企業の労働問題

CBCラジオ「北野誠のズバリサタデー」に出演~非正規雇用労働者の雇止めについて答えてきました~

弁護士 樽井直樹

東北大学が、契約期間を決めて働いている教員、職員を、再来年(2018年)4月以降順次雇止めにしていくということが報道されました(2016年7月25日朝日新聞など)。その数は、なんと3200人にのぼるとされています。
この問題が7月30日のCBCラジオ「北野誠のズバリサタデー」という番組の「ズバリ聞きたい」というコーナーで取り上げられ、電話出演しました。
そこで、当日の説明を再現してみました(一部補充した部分があります)。

 

Q 「雇止め」って何のこと?
A 雇止めというのは、契約期間を決めて働いている労働者の契約が終了してしまうことをいいます。
「働く」ということは、労働者と使用者との間で、労働契約を結んで、賃金や労働時間について取り決めをしていることが前提となります。取り決める内容(労働条件)の一つに契約期間があります。正社員は契約期間を定めずに、定年まで働き続けることを前提としています。一方、3カ月とか1年といった契約期間を定める場合、有期契約労働者といいます。パートタイマー、期間工、契約社員や準社員と呼ばれている人のほとんどが契約期間の定めがある労働者で,非正規雇用労働者ともいわれます。
契約期間の定めがあるかどうかで、使用者が一方的に労働契約を解消する、つまり労働者から見たら「クビになる」場合の取扱いが変わってきます。
労働契約期間の定めがない正社員が定年前に使用者から労働契約を解消される(クビになる)ことを「解雇」といいます。解雇は自由にできるわけではなく、労働契約法という法律で、「客観的で合理的な理由がない場合」には無効になるとされています(16条)。
労働契約期間の定めのある労働者の契約を終了させるのが雇止めなのですが、雇止めには2つの場合があります。一つは、契約期間中に使用者が労働契約を解消すること。この場合は、「やむを得ない理由」がなければならないとされていて(労働契約法17条1項)、正社員の解雇の場合よりも厳しいといわれています。
もう一つは、契約期間が満了して契約が終了する場合です。一般に「雇止め」はこの場合を指します。

 

Q 「雇止め」について法律は規制をしているの?
A 契約期間が終わるので契約がなくなるのは当たり前と思われるかもしれませんが、有期契約が繰り返し更新され、長い間、同じ職場で、有期契約労働者として働き続けている人もいます。このような方々にとっては、今まで繰り返し更新されていた契約が打ち切られてしまうことは、正社員の人が解雇されることと同じような不利益があります。そこで、雇用が継続する正当な期待がある場合には、解雇の場合と同じように、客観的で合理的な理由がない雇止めは無効とされるということが2012年に法律(労働契約法19条)でも明記されました。
もう一つは、有期労働契約を2回以上更新した通算期間が5年を超えた労働者が、現在の契約期間が満了するまでの間期間の定めのない契約を締結したいと申し込んだら、使用者はこれを承諾したものとみなされる、つまり有期契約から無期契約に転換するという制度があります(労働契約法18条)。この制度は平成25年(2013年)4月1日以降に契約期間の初日がある契約に適用されます。無期転換が認められると、契約期間がなくなりますから、契約期間が満了したら契約してもらえなくなるんじゃないかという心配はなくなり、その分、雇用は安定します。

 

Q 東北大学で大量の雇止めがなされるという報道があったが
A 東北大学には全学で3200名の期間の定めがある非正規の教職員がいるそうですが、2018年(平成30年)春以降、順次雇止めにするという通告がされたということです。先ほど紹介したように、5年以上契約が更新された場合の無期転換が2018年4月以降に認められることになります。東北大学は、この無期転換の適用を免れるために、5年を迎える前に雇止めにする、ということをしようとしているようです。
しかし、無期転換をしても賃金などの労働条件は今までと同一とされていますから人件費が今までより増えるわけでもなく、一律に雇止めにするのは雇用の安定を図るという制度の目的に反することから、大きな批判がわき起こっています。

 

Q 非正規労働者の保護を強めれば、かえって雇止めを誘発してしまうのでは?
A 東北大学のケースを見ればそのように感じてしまうかもしれません。
しかし、本来、非正規労働者を使うのは、会社の側に一時的・臨時的な必要がある場合に有期雇用労働者を雇うという形をとるべきで、会社にとって必要不可欠な仕事を契約期間を定めた労働者にさせるというのは本末転倒なのです。会社にとって必要不可欠な仕事をどんどん有期雇用労働者にゆだねることが増え、現在では非正規雇用労働者が全体の4割、若い人の中では5割を超えるようになってしまいました。
非正規雇用労働者は、正社員に比べて賃金が低いこと、そして雇止めにあいやすいといった不安定な状態におかれています。このような状況を改善しなければならないというのは政府もいっていることなのです。

 

Q 雇止めを避けることはできるの?
A 大切なことは、理不尽な雇止めを受け入れるべきではないということです。
契約をこれ以上更新しないといわれたときには、その理由は何かということを尋ねましょう。できれば書面で雇止め(更新拒絶)の理由を明らかにさせるべきです(労働基準法22条1項)。
気をつけるべきなのは、「今回で最後の更新です、次回は更新しませんということを契約書に記載し、この書面に署名押印しなければ更新しない」といわれたときの対応です。雇止めされることを承諾したような書面を作成されることになってしまいます。このような書面には簡単に署名押印しないようにしましょう。
雇止めを受けそうになったら弁護士や労働組合などの労働相談に相談してみることをおすすめします。東海3県では東海労働弁護団が毎週1回電話で無料相談を受け付けています。「東海労働弁護団」で検索してみてください。

 

というわけで、最後は私も所属している東海労働弁護団の宣伝をさせてもらいました。
北野さんをはじめパーソナリティーの方々とは直接打ち合わせをしないままインタビューを受けたのですが、北野さんは本当に普通の会話を楽しむように自然に質問をしてくれ、素直に答えることができました。
安倍内閣は8月の内閣改造で「働き方改革担当相」なるものを設置して、雇用制度改革を実現しようとしているようですが、本当に働く者のためになる改革が実現できるのか、非正規労働者の拡大に歯止めをかけ、非正規労働者の権利が強められるかどうかが一つの鍵になると思います。

この記事の担当者

樽井 直樹
樽井 直樹
弁護士は、様々な相談事やトラブルを抱えた方に、法的な観点からアドバイスを行い、またその方の利益をまもるために代理人として行動します。私は、まず法律相談活動が弁護士として最も重要な活動であると考えています。不安に思っていたことが、相談を通じて解消し、安心した顔で帰られる姿を見ると、ほっとします。
また、民事事件、刑事事件など様々な事件を通じて、依頼者の立場に立って、利益を実現することに努力します。同時に、弁護士としての個々の事件を通じて、社会的に弱い立場にある方の利益を守ったり、社会的少数者の人権を擁護することを重視しています。
そのような観点から、弁護士会や法律家団体などでの活動にも取り組んでいます。

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