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検察官は本当に公益の代表者??

弁護士 吉川哲治

1 2024年10月は、袴田事件の再審無罪判決が確定したり(9日)、福井女子中学生殺人事件で再審開始決定が出て(23日)、名古屋高等検察庁が異議申立てを断念したりと(28日)、再審事件でのビッグニュースが相次ぎました。


 そこで、これらの再審事件を普通に取り上げようかとも思ったのですが、どちらの事件も、捜査機関による証拠の捏造や隠匿について裁判所が厳しく非難をしているという特徴があり、少し遡れば、大川原化工機事件での証拠開示を巡る検察官の不誠実な対応や、プレサンス事件での担当検察官による不当な取調べなど、検察官による不当な訴訟態度等が放置できないレベルにまで達しているように思われましたので、表題のテーマで話をしたいと思います。

2 袴田事件では


 今年9月26日、袴田さんに再審無罪判決を言い渡した裁判所は、「犯人性を推認させる最も中心的な証拠とされてきた5点の衣類は、捜査機関によって捏造されたものと認められる」と糾弾しました。
 このような場合、裁判所は、「捏造された可能性を否定できない」といった表現でお茶を濁すことが多いのですが、事案の重大さから、捜査機関に猛省を促すためにも、このような認定をしたのでしょう。
 なぜ捏造されたと判断したのかについての解説は省略しますが(参照:袴田事件弁護団HP)、これらの捏造を実際に行ったのは恐らく警察ではないかと言われています。
 しかし、捏造そのものには関与しなかったと思われる検察官も、実は裁判所に対して重大な証拠隠しをしていました。
 すなわち、衣類が捏造されたと判断された理由の1つとして、ズボンのサイズが小さすぎて袴田さんが穿けなかったということがあるのですが、当初はズボンは穿けたと判定されていて、その理由とされたのが、ズボンの裏地に記された「B」という文字は「Bold」(太い)の頭文字と解釈されていたということがあります。ところが、実際は「B」という文字は、ズボンのメーカーが色の記号として付していたもので、そのことが分かる証拠を検察官はずっと持っていたのに、裁判所に対してその証拠を隠し続けてきたのです。
 この証拠が最初から開示されていれば、袴田さんは最初から無罪になっていた可能性もあるのですから、検察官の証拠隠しは大変罪深いと言えるでしょう。

3 福井女子中学生殺人事件では

 この事件は、今から約38年前に発生した、女子中学生が自宅で何者かに殺害されたというものです。
 当初、被害者と交友のあった非行グループのリンチ殺人の疑いが強いとして捜査が行われていたものの、何の手がかりも得られず捜査が暗礁に乗り上げていたところで、事件発生から約1年後に、ある暴力団組員が、自分の刑を軽くしてもらうことや留置所での待遇を良くしてもらうことを期待して、事件現場付近で前川さんを目撃したなどと捜査機関に証言し、これに追随する目撃証言が他にも得られたことで、前川さんが事件の犯人であるとされてしまいました。
 もっとも、前川さんと事件を結びつけるような客観的証拠は何もありませんでしたし、後から得られた目撃証言というのも、最初に証言した暴力団組員の仲間による証言で、その内の1人は1審の終盤で証言を覆しており、およそ信用できないものでした。また、これは後の再審請求中に明るみに出たことですが、証言者のうち、前川さんの後輩に当たる男性が、警察で事情聴取を受けた際に、前川さんを目撃したと最初に証言した暴力団組員から、前川さんの事件への関与を認めるよう恫喝されたということもありました。
 その結果、1審の福井地裁は、前川さんを犯人とする物的な証拠や目撃者がなく、具体的な犯行を明らかにする証拠もなく、前川さんを犯人とする証人の証言は信用できないとして、無罪としました。
 ところが、2審の名古屋高裁金沢支部は、暴力団関係者の証言を「大筋で一致する」とか、「可能性がある」「それなりに首肯できる」などと認定し、この証言のみで逆転有罪判決を言い渡し、最高裁もこれを追認してしまいました。
 こうして前川さんは、身に覚えのない冤罪によって刑務所に収監されてしまったのですが、満期出所した後で、何としても濡れ衣を晴らしたいと、再審請求をしました。
 最初の再審請求に対して、名古屋高裁金沢支部は再審を開始する決定を出しました。しかし、検察が異議申立てをしたところ、名古屋高裁は再審開始決定を取り消してしまい、最高裁も再審開始を認めない決定をしてしまいました。
 しかし、前川さんと弁護団は諦めず、2022年10月に2回目の再審請求を行いました。この2回目の再審請求において、最初の再審請求でも開示されていなかった証拠が追加で開示されたのですが(開示に消極的な検察に対し、裁判所が再検討を促してようやく開示されたものでした)、新たに開示された証拠からは、警察官が当初、「見え透いたうそを述べている」などと、目撃証言の信用性に疑問を抱いていたことなどが明らかとなりました。
 また、前川さんを事件当日に現場付近で見かけたと証言した目撃者が、その証言の信用性を高めるために、事件当日にあるテレビ番組のあるシーンを見たと言っていたのですが、実際には、事件当日にはそのシーンは放映されておらず、1週間後に放映されていたということも明らかとなりました。
 そして、より重大な事実として、この目撃者の嘘が発覚したことを、検察官が公判中に把握していたことも明らかとなりました。つまり、検察官は、目撃者の証言が嘘であることを知っていながら、そのことを裁判所に報告せず、いわば裁判所を騙して前川さんを有罪にしようとしていたのです。
 この公判中の検察官の対応につき、再審を担当した裁判所は、「公益を代表する検察官としてあるまじき、不誠実で罪深い不正な行為といわざるをえず、適正な手続きを確保する観点から到底容認することはできない」と厳しく批判しました。裁判所がここまで強い言葉を使うことは滅多にありませんから、検察官の対応を見過ごせないという裁判所の強い思いが伝わってくると言えるでしょう。

4 検察官に求められる姿勢

 犯罪が起こったときに、犯人を、どのような罪で起訴するかは、唯一検察官にだけ認められていることです。そして、刑事裁判においては、被告人の有罪を立証するために、検察官は全力を尽くすことになっています。
しかし、被告人の有罪を立証するためであれば、どのような手段を取っても良いということはありません。被告人の無罪を証明することになる重要な証拠を隠すなどということが許されるはずはないのです。
 そもそも、捜査機関により集められた証拠は、全てが開示されるのが当たり前なのですが、未だに全面的証拠開示は認められていません。それを良いことに、検察官は自分たちに都合の良い証拠だけしか出そうとしませんが、そのような態度は許されないと二つの再審事件の裁判所が断罪したわけです。
今こそ検察官には、その責任の重大さを自覚し、「公益の代表者」(検察庁法第4条)として相応しい高潔な姿勢を見せて欲しいものです。

以上

この記事の担当者

吉川 哲治
吉川 哲治
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