裁判制度

裁判でかかった弁護士費用を相手に請求できるか

1 制度の原則はどうなっているの?

 裁判を起こすときには、弁護士に着手金と成功報酬(両者をあわせて弁護士費用といいます)を支払わなければなりません。

 裁判を起こさなければならない羽目になったのは、相手のせいなのだから、弁護士費用も相手に請求したい、という気持ちは自然なものでしょう。

 しかし、今の制度では、原則として(例外については後で述べます)自分の頼んだ弁護士の費用は自分で払いますが、裁判に負けても相手方の弁護士の費用まで負担しなければならないということはありません。

 ただ、かつて、弁護士費用を敗訴者が負担するという制度を導入することが検討されたことがあります。

 

2 「敗訴者負担」が妥当でないのはなぜか

 2001年6月12日の司法制度改革審議会意見書で、「勝訴しても弁護士報酬(註:私の文章の「弁護士費用」と同じ意味です)を相手方から回収できないため訴訟を回避せざるを得なかった当事者にも、その負担の公平化を図って訴訟を利用しやすくする見地から、一定の要件の下に弁護士報酬の一部を訴訟に必要な費用と認めて敗訴者に負担させることができる制度を導入すべきである」とされました。

 しかし、この制度は一見いいように見えますが、裁判を起こして勝ったときは良いとしても負けたときには、自分の弁護士費用だけでなく相手の弁護士費用まで支払わされることになります。

 裁判は必ず勝てるという保証はありません。たとえ自分の主張が真実でも証拠が不十分であったりして、心ならずも敗訴することもないとは言えないのです。

 そうすると裁判を起こすときに、万が一負けた場合を考えて、裁判を起こすことをためらうことになりかねないのです。特に一般庶民が大きな会社や行政を訴えるときに、特に訴訟額が大きな場合などは、万が一負けると相手方の莫大な弁護士費用を負担することを考えると、とても訴訟に踏み切れないということになるでしょう。これでは、本来「裁判を起こしやすくするため」に考えた制度が、逆に裁判を起こしにくくなってしまう、ということになり大きな矛盾に突き当たります。このような問題もあって、結局この制度は見送られることになったのです。

 

3 弁護士費用を請求できる例外とは?

(1)不法行為による損害賠償を請求する場合

 さて、最初に書いたように、相手の弁護士費用までは負担しなくてもよいという原則には例外があります。

 その一つは、不法行為による損害賠償請求訴訟です。不法行為とは、交通事故や公害のように契約関係の無い当事者において、一方が違法なこと(例えば、暴力を振るって相手に怪我をさせたり、自動車を運転していて不注意により人をはねたり、工場を操業するに当たって、十分な対策をせずに汚染をまき散らして住民に健康被害をおよぼすなど)によって相手に損害を生じさせることです。この場合、加害者の違法行為によって損害を被った被害者は、加害者に対して賠償することを請求できます。

 この訴訟で勝訴した被害者は、自分の弁護士に支払う費用について、「不法行為によって賠償を求めようとしたが、相手が応じないのでやむなく裁判に訴えざるを得なくなった。しかし素人だけで裁判を進めることは無理だから、やむなく弁護士に依頼して費用を支払わざるを得なくなったのだから、その弁護士費用自体も、不法行為によって被った損害に含まれる」という理屈で、勝訴した被害者については、敗訴者である加害者に被害者の弁護士費用を請求できるというのが判例の考え方です。ですから、逆に被害者が敗訴して請求が認められなかったからと言って、加害者側の弁護士費用を支払う、ということはありません。その意味では審議会意見書の「弁護士費用敗訴者負担」の制度とは異なります。

(2)労働災害で安全配慮義務違反を主張する場合

 近時もう一つの例外が認められる判決がでました。

 これまでご説明したように、弁護士費用を被告に負担させることが出来るのは、不法行為による損害賠償請求訴訟だけですから、例えばお金を貸したのに返さないとか、仕事を頼んだのにやってくれなかったというような債務不履行(契約関係にある相手方が、約束に反すること)による損害賠償については、勝訴しても弁護士費用は請求できませんでした。

 ところが、労働災害によって労働者が健康被害を被った場合に、使用者に対して安全配慮義務違反(労働契約の義務として使用者は労働者を安全に働かせる義務《債務》があるところ、これに違反した《これは債務不履行責任といわれます》)による損害賠償については、不法行為と同じ理屈で使用者側に労働者の弁護士費用を負担させるという最高裁判決が現れたのです。

 「労働者が,就労中の事故等につき,使用者に対し,その安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償を請求する場合には,不法行為に基づく損害賠償を請求する場合と同様,その労働者において,具体的事案に応じ,損害の発生及びその額のみならず,使用者の安全配慮義務の内容を特定し,かつ,義務違反に該当する事実を主張立証する責任を負うのであって,労働者が主張立証すべき事実は,不法行為に基づく損害賠償を請求する場合とほとんど変わるところがない。そうすると,労働者が,使用者の安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償を請求するため訴えを提起することを余儀なくされ,訴訟追行を弁護士に委任した場合には,その弁護士費用は,事案の難易,請求額,認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り,上記安全配慮義務違反と相当因果関係に立つ損害というべきである。」(2012年 2月24日最高裁第二小法廷判決)

 このように、交通事故などの不法行為訴訟だけではなく、労働災害で使用者に対して債務不履行を理由として民事賠償を求める訴訟でも、使用者側に対して労働者側の弁護士費用を請求できることになったのです。

 なお、請求できる弁護士費用は概ね判決で認められた額の10%程度が多いようです。

(3)気をつけるべき点は?

 また、注意点としては、交通事故でも労災でも、訴訟を起こす前に、まず直接相手方に対して口頭か書面で賠償を支払うよう請求することが必要です。弁護士に頼んだとしても、訴訟を起こす前に内容証明郵便などで任意に支払うよう請求することでも良いと思います。

 なぜかと言うと、「自分だけで、相手に賠償を求めたが相手が応じないので、弁護士に頼まざるを得なかった。」ということが、弁護士費用が損害に含まれる要件になっているからです。詳しくは弁護士に相談してみましょう。

弁護士 松本篤周

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