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第43回友の会総会をふりかえる ~「ご飯論法」「呪いの言葉」を超えて言葉の力を取り戻す~

講師
法政大学キャリアデザイン学部
教授 上西 充子さん
はじめに
2018年の「働き方改革」国会審議をきっかけに、上西充子さんは国会答弁に強い問題意識を持たれるようになりました。国会パブリックビューイング、「ご飯論法」「呪いの言葉」などの分析を通じ、言葉の力について講演されました。
国会パブリックビューイングと「ご飯論法」
マスコミ報道では、「野党は反発」「首相はかわした」といった表現が繰り返されるだけで、本質的な問題点や政策への疑問は市民に伝わりません。そこで、国会の生の姿を伝えたいと上西さんは「国会パブリックビューイング」を始めました。生のやり取りを見ることで、市民自らが論点のすり替えや責任逃れの手法「ご飯論法」に気づくきっかけをつくりました。
都合の悪い事実を巧妙に隠す「ご飯論法」
「ご飯論法」とは、問いにストレートに答えず、論点をすり替え責任逃れをする政治的答弁です。「朝ご飯は食べましたか?」と問われて「ご飯は食べておりません」と答え、実はパンを食べていた事実を隠すような論法です。安倍政権や加藤厚労大臣、菅・岸田政権下で多用されてきました。例えば、働き方改革の国会審議で、加藤厚労大臣は、裁量労働制の違法適用の対象になっていた労働者が過労死した事件について「労災で亡くなった方の状況について逐一私のところに報告が上がってくるわけではございません。一つ一つについてそのタイミングで知っていたのかと言われれば、承知をしておりません。」と答弁しました。実は知っていたということを言いたくないので、一般論に紛れこませ、「一つ一つ来ていたかと言われれば、承知をしておりません」と話をずらして、あたかも知らなかったという答弁をしたのです。
思考の枠組みを縛る「呪いの言葉」
「呪いの言葉」とは、自分に都合のいい形で相手を黙らせるような言葉です。例えば「嫌なら辞めればいい」「ダラダラ残業」「野党は反対ばかり」といった言葉は、言われた当事者にとっては個人の問題にすり替えられてしまい、発言できなくなります。「男のくせに泣くな」「お母さんなのだから」などの決まり文句が人々を沈黙に追い込みます。上西さんは、こうした言葉に対して対抗するためには、相手の土俵に乗らず、本質的な問い返しを行い、構造を可視化することが有効だと示されています。
「ヒールを履かなくていい職場はたくさんある」という「呪いの言葉」に対し、「私はここで働きたい。でもヒールは履きたくない」と返すだけでなく、「なぜヒールを強制するのか」と問い返すことで相手に説明責任を移し、問題の本質を明らかにします。
「灯火の言葉」(エンパワーメントの言葉)
「灯火の言葉」は、相手に力を与えて力を引き出して主体的な言動を促す言葉です。「よく頑張ったね」「ありがとう」「あなたのおかげで助かった」といった過去の努力や行為を丁寧に認めるフィードバックが人を勇気づけます。
ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』で、「交渉は大事です」という平匡さんの言葉に、みくりさんは努力が報われた気持ちになりました。映画『サンドラの週末』では、打ちのめされていた主人公に「あなたがいたから社長が譲歩した」という一言が主人公を再起させました。
言葉には社会を変える力もあります。「私は黙らない」「多様性を力に」「生活保護は権利」といったポジティブな言葉は、政策や空気を動かすきっかけとなります。
「#差別に投票しない」は、そのシンプルさゆえに市民が手に取り、拡散できる新しい「灯火の言葉」となりました。
終わりに
ドラマ『舟を編む』で「うまくなくていい、言葉にしてください」と語られます。誰もが自分の言葉で思いを表現し、「灯火の言葉」で互いを励まし合う社会をめざすことがよりよい社会への第一歩となります。
一方で、「日本人ファースト」は、言ってはいけないとされていた排外的な言葉を言ってもいいかのように変えてしまいました。「呪いの言葉」が日常に組み込まれるのは「空気」ゆえです。同じ空気に「灯火の言葉」を混ぜれば、沈黙の圧力を和らげられます。言葉は空気をつくり、空気は行動を決め、行動は制度を動かします。
上西さんは「見せる・問い返す・言い換える」という三段構えで、誰もが自分の言葉で、自分の思いを表現できることこそが大切だと述べられました。
講演を聞いて
上西さんは、具体的な国会答弁から「ご飯論法」を明らかにし、社会に氾濫する「呪いの言葉」を超える方法を示してくださいました。さらに、身近なドラマや映画の言葉から「灯火の言葉」を示して、言葉の力を取り戻していく人々の姿を教えていただきました。
私の印象に強く残った言葉に、上西さんが紹介された「戦争の反対概念は平和ではなく対話だ」があります。憲法に基づいて平和を守ろうということを、なんと簡単な言葉で示すのでしょう。言葉の力で変えていくってこういうことかと思いました。
私たちに、黙らせる言葉に抗い、「灯火の言葉」を育てていくという希望を示してくれる上西さんの講演でした。
この記事の担当者

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ブログ更新履歴
- 2025年10月9日スタッフブログ第43回友の会総会をふりかえる ~「ご飯論法」「呪いの言葉」を超えて言葉の力を取り戻す~
- 2025年1月7日スタッフブログ遺言書を書いてみよう
- 2024年3月29日スタッフブログ健康フェスタに参加しました
- 2024年1月22日遺産・相続解決事例をご紹介 こんなお困りごとありませんか?-相続-