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インターネットでの匿名の投稿から「特定」されるまで

弁護士 金井 英人

1 はじめに

 インターネット上のSNSや匿名掲示板での誹謗中傷について、裁判所が投稿者に対し損害賠償を命じるケースがたびたび報道されています。その一方で、SNS上の匿名の知人から「(住所と名前を)特定してやる」と脅されたというご相談もあったりします。

 そこで、インターネット上のSNSや匿名掲示板に誹謗中傷を書かれたり書いてしまったりした場合に、どういう流れで住所や氏名が特定されるのか、簡単にご説明したいと思います。

2 住所・氏名などの情報はどこにあるのか?

 まず、インターネットを利用する人の住所や氏名がどこに記録されているのかについてですが、それは、個々人がパソコンやスマートフォンでインターネットを利用するため契約をした「経由プロバイダ会社」にあります。携帯電話の場合はそのキャリアが経由プロバイダ会社になります(以下「プロバイダ」と表記します)。

 つまり、インターネットを利用するにあたって接続のサービスを提供してくれる会社のことで、個人でインターネットを利用する以上は、誰しも住所や氏名を書いて契約をしているはずです。

 つまり、投稿者を「特定」するためには、プロバイダに住所氏名などを開示してもらえばよいわけですが、プロバイダも多数ありますので、その投稿をした人物がどこのプロバイダ会社を利用していたかを調べるにはどうしたらよいのでしょうか。

3 プロバイダがわかるまでのしくみ

 実は、私達がパソコンやスマートフォンなどでインターネットに接続するときには、毎回プロバイダ会社から「IPアドレス」という番号の割り当てを受けています。以下、少しでもわかりやすいようにイメージでご説明します。

 この「IPアドレス」は“123.456.789.1”といったような番号の組み合わせで、インターネットを利用するときにプロバイダから貸し出される名札のようなものだと思ってください。

 そして、その名札には、番号と一緒に利用しているプロバイダの名前も書かれているのです。

 つまり、インターネットで投稿をするときには、どこのプロバイダを使っているのか、名札を借りているのは誰なのかを公表して投稿しているようなものなのです。

 しかも、投稿をしたときには、どの名札を付けた人が、何時何分何秒に投稿をしたのかが、匿名掲示板やSNSの運営会社に毎回記録されていくのです。

 そうすると、匿名の投稿者を「特定」するためには、その投稿がされたSNSや匿名掲示板の運営会社に、「この内容の投稿をした人の名札の記載(IPアドレスとプロバイダ)を教えてください。」と質問(発信者情報の開示請求)をして、それを教えてもらえば、その投稿をした人が、「何時何分何秒に、どこのプロバイダのどの名札(IPアドレス)を付けていたのか」が分かってしまうのです。

4 プロバイダに住所氏名を開示してもらう手続

 その次に、プロバイダに対して、「何時何分何秒にこの名札(IPアドレス)を付けていた人の契約情報(住所・氏名・メールアドレス・電話番号など)を教えてください。」と質問して、これを教えてもらえれば、その投稿をした人の住所・氏名などが判明するのです。

 ところが、住所や氏名は個人情報ですし、SNSや掲示板への投稿は本来「表現の自由」で保護されるべきものですから、プロバイダも簡単には情報開示をしてはくれません。

 そのため、プロバイダを相手取って訴訟を起こし、裁判所が「この投稿は名誉毀損にあたる」と判断すれば、裁判所からプロバイダに対して、契約者情報を開示するように命令を出してもらえます

 そこまでしてようやく、投稿者の「特定」にいたるわけです。

5 問題点と法改正について

 ここで問題なのが、特定にいたるまでに時間と費用が掛かりすぎるということです。

 特に、SNSや匿名掲示板を海外の会社が運営している場合、さらに時間と費用がかかってしまいます。

 もう一つ、IPアドレスなどの発信者情報はいつまで記録が残っているのかについてですが、会社によって異なりますが、1ヶ月も立たずに消去されてしまうこともあります。

 そういった点で投稿者の特定には難しい問題が多々あるのですが、2021年4月に、「プロバイダ責任制限法」が改正され、裁判所の命令として「発信者情報開示命令」や、発信者情報の「消去禁止命令」などが新設され、そうした命令を比較的簡易に出してもらうことができるようになりました。

 ですが、まだまだ早急な対応が必要な分野であることは変わりません。インターネット上で誹謗中傷されたらすぐに専門家に相談をするということが大切です。

この記事の担当者

金井 英人
金井 英人
法曹を志してから弁護士になるまで、人よりだいぶ長い時間がかかってしまいました。私の二十代は挫折の繰り返しでしたが、そうした中で感じた不安や心細さ等の経験を、少しでも皆様の安心のために役立てることができればと思います。

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