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第44回友の会総会をふりかえる インターネットが変える民主主義のかたち〜SNS時代の政治参加とポピュリズム〜
成蹊大学文学部 現代社会学科 教授
講師 伊藤 昌亮さん
5月23日、成蹊大学文学部の伊藤昌亮教授を講師としてお招きし、「SNS時代の政治参加とポピュリズム~高市現象とその背景~」というテーマでご講演いただきました。
はじめに
近年、SNSを通じた政治参加が急速に広がっていますが、そのような中で、「なぜ高市内閣の支持率がこれほど高いのか?」「なぜ従来型のリベラルな主張が有権者に響きにくくなっているのか?」といった疑問を抱いている方も多いのではないでしょうか。
今回の講演は、そうした現象を単なる「政治」の問題としてではなく、社会やメディア環境の変化を踏まえた「社会現象」として分析する内容であり、大変示唆に富むものでした。
政治参加の変化
講演の中でも、特に印象に残ったのは、「政治参加」のあり方そのものが大きく変化しているという指摘です。
従来は、政策を理解し、政党や労働組合、地域組織などを通じて政治に関わるという形が一般的でした。ところが、現在はそうした中間組織が弱体化し、個人がSNSを通じて直接政治に接する時代になっています。
しかも、現在のSNSは、かつてのように「フォローしている人の文章を読む」世界ではなくなっています。X(旧ツイッター)やYouTube、TikTokやインスタグラムなどでは、アルゴリズムの働きでユーザーが好みそうなショート動画が次々に流れてくるようになっており、人々は大量の短い動画を無意識に見続けるようになっています。
その結果、政治家も「政策」より「キャラクター」として消費されるようになった、という分析は、非常に考えさせられるものでした。
高市総理のショート動画では、「ポジティブ」「元気」「打たれ強い」「果断である」といったイメージが強調され、これらのショート動画を見た人は、政策内容よりも、「この人のように生きたい」「応援してくれるから応援したい」という感情を抱くのだそうです。つまり、政治家が「社会をどう変えるか」を語る以前に、「自分自身がどう生きたいか」という自己啓発的な感覚が、人々の政治参加に影響を与えているというのです。これは従来の政治観からすると違和感のある話ですが、SNS時代の現実として理解する必要があるのだろうと思いました。
こうした話を踏まえ、講演の途中では、実際に、2026年衆院選の際に多くの「いいね」を集めていた高市総理のショート動画が紹介されました。その内容は、具体的な政策を説明するものではなく、高市総理の庶民的な一面を紹介するものや、「倒れる寸前まで国会で頑張っている」といったイメージを強調するもの、あるいは抽象的なスローガンだけを切り取ったものでした。
私自身、これらの動画を見るのは初めてでしたが、正直なところ、「庶民的な一面を紹介されても、タレントの人気投票ではないのだから、投票先を選ぶ理由にはならないのではないか?」「首相が国会で頑張るのは当然ではないか?」「具体的な政策の中身を語らない政治家は信用できない」と感じました。むしろ、このような動画では票を減らすのではないかとさえ思ったほどです。
しかし、現実には、このような動画が多くの支持を集め、実際の選挙結果にも結びつきました。その意味で、自分自身の従来の感覚だけで現在の政治状況を理解したつもりになるのではなく、「なぜこのような動画が人々の心を動かすのか」を考える必要があるのだと強く感じました。
三つの対立軸
講演では、現在の政治対立は、従来の「右か左か」という対立軸だけでは説明できないという指摘もありました。
伊藤教授は、現在の社会には、「左右対立」に加え、「新旧対立」と「上下対立」という三つの軸が存在すると説明されました。この中で特に興味深かったのは、「新旧対立」という考え方です。
若い世代や、既存の組織に属さない人々の間では、「オールドメディア」「既得権益」「古い制度」に対する反感が強まっており、「新しいもの」「変化」「デジタル化」を掲げる政治家や政党に支持が集まりやすくなっているというのです。
また、「上下対立」の説明も印象に残りました。かつての「格差問題」は、富裕層と貧困層(明白な弱者)という分かりやすい対立でしたが、現在は中間層の内部で、「恩恵を受けられる人」と「受けられない人」が分かれ始めているとのことでした。
大企業の社員や公務員は、賃上げや投資利益を享受する一方、自営業者や中小企業の社員、非正規雇用の人々は、再分配はほとんど受けられず、物価高や負担増の影響を強く受けています。そして、こうした「自分たちは頑張っているのに従来の明白な弱者への救済ばかりが強調されて、自分たちは報われない」という感覚を抱く人々(曖昧な弱者)に対し、「積極財政」「減税」「成長投資」といったメッセージが強く響いているという説明には、現在の政治状況を理解する上で大きな説得力を感じました。
講演を聞いて
講演全体を通じて感じたのは、現在起きている政治現象を、単純に「有権者が間違っている」「SNSに踊らされている」と切り捨てるだけでは本質を見失ってしまうのではないかということです。
もちろん、ショート動画による「イメージ先行」の政治には危うさがあります。講演でも、SNSによって人々の感情的な「速い思考」が強化され、じっくりと理性的に考える「遅い思考」が弱くなっているという問題提起がありました。
しかし一方で、なぜ多くの人がそのようなメッセージに惹かれるのか、その背景にどのような不安や閉塞感があるのかを理解しようとする姿勢も必要なのだと思います。
私自身、これまでの政治参加のイメージにどこかとらわれていた部分があったように感じました。「政策を丁寧に説明すれば理解されるはず」「正しいことを訴えれば支持されるはず」という考え方だけでは、現在の社会を十分に説明できないのかもしれません。
その意味で、今回の講演は、「これまでの常識にとらわれずに考えること」の重要性を改めて感じさせる内容でした。
もっとも、今回の講演は決して悲観的な内容だけではありませんでした。
伊藤教授は最後に、「曖昧な不満や不安を丁寧に聞くこと」の重要性を強調されていました。
社会の分断が深まる中で、特定の「敵」を作って対立を煽るのではなく、人々がなぜ不安を感じているのか、その背景を丁寧に理解しようとすること、その姿勢こそが、これからの社会や政治にとって重要なのではないかと思います。
SNS時代の政治参加には難しい問題も多くあります。しかし、社会が大きく変化しているからこそ、私たち自身もまた、新しい現実を理解しようとする努力を続けていく必要があるのだと感じた講演でした。
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