社会保障

CASE REPORT事件報告 生存権裁判(いのちのとりで愛知訴訟)

事件概要

2013年、厚生労働大臣は「物価下落」等を理由に生活保護基準(生活費部分)を最大10%も引下げた。

 ところが、「物価下落」は見せかけであった。生活保護基準を検討するにあたって基礎となるデータや基準時が、物価が下落したとの結果となるように恣意的に選択されていたのである。

 このような生活保護基準の引き下げが憲法25条で保障される生存権の侵害及び生活保護法第8条に違反するとして、全国29都道府県で1000人を超える原告が裁判を起こした。

-愛知訴訟の経過-

2014年7月31日 名古屋地裁へ提訴
2020年6月25日 第1審判決(棄却)原告控訴
※9年に渡る裁判のため、裁判中に原告2名が亡くなり、心身の不調により訴訟の継続を断念した方もいる。

2023年11月30日、名古屋高等裁判所民事第2部(長谷川恭弘裁判長)において、歴史的な逆転完全勝訴判決が下されました。

裁判の争点

 生存権裁判(いのちのとりで裁判)は、2013年に厚生労働大臣が生活保護基準を最大10%も引下げたことにより生活保護利用者の生存権が侵害されたとして、引下げ処分の違憲・違法を争っているものです。

 この裁判の主な争点は、引下げ処分にあたり、厚生労働省が、物価による調整をする場合に本来用いるべき「水準均衡方式」を用いずに、「ゆがみ調整」「デフレ調整」という手法を用いた点にあります。  いずれも厚生労働省が生活保護の引下げをするために用いられた手法で、利用されるデータや選択される基準時などの点で、物価水準が大幅に下がっているように見せかける仕組みになっています。そうした、本来あるべき方法とは異なる方法を恣意的に用いて引下げを行ったことは、明らかに裁量権を逸脱し違法であるというべきなのですが、第1審判決では「生活保護に対する国民感情」を根拠に引下げ処分は全て適法と判断されました。

歴史的判決

 そして、名古屋高裁判決は、これらの問題点を克明に指摘し、いずれも違法と判断しました。そればかりか、引下げ処分により生活保護受給者が被った精神的苦痛は処分を取り消しても回復できない損害であるとして国家賠償も認められました。
 控訴審判決は、国家賠償を認める理由中で、「健康で文化的な最低限度の生活」について、「人が3度の食事ができているだけでは、生命が維持できているというにすぎず、到底健康で文化的な最低限度の生活であるといえないし、健康であるためには、基本的な栄養バランスのとれるような食事を行うことが可能であることが必要であり、文化的といえるためには、孤立せずに親族間や地域において対人関係を持ったり、自分なりに何らかの楽しみとなることを行うことなどが可能でなければならない」という画期的な判断を示しました。
 生存権裁判は全国各地で行われており、名古屋高裁判決時点での各地裁判決は12勝10敗でしたが、名古屋高裁判決を経て、その後も津(三重)や富山などの各地裁で原告勝訴判決が続いています。
 この判決を受けて、国や自治体は上告をしていますが、生活保護基準の改定や引下げ処分が違法であることは明らかであり、これ以上、生活保護受給者を苦しめることは許されません。名古屋高裁判決の判断をまさに基準として、国民の「健康で文化的な最低限度の生活」が守られていくことを願います。

国に「重過失あり」と初の賠償命令 2023年11月30日
名古屋高裁で「逆転完全勝利」判決
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2023年11月30日
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「いのちのとりで」ホームページ
https://inochinotoride.org

この記事の担当者

金井 英人
金井 英人
法曹を志してから弁護士になるまで、人よりだいぶ長い時間がかかってしまいました。私の二十代は挫折の繰り返しでしたが、そうした中で感じた不安や心細さ等の経験を、少しでも皆様の安心のために役立てることができればと思います。

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