間より長く定めた就業規則や労働契約の定めがされている場合がありますので注意が必要です。

民法627条1項に反して2週間以上の予告期間を定めたとしても無効だとの説と退職の自由を不当に拘束しない限り2週間以上の予告期間の定めも有効とする説があります。

しかし、特段の必要性もないのに1か月を超えるような長期の予告期間を設ける規定は退職の自由を不当に拘束するものと評価されてその規定は無効となり、民法上の2週間を経過すれば労働契約は終了するものと考えられます。

予告の時期の例外

また,純然たる月給制(遅刻、欠勤による賃金控除がない)の場合は、解約は翌月以降に対してのみなすことが出来るとされています。しかも、当月の前半においてその予告をなすことを要するとされています。

(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
627条
2 期間によって報酬を定めた場合には、解約の申し入れは、時期以後についてすることが出来る。ただし、その解約の申し入れは、当期の前半にしなければならない。

さらに、6か月以上の期間によって報酬を定めた場合(年俸制など)は、3か月前に予告をすることが必要とされています。

(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
627条
3 6箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申し入れは、3箇月前にしなければならない。

3 期間の定めのある雇用契約の場合

いわゆるアルバイトやパートなどの有期雇用契約については、期間中の契約の拘束力は尊重されるべきであるということから、原則として期間中は労働契約は解約できず、「やむを得ない事由」がある場合にのみ、ただちに解約できるとされています。

いかなる場合が、「やむを得ない事由」がある場合に当たるかについてですが、賃金不払い本人の病気パワハラなどは勿論、就業環境労働者・家族の健康状態等に鑑み、やむを得ないと言えるのであれば、「やむを得ない事由」に該当するといって比較的緩やかに解していいのではないかと思われます。

(やむを得ない事由による雇用の解除)
628条
当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。

ただし、労働基準法137条により、契約期間の初日から1年以後においては、労働者はいつでも退職できるとされています(専門的知識を有する労働者および60歳以上の労働者との有期契約には適用されません)。

労働基準法
137条
期間の定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き、その期間が1年を超えるものに限る。)を締結した労働者(第14条第1項各号に規定する労働者を除く。)は、労働基準法の一部を改正する法律(平成15年法律第104号)附則第3条に規定する措置が講じられるまでの間、民法第628条の規定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から1年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる。

4 辞めさせてもらえない場合

さて、原則は以上の通りですといっても、実際には、労働者が辞職の申出をしたところ、使用者が「辞めるなら損害賠償請求をする」と言ってきたり、引き継ぎに不備があったなどとして労働契約上の義務違反を理由に損害賠償をすると言ってくる場合が、しばしばあります。

ただ、実際に損害賠償をしてくることは、稀ですし、法律の手順を守って辞職(退職)する限り、万一損害賠償請求がされたとしても、それは使用者側の損害賠償請求行為の方が不当ですから、そのような請求が認められるものではありません。

また、労働者の会社に対する恩義や、忠誠心、同僚に対する気兼などの気持ちを利用して、退職に踏み切らせないように会社が働きかける場合もあります。

しかし、長い職業生活を考えた場合、会社側の種々の「脅しの手段」を恐れて、辛い中を我慢して働いて身体を壊したり、転職の機会を逃すことは、決して得策ではありません。

それでも、実際には、ご自分では判断に迷ったり、事実上、会社にどう対応していったらいいのか等について苦慮することもあるかと思います。そのようなときは、是非、早目にご相談いただければと思います。

弁護士 兼松洋子

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