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食物アレルギーの表示と法律

弁護士 金井英人

1 食物アレルギー


食物アレルギーと聞いて,どんな食べ物を食べたときにどんなアレルギーが出るのかというイメージがつきますでしょうか。みなさんやみなさんの身近にもアレルギーと向き合っている方がいらっしゃるかもしれませんが,ここでは医学的なお話しではなく,食物アレルギーに関する法律について少し紹介してみます。

食物アレルギーは,特定の食べ物を口にしたときに身体の免疫が過剰反応して,腹痛,咳,じんましん,下痢,嘔吐などさまざまな症状を引き起こしたり,アナフィラキシーショックや呼吸困難など命に関わる重篤な症状を起こしたりするものです。それまで普通に食べていたものでも,ある日突然アレルギーを発症するということもあります。

そうした危険を回避するために,近年,アレルギーの原因(アレルゲン)を表示することを定めた法律が整えられていっています。

 

2 食品の表示に関する法律


最近まで,食品の表示について独立して定めた法律というものはなく,「食品衛生法」「JIS法」「健康増進法」の3法の中の一部として扱われていました。このうち「健康増進法」ではカロリーや脂質などの栄養を,「JIS法」では原材料などを,「食品衛生法」でアレルギーなどを表示することを規定していたのです。

それが,2013年にこれら3法の中の食品表示についての規定が一元化され,独立して「食品表示法」が誕生しました(2015年施行)。

食品表示法では,食品を摂取する際の安全性,一般消費者の自主的かつ合理的な食品選択の機会の確保のために,食品に含まれるアレルゲンを表示することとされています。どんなものを表示するかは,内閣府令で決めることになっています。

 

(食品表示基準の策定等)

第四条 内閣総理大臣は、内閣府令で、食品及び食品関連事業者等の区分ごとに、次に掲げる事項のうち当該区分に属する食品を消費者が安全に摂取し、及び自主的かつ合理的に選択するために必要と認められる事項を内容とする販売の用に供する食品に関する表示の基準を定めなければならない。

一 名称、アレルゲン(食物アレルギーの原因となる物質をいう。第六条第八項及び第十一条において同じ。)、保存の方法、消費期限(食品を摂取する際の安全性の判断に資する期限をいう。第六条第八項及び第十一条において同じ。)、原材料、添加物、栄養成分の量及び熱量、原産地その他食品関連事業者等が食品の販売をする際に表示されるべき事項

二 表示の方法その他前号に掲げる事項を表示する際に食品関連事業者等が遵守すべき事項

 

 

アレルゲンの表示については,特に発症数,重篤度から勘案して表示する必要性の高いものを「特定原材料」として,

7品目:えび,かに,小麦,そば,卵,乳,落花生(ピーナッツ),

を表示することを定めています。これはみなさん目にすることが多いと思います。

 

また,特定原材料よりは症例数が少ないものを「特定原材料に準ずるもの」として,

21品目:アーモンド,あわび,いか,いくら,オレンジ,カシューナッツ,キウイフルーツ,牛肉,くるみ,ごま,さけ,さば,大豆,鶏肉,バナナ,豚肉,まつたけ,もも,やまいも,りんご,ゼラチン

消費者庁「食品表示基準について」(令和元年9月19日消食表第317号)

を表示することを定めています。ここにあがっているものがアレルゲンだということ,知っていましたか?ちなみに,ここにあがっているものが全てのアレルゲンというわけではなく,日に日に更新・追加されていっています。今年に入ってからはアーモンドが追加されました。

 

3 アレルゲンを表示することは義務なのか


では,アレルゲンを表示することは,食品を製造する者や,飲食店にとって義務なのでしょうか。

まず,「特定原材料」については,これを原材料として容器包装された加工食品等に使用した場合に,製造者はこれを表示することが義務づけられています。表示の方法についても細かい取り決めがあるのですが,それについては,今回は割愛します。スーパーやコンビニなどで売っている食品やお菓子のパッケージを実際に手に取って見比べてみてください。

一方で,「特定原材料に準ずるもの」については,これを原材料として容器包装された加工食品等に使用した場合に,可能な限り表示するように努めることとされています。つまり,義務ではありません。

また,食品を容器包装に入れないで販売する場合や,レストランなどの外食産業で提供する場合には,特定原材料の表示義務はありません。材料の仕入れや調理の過程でコンタミネーション(混入)を完全に防ぐことは難しく,これを徹底するとどうしても営業に支障がでてしまうこと等が理由です。このため,調理方法によっては,ぱっと見では特定原材料が使われているかがわかりにくく,不意にアレルゲンを口にしてしまうということがおきます。

ただ,飲食店や洋菓子店など,店舗によっては,料理やデザートごとにアレルゲンの一覧表を用意していたり,商品名の脇に特定原材料を書いていたりするところもあります。

 

4 おわりに


アレルギーと無縁な人にとっては,パッケージに表示があることくらいは知っているという感じかもしれませんが,アレルギー表示は,アレルギーと向き合っている人にとっては死活問題です。マイノリティの問題であるかのようにとらえてよいものではありません。

この表示が人の健康や命を救っている大切なものだという認識でもう一度よく見てみてください。「当事者だけが気にするものだ」という考えを持つのではなく,どんなものがアレルゲンなのかという知識を常識として誰もが身につけていくことができれば,みんなが安全に楽しく食事をすることができるようになっていくはずです。

 

参考:消費者庁ホームページ

この記事の担当者

金井 英人
金井 英人
法曹を志してから弁護士になるまで、人よりだいぶ長い時間がかかってしまいました。私の二十代は挫折の繰り返しでしたが、そうした中で感じた不安や心細さ等の経験を、少しでも皆様の安心のために役立てることができればと思います。

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