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事業活動総合保険って,どういう保険?会社のピンハネにご用心
事業活動総合保険を使った従業員への補償とは?
会社が,従業員の通勤途中や業務上の災害(例えば,通勤途上に交通事故に遭って怪我をした,業務中に足場から転落して怪我をしたり,死亡した)に備えて,労災保険とは別に,その従業員への補償を目的とする内容を含む「事業活動総合保険」契約をしているケースがあります。その保険料は,税金の申告の際,企業の福利厚生費などとして経費として計上することが出来ます。
そして,この事業活動総合保険(従業員への補償)は,保険で定めた事由(通勤途中や業務上の災害)が従業員に発生したときに,従業員に対して直接保険給付金が支払われるのではなく,企業が従業員(従業員が死亡した場合は遺族)に補償金を支払い,その後に補償金相当額の保険給付金を企業が保険会社から受け取るという仕組みになっています。
企業は,従業員に補償金を支払ったということで従業員に領収書を書かせ,その領収書を保険会社に提出して保険給付金を受け取ることになります。もっとも,実態としては先に補償金に関する領収証を従業員に書かせておいて,保険会社から企業に保険給付金全額が支払われ,その後に従業員に対して保険給付金全額の補償金を支払うケースがあります。
なお,保険の内容については保険契約によって変わるため,全ての「事業活動総合保険」がこのような内容となっているわけではありません。
事業活動総合保険を悪用するケース
企業の中には,この事業活動総合保険(従業員への補償)の仕組みを悪用して,保険事由が発生して保険金を受領しても,従業員に対する補償金を全額支払わず,例えば保険給付金の半分を企業が取ってしまって,残りの保険給付金を従業員への補償金に充てるというやり方をする企業があります。場合によっては保険給付金を全額取り上げようとする企業もあります。つまり,従業員が受け取れる補償金相当の保険給付金を企業がピンハネするということです。
従業員も,社長から「会社が保険料を支払っているのだから,半分は会社にもらう。」などと言われると逆らえずに,「半分でももらえるなら良いかと」承諾してしまうこともままあるようです。
しかし,これは保険契約の本来の趣旨に反した違法なやり方であって,もしも判明した場合は,保険会社としては,保険契約を解除して,保険給付金の返還を企業に求める必要があります。ところが,保険会社も,営業で企業から保険料を支払ってもらっているので,見て見ぬふりとまではいかないとしても,従業員に本当に受け取ったか確認したりすることもなく,趣旨通り運用されているかを厳密に追及していないのが実情です。
また企業が従業員への補償金の支払に充てずに保険給付金を受け取ると,従業員のための福利厚生のための支出との事実に反する結果となり,保険料の支払いが経費としては否認されることになりますので,修正申告しなければ脱税の問題も生じます(多くの場合は修正などしていないと思われます)。
会社のピンハネを許さない
現に,私が依頼を受けて会社と交渉したケースでも,会社側が従業員に対して「保険給付金の半分をよこせ。」と要求したため,勇気ある従業員が断ったところ,「それなら補償金を払わない。」と言われ,相談に来られたケースでした。
私は,会社に対して,「契約の趣旨からいって,会社が受け取った保険給付金全額を従業員への補償金として支払うべきだ。」と通知したところ,その会社の社長は,「それなら今回の事故については,事故扱いせず,保険会社に保険給付金を全額返金する。」という回答をしてきました。
このため,私は保険会社に対して質問状を送付し「こういうことが許されるのか。」と問いただしました。保険会社の回答は,顧問弁護士と相談した結果として「保険事由に該当するか否かの判断は,会社と従業員との関係なので,保険会社としては意見を言う立場ではない。」という木で鼻をくくったようなふざけた回答でした。これでは会社が「半分会社に支払わうことに同意しなければ,全額支払わないぞ。」として,従業員に「全然もらえないよりはいいか。」という気分にさせて同意させる手段を正面から認めることになってしまいます。
これはあまりに理不尽で,保険会社の社会的責任に照らしても問題だと思いました。そこで私は,改めて,保険会社のホームページでその保険契約をパンフレットを調べてみました。そうすると,契約の条件として,従業員に対する補償に関して災害補償規程を制定していることが条件になっていることが分かりました。
なるほど,そうであれば,会社が災害補償規定にある補償金の支払事由に該当するかどうかを勝手に判断することは許されず,客観的に災害補償規程にある補償金の支払事由に該当すれば,原則として,補償金の支払義務が会社に発生することになります。そのため,従業員への補償金支払のために「保険を使うかどうか」は会社側の自由(保険を使って補償金を支払うか,保険を使わないで補償金を支払うかは自由)であるとしても,補償規定による「従業員への補償金の支払」は会社が勝手に決めることが出来るわけではなく,災害補償規程における支払拒否事由など客観的な根拠なしに,従業員への補償金の支払いを会社が拒否することはできません。
そして災害補償規定の内容は会社との契約にあたって保険会社に提出されていたはずですが,保険会社の回答は,その点については敢えて避けていたようです。
そこで,私は,再度会社に対して,下記の内容証明郵便を送りつけました。
「 事業活動総合保険○○○○(以下「本件保険契約」と言います。)によれば,契約にあたっては,被保険者(事業者)が社内において災害補償規程を制定していることが前提条件とされています。これは,本件保険契約の趣旨が,被保険者が,従業員が業務上発生した事故等によって傷害を負った場合に,これを補償する制度をもうけていることを前提に,それによって従業員に補償金を支払う原資を保険によって填補するところにあるからです。従って,貴社が従業員に補償金を支払った後で,それに相当する金額を填補するために保険金の請求をするかしないかは貴社の自由であるとしても,貴社における災害補償規程によって従業員に補償金を支払う義務自体は発生していると考えます。」
これに対する会社からの回答がないので,次に保険会社に対しても下記の内容証明を送付しました。
「貴社に対し,会社が貴社との間で本件保険契約を締結するに際して,貴社に対して提出されている災害補償規程について,その内容を明らかにして頂くとともに,その文書の写しを当職宛てに送付頂きますようお願い致します。」
すると,それからしばらくして,会社からも保険会社からも回答が来ないうちに,社長から従業員に対して直接「降参する。手続きをやり直して保険金(補償金全額)は支払う。」と言ってきました。おそらく保険会社から社長に対して,何とかして貰わないと困る,というような連絡が入ったのではないかと思われます。
このように補償金全額の支払を会社に認めさせたのは,ご本人があきらめずに頑張ったことと,私も粘って調べて考えて,会社と保険会社にしつこく追及し続けたことが勝因だと思います。
類似の件がありましたら,会社のピンハネに対して簡単に応じたりすることなく,まずは当事務所までご相談下さい。
この記事の担当者
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弁護士法人 名古屋法律事務所 所長。
目指す弁護士像
・依頼者の立場に立ち、その利益を最大限に実現するとともに、実質的な満足が得られるよう依頼者とのコミュニケーションをはかり、スキルを常に磨く努力すること
・特に大企業や行政の壁にぶつかって苦しんでいる人のために、ともに手を携えて壁を打ち破る取り組みに全力を尽くすこと
ブログ更新履歴
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- 2022年11月29日スタッフブログ交通事故に遭ったら
被害者として知っておきたい初歩的Q&A - 2021年3月31日スタッフブログQ 不貞行為と婚姻費用支払義務
- 2020年6月25日スタッフブログ「死後離縁」とは