スタッフブログ
再審法の改定~「改正」点と問題点
弁護士 酒井寛
1 本年10月11日、国民救援会(冤罪事件の被害者等を救済、支援する活動を行っている団体)が開催する行事にて、刑事訴訟法を専門とする法学者の先生から、先日成立した改定再審法のお話しを伺う機会をいただきました。
2022年6月27日に「再審法の改正を求めます」というブログを掲載したこともありますので、上記の機会に学んだことも交えて、今回の改定された再審法に関し、とりわけその問題点について述べたいと思います。
2 改定再審法は、本年(2026年)7月17日に刑事訴訟法の改正という形で成立しました。なお、「再審法」という名称の独立の法律は存在せず、刑事訴訟法の再審に関する規定等を一般的に再審法といいます。
3 再審制度の概要については、以下の2022年6月27日のブログをご参照ください。
https://www.nagoyalaw.com/2022/06/%E5%86%8D%E5%AF%A9%E6%B3%95%E3%81%AE%E6%94%B9%E6%AD%A3%E3%82%92%E6%B1%82%E3%82%81%E3%81%BE%E3%81%99.html
4 改定再審法の概要
⑴ 改定前の再審法には、以下のような大きな問題点がありました。
① 証拠を捜査機関(検察官や警察官)が独占し、十分に開示(弁護人側に見せる)をさせるための規定がないこと
② せっかく再審が開始されても、再び検察官が蒸し返して、高等裁判所や最高裁判所に対して何度も 不服申立できること
③ 再審の裁判において、どういうルールの下で審理すべきかの規定がないに等しいこと
⑵ 改定再審法においては、上記の点について以下のように改定されました。
① 証拠の提出命令
裁判所は、「再審の請求の理由に関連すると認められる証拠」について、検察官に提出命令をしなければならないとされました。
② 検察官の不服申立の原則禁止
再審を開始する決定に対して、原則として、検察官が不服(「抗告」といいます)を申し立てることはできなくなりました。
③ 再審の裁判に関するルール
たとえば、審理の終結日や再審に関する決定を言い渡す日の通知等、これまでにきちんとしたルールがなかった、又は極めて不十分であった再審の審理の進め方に関して、一定のルールが設けられました。
また、(再審の対象となっている)もともとの刑事裁判に関与した裁判官が再審の手続に関与することができなくなる等、裁判官に関するルールも定められました。
⑶ 以上のような点は、えん罪被害者の方々の救済という再審制度の趣旨から見て、「改正」といえるものであると思います。
えん罪被害者、そのご親族及び支援者の方々等のこれまでのご尽力が実を結んだものであることは確かであり、深い敬意を表します。
5 改定再審法の問題点
他方、今回の改定再審法には、以下のような問題点や不十分な点が存在します。
⑴ 証拠の提出命令について
① 今回設けられた提出命令の対象は、「再審の請求の理由」に関連すると認められる証拠のみです。
したがって、たとえば、再審の請求の理由を補充する証拠などは対象外ということになります。
よって、これまで明確な規定が存在しないながらも運用によって認められることがあった証拠開示の範囲よりも却って狭まるおそれもあるといえます。
② また、検察官が保管する証拠の一覧表を再審請求人や弁護人に提供する制度が設けられませんでした。
えん罪被害者の方々等の再審請求人や弁護人は、この証拠の一覧表の提示を受けなければ、そもそも、検察官がどんな証拠を持っているのかを把握することができず、適切な証拠提出命令を求めることは難しいと言わざるを得ません。その結果、開示されるべき証拠に漏れが生じたり、開示が円滑になされない等、えん罪被害者の方々の救済が進まなくなるおそれがあります。
③ さらに、開示された証拠の複製等を再審の手続以外に使用することが禁じられました(違反すると1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)。
袴田事件においては、証拠開示された(血痕が付いた衣類の)写真を見て疑問を感じた一般の方の指摘等もきっかけとなって、再審無罪に繋がりました。
上記のような証拠の利用制限が設けられると、少なくとも、えん罪被害者や弁護人が、支援者の方々等に対して証拠を開示することを萎縮するようになってしまいます。
このようなことになれば、支援者の方々が証拠を検討して問題点を指摘したり、意見を述べるような機会が著しく制限されることになりかねません。
⑵ 検察官の不服申立について
検察官の不服申立は原則できなくなりましたが、「(再審開始)決定が取り消されるべきものと認めるに足りる十分な根拠」がある場合は、不服申し立てができることになりました。
しかも、法務省の担当者の説明によれば、「この規定は検察官が遵守すべき行為規範であって、裁判所による判断事項とする趣旨ではない」、つまり、十分な根拠がない場合は不服申し立てしないというのは検察官の努力義務に過ぎないということです。
これまでのえん罪事件における検察官の対応からすれば、検察官が今までと変わりなく、再審開始決定に対して不服申し立てを繰り返すおそれがあります。
⑶ また、再審の進め方に関するルールもまだまだ不十分と言わざるを得ません。
⑷ その他にも、裁判所の事前調査により、再審の方式に則っていない等の場合に、実質的な審判(裁判所における事実の取調べ)を開始せずに棄却する、簡単に言えば門前払いとする制度が設けられたり、再審の対象となった刑事裁判に関与した裁判官(4⑵③参照)のみならず、再審開始決定をした裁判官も排除される等、問題があると思われる規定も新設されました。
6 以上のように、今回の再審法の改定については、一定の進歩は見られるものの、えん罪被害者の方々の救済という観点から見て、極めて不十分、さらには、逆に後退したというべきものも含まれています。
今回の再審法の改定にあたり、施行後5年ごとに見直すことも定められました。したがって、まだまだ、えん罪被害者の方々の救済に真に資する再審法を実現するチャンスは十分にあると考えます。
私も自分が携わっている事件や関わっている団体等を通じて、これを実現するためにできることを一歩ずつ積み重ねていきたいと思います。
この記事の担当者

- 依頼者や相談者の方々から良く「話しやすい」と言っていただくことがあります。今後も、依頼者や相談者の方々のお話にじっくりと耳を傾けることができる弁護士であり続けたいと思っております。
ブログ更新履歴
- 2026年10月26日スタッフブログ再審法の改定~「改正」点と問題点
- 2025年10月9日法律・法改正法律講座 不動産登記法改正と戸籍広域交付制度
- 2025年5月23日その他弁護士業務と生成AI
- 2024年9月13日スタッフブログ年金減額処分取消訴訟事件上告審判決
































