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推し活と法

弁護士 中川 亜美

 最近、推し活ブームで、様々なメディアで推し活が取り上げられています。推しから元気がもらえる、仕事を頑張れる、励まされるなど、いろんな理由で推し活をされている方も多いと思います。その一方で、何らかのトラブルに巻き込まれるということも少なくありません。

 今回は、「チケットトラブル」についてお話いたします。

1 トラブルの事例

 海外アーティストや人気アーティストのライブ等チケットが取りにくい公演では、SNSなどで「チケット譲ります。気になる方はDMください」等の投稿を見たことはありませんか。

 そして、このような投稿をきっかけに、「チケット代金を支払ったら売主と連絡がとれなくなった」「公演直前に売主がキャンセルしたいといってきた」「転売仲介サイトを利用したがチケットが利用できなかった」などのトラブルが多数発生しており、国民消費者センターも注意喚起[1]を行っています。

2 そもそもチケットの転売はいいの?

 チケットの取引に関して、「チケット不正転売禁止法」[2]という法律があります。この法律は、特定興行入場券の「不正転売」と、不正転売を目的として譲り受けを禁止し、処罰の対象としています。

 「不正転売」とは、次の要件を満たす転売行為のことをいいます。(法2条第4項)

① 興行主の事前の同意を得ない

② 業として行う(=反復継続の意思)

③ 販売価格を超える価格で転売

 実際に、法律施行後の2020年、某人気アイドルグループのコンサートやイベントのチケット(電子チケット)を3人に4万~13万3000円で転売し、自身の顔写真を貼り付けた身分証明書で入場した人が、懲役1年6ヶ月(執行猶予3年)、罰金30万円の有罪判決となった事件がありました。

3 特定興行入場券でなければいいの?

 「特定興行入場券」は、一定の要件を満たした入場券のことをいい、要件を満たさない場合には、この法律の対象となりません。

 しかしながら、この法律の対象でないからと言って転売が自由というわけではありません。主催者が「転売禁止」としていた場合には、契約違反になり、チケットが無効とされ、入場できない可能性があります。

4 詐欺被害も多い!

 SNS等でチケット転売をしている投稿の全てというわけではありませんが、取引の相手が信用できるかどうかも重要です。SNSのみのつながりですと顔がわからない分、「チケット代を送金したのにチケットをもらえなかった。」等のトラブルにつながりやすいです。「身分証明書を画像で交換すれば安心」と思われる方もいるかもしれませんが、その身分証明書が第三者から入手した画像である可能性や、合成である可能性も否定できません。実際に会話したことのある人同士でも、詐欺被害が発生することもあります。

5 自己防衛をしましょう

 被害金額にもよりますが、金銭回収の可能性と弁護士費用等を検討すると、なかなか被害の回復にいたらない場合が多いです。推しのためのお金が、無駄になるどころか転バイヤーや詐欺師の懐に入るというのはなんとか阻止したいところです。また、チケットが無効となった結果、座席に穴を開けるのも避けたいですよね。

 素敵な推し活のために、「推しに会いたい」という気持ちを少し落ち着かせて、「推しが喜ぶだろうか」という視点を忘れないようにしましょう。


[1] https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20220804_2.html

[2] 正式名称:特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律

この記事の担当者

中川 亜美
中川 亜美
名張毒ぶどう酒事件をきっかけに弁護士を目指し、これまで多くの方々の力添えがあってこそ、この職に就くことができました。人権が蔑ろにされない健やかな社会を目指して日々精進してまいります。
 「困り事や不安事があってどうしたらよいかわからない。」そんな不安が法律で解消されるかもしれません。私は、皆様と法律のパイプ役となり、皆様の健やかな将来を創るお手伝いをしたいと思っております。気軽にご相談ください。

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