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緊急事態条項ってなに??のりちゃんのノリノリ憲法!
のりちゃん…世界平和を願いながら日々法律を勉強しているけど、解らないことだらけ。 MEGANE…某弁護士。

1回目は憲法で人権を保障するってどういうことかという話、2回目は憲法9条について考えてみたね。3回目の今回は、自民党などが提案する憲法改正案にある「緊急事態条項」について考えてみよう。

うん! それで、「緊急事態条項」ってなあに?

一言で言うと、戦争や災害などの危機に際して、独裁的な権限を政府に与えるものなんだ。国会で議論する時間的な余裕はないから、政府の独断で、人権を制限するような政令も出せるようにするんだよ。

最近は災害が多いから「緊急事態条項」は必要なんじゃないの?

災害などの際の対応としては、災害対策基本法とかいろんな法律が整備されてるんだ。だから、そもそも、どうして憲法に緊急事態条項を入れる必要があるのか極めて疑問なんだ。

それじゃ、 テロとか起きたときの法律は?

それも法律があるよ。ただ、その法律は人権を制約しすぎるとかいろいろ問題があるので、日弁連などは、見直しをしなければ いけないと言っているんだけどね。

じゃあ、新型コロナ対策で、日本では憲法に緊急事態条項がなくて、欧米のようにロックダウンみたいな強力な措置ができなかったから対応が後手後手だったっていう意見は?

それも大きな誤解、というか緊急事態条項を入れる口実なんだ。感染症対策として必要があれば、やはり感染対策特別措置法などの法律を整備して、強力な措置を取ることができるんだけど、政府は法律整備を一向にやろうとしていない。

え! そうなの!?

新型コロナ対策が後手後手になったのは、まさに政府に本気で取り組む気がなかったこと、能力が無かったことが原因で、「憲法の不備」など全く関係が無いんだ。

そういえば、災害とかずっと前からあったことなのに、今の憲法に最初から緊急事態条項みたいな条文がないのはどうしてなのかな?

これまたするどい指摘だね。実は、明治時代につくられた大日本帝国憲法には、緊急事態条項があったんだ。議会閉会中に緊急の必要がある場合は、天皇が法律に代わるものとして命令を出す「緊急勅令」(8条)や、行政権や司法権の一部を軍隊に移す「戒厳」(14条)、戦争や事変の際に天皇が国民の権利を制限できるとした「非常大権」(31条)などがそうなんだよ。

昔はあったんだ!なんでなくなったの?

「緊急勅令」は、政府によって便利に使われ、国民を戦争に動員していくうえで大きな役割を果たしたんだ。たとえば1928年、国会に「治安維持法」の改正案が提出され、審議未了で廃案となったんだけど、当時の内閣は、「緊急勅令」を使ってこれを強引に成立させてしまったんだ。

えー。戦争のために使われてたの?

そう。その結果、治安維持法の最高刑が死刑に引き上げられたほか、規制対象も広がり、言論の自由や思想信条の自由などを弾圧する強力な手段として使われるようになってしまったんだよ。

自由を奪うため、か。


この法律が廃止されたのは日本の敗戦後、連合国軍総司令部(GHQ)の指令によってなんだ。現行憲法に緊急事態条項がないのは、このように、過去に濫用されてしまった反省を踏まえてのことなんだよ。

そうなんだ。全然知らなかった。今の憲法を決めたときには、緊急事態条項についての議論はなかったの?

実は議論はあったんだよ。新しい憲法について議論していた1946年7月の国会で、こんな質問がされたんだ。
――戦争はもうないかもしれないが、国内で事変が起きた場合は国民の権利を停止することが必要ではないか。新憲法にも大日本帝国憲法にあったような規定を盛り込むべきではないか――。

それで政府はどう答えたの?

これに対して、憲法担当だった金森徳次郎国務大臣は「民主政治を徹底させて国民の権利を十分擁護するためには、政府の一存で処置を行うことは極力防止しなければならない。その道を残しておくと、どんなに精緻な憲法を定めても、言葉を『非常』ということに借りて、それを口実に(憲法が保障する権利や自由が)破壞されるおそれが絶無とは断言しがたい」という趣旨の説明をしたんだ。

それで、緊急事態条項という条文は憲法に入らなかったのね。

そうなんだ。でも、日本側は当初、緊急事態条項に強いこだわりをみせていたんだ。GHQは新憲法草案をつくるにあたって、日本側の提案を却下して緊急事態条項に関連する条項をすべて削除したんだけど、日本側は諦めず、緊急の場合に内閣に「閣令」を制定する権限を与える案を盛り込んで提出したんだ。

ふむふむ。


GHQはこれも受け入れなかったんだけど、「そのかわりとして」緊急の必要がある場合は参議院の緊急集会を開いて対応するという整理をして決着したんだよ。それが憲法54条2項の参議院の緊急集会という制度なんだよ。

そうなんだ。ちゃんと緊急の場合に手当が出来るように考えられてはいたのね。

そのとおり。緊急の場合の手当はされているんだから、これに加えて緊急事態条項を作ってしまうと政府の暴走と人権侵害の危険がすごく大きくなる恐れが大きいんだ。

今の憲法に緊急事態条項がないことの背景や、歴史の教訓も踏まえて慎重に考えないといけないね。

そうだね。おっと!韓国大統領が非常戒厳を発令し国会の取消決議、市民の抵抗の中、撤回したというニュースが入ってきた。緊急事態条項の危険がよく分かるね。今回はここまで。国会議員の任期延長も話したかったけど、次回にしよう。

次回も楽しみ!!