スタッフブログ

交通事故に遭ったら
被害者として知っておきたい初歩的Q&A


弁護士 松本篤周


今回は、自動車を運転していて,信号で停車中に追突され、むち打ち症になった被害者の対応について見てみましょう。

Q 事故直後、警察に届けるべきかどうか


A 相手方が,自己の責任を認め、住所や氏名などを裏付ける資料(免許証など)を提示している場合でも、賠償保険によって支払ってもらうためには、警察の事故証明書が必要となりますので、警察に届けることが必要です。加害者から「自腹で支払うから,警察へ届けないでもらえないか。」などと言われても、本当に最後まで賠償に応じてもらえる保証はないので,必ず警察に届けましょう。

Q 物損事故か人身事故か


 事故直後は、体に異常がなかったので、警察には,自分の自動車の損傷だけの物損事故として届けてしまったのですが、3,4日してからむち打ち症の症状が出てきました。賠償保険で治療費なども対応してもらえますか?


A まず、事故により体調に違和感があるような場合は迷わず人身事故として警察に届けることをおすすめします。事故直後には、警察や加害者から「物損にしておいてください。」などといわれることがありますが、これは警察が手間を省きたいとか,加害者が違反の点数がつくのを避けたいという動機の場合が多いので、上記のように言われても少しでも体調に違和感があったら、臆することなく人身で届けることをおすすめします。
 事故証明書が物損で受け付けられている場合は、人身事故としての補償が受けらなかったり、後に事故態様でもめたりした場合の裏付け資料にすることが出来なくなったりするからです。
 なお、最初に体の不調がなかったために物損で届けたとしても、その後身体症状が出来てきたら,その後に人身に切り替えることも可能です。その場合は、主治医に診断書を書いてもらって,警察に届け人身事故への切り替えをしてもらうことをおすすめします。

Q 治療費の内払いの打ち切りについて


 事故から3ヶ月位したら、まだしびれや頭痛などの症状があり、通院しているにもかかわらず、それまで治療費を立て替え払いしてくれていた保険会社から「追突事故の程度から見て、そろそろ事故による傷害は治る時期だと考えられるので、治療費の立て替え払いは打ち切ります。」と言ってきました。一体どうしたら良いのでしょうか?


A 保険会社の対応は、被害者への対応として問題があります。ただ、事故後の賠償保険会社の治療費の支払は、あくまでも最終示談が成立するまでの立替払いという性質の支払であり、最終的な治療の必要な時期の認定は、最終的な示談成立の時点で合意するか、あるいはそこでも争いになれば、裁判を提起して、医療記録や主治医などの証言などを踏まえて裁判所が判断することになります。従って、保険会社が一方的に「治療費の立て替え払いを打ち切る」と言っても、それは内払いの停止に過ぎず、必ずしも実際に打ち切り時点以降の治療費の支払い義務がなくなることを意味する物ではありません。従って、その時点で、治療の必要性について争っても実益が少ないため、取り敢えず自分の健康保険を使って,一部自己負担をして治療を受け、最終的に,主治医とも相談し、自覚症状も踏まえた上で、事故による傷害について「症状固定」となった段階で、いつの時期までの治療が必要かについて,交渉し(場合によっては裁判により)決着することになります。

Q 「症状固定」というのはどういうことですか?


 分かりやすく言うと、原則として「治癒」(完全に治ること)ですが、完全には治らない場合でも、それ以上治療を続けても良くならない(逆に治療を打ち切ってもそれ以上症状が悪化しない)ことを言います。
 そして、完全に治らないが、それ以上治療を続けても効果がない状態になったときに、体にある程度永続して残る症状について、その程度が基準に当てはめて一定以上の症状があると認められたときは「後遺障害がある」ということになり、その障害の程度に応じて賠償を求めることが出来ることになります。
Q後遺障害はどういう場合に認められるのでしょうか?


 後遺障害が認定されるかどうかについては、主治医にお願いして「後遺障害認定診断書」を作成してもらい、この診断書を保険会社を通じて自賠責後遺障害認定審査会に提出し、さらに主治医の協力も得て、カルテやレントゲン写真やMRIなどの資料も提出して,後遺障害に該当するかどうかの事前認定を受けることが必要です。この認定について、後遺障害があると考えているのに認定外とされたり、認定されたとしても自分が考えている認定の等級よりも低いと考える場合は、認定に対する異議申立をすることが出来ます。また異議申立をしても認められない場合には、正式に裁判を起こして、主治医の証言や場合によっては裁判所の選任した鑑定人による医学鑑定を経て判断がなされることになりますが、裁判を起こして主張が認められるかどうかについては、必ず認められるという保証はありませんので、主治医や弁護士とよく相談することが必要になります。 

Q 賠償保険の保険会社と賠償額の交渉をするときに,弁護士に依頼した方が良いのでしょうか。


 保険会社は、被害者が本人だけで交渉する場合は、自賠責保険(いわゆる強制保険)の支払基準によって賠償額を計算して,提示することが通例です。自賠責保険は、全ての自動車保有者が強制的に入らなければいけない保険ですが、必ずしも裁判で認められる賠償額の全てをカバーする内容にはなっていません。その理由は、強制的に入らない保険であるため保険料は一定の低額に抑えられており、そのために賠償額も必要最小限に抑えられているためです。従って、自賠責保険によって支払われても、裁判基準による金額に届かない場合は、その差額は加害者が自己負担しなければならないのです。このためほとんどの自動車保有者は、自賠責保険だけではなく、裁判基準で賠償を支払う保険を,任意で契約しているのです。そうでなければ、莫大な金額の賠償を自分の資産から支払わなくてはならなくなるからです。
 しかし、任意保険会社は、少しでも支払額を少なくして経営効率を上げたいという動機から、自賠責保険と任意保険の違いを理解していない一般の被害者に対して、「基準によればこの額になります。」と説明して,自賠責保険の低い水準の額を提示して、これを信じた被害者に,自賠責保険水準の額で示談させてしまうのです。しかし、弁護士が被害者の代理人になった場合は、保険会社はこのような「誤魔化し」は通用しませんから、裁判基準による賠償額に応じることになります。この場合の自賠責保険との差額は、怪我の程度によっては、2,3倍の違いになり、死亡事故などでは数百万から1000万円を超える違いになることもまれではありません。
 従って、交通事故の被害者となって加害者側の任意保険会社の担当者と交渉する場合は、弁護士に代理人になることを依頼するか,少なくとも示談の合意をする前に弁護士に相談することが必須と言って良いと思います。万が一、本件会社の担当者などから「弁護士に相談しても同じ額、とか,弁護士に頼んだら莫大な報酬を取られる。」というような趣旨のことを言われたら、少なくともそれが本当なのかについてだけでも弁護士にご相談されることをおすすめします。保険会社としては、会社の支払を減らして利益を上げるためにも,なるべく弁護士には相談して欲しくないと考えていると思われるからです。


以上

この記事の担当者

松本 篤周
松本 篤周
弁護士法人 名古屋法律事務所 所長。
目指す弁護士像
・依頼者の立場に立ち、その利益を最大限に実現するとともに、実質的な満足が得られるよう依頼者とのコミュニケーションをはかり、スキルを常に磨く努力すること
・特に大企業や行政の壁にぶつかって苦しんでいる人のために、ともに手を携えて壁を打ち破る取り組みに全力を尽くすこと

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