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大垣警察市民監視事件と共謀罪

1.大垣警察市民監視事件とは?

2017年5月21日(日)、私が支部長を務めている日本国民救援会中村支部の支部大会に参加してきました。
国民救援会は、1928年に創立された国内でもっとも長い歴史をもつ人権団体であり、日本国憲法と世界人権宣言を羅針盤に、冤罪事件、労働事件などを通じて、様々な人権侵害と闘ってきた団体です。
昨年5月22日に名古屋市中村区に国民救援会の支部である「中村支部」が誕生しましたが、今回は、その中村支部の第2回目の支部大会でした。

支部大会に先だって、当事務所の樽井直樹弁護士による「大垣警察市民監視事件」についての講演が行われました。
「大垣警察市民監視事件」とは、次のような事件です。
2005年頃から、岐阜県大垣市上石津町と不破郡関ヶ原町に連なる山の尾根に巨大な風力発電施設の建設計画が進められていました。
地元の住民の方々は、環境破壊や風力発電によって発生する低周波による健康被害などについて不安を感じ、勉強会を行っていました。
すると、大垣警察署が、勉強会を開いた地元住民2人と脱原発活動や平和活動をしていた大垣市民2人の「氏名」、「学歴」、「職歴」、「病歴」などの個人情報、地域の様々な運動の中心的役割を担っている法律事務所に関する情報を事業者に提供していたことが発覚しました。
警察は、市民の情報を収集し、事業者に個人情報を提供することが、治安維持の観点から必要であり、このようなことは通常の警察業務なのだと主張しています。
その後、個人情報を提供された住民の方々が原告となって、大垣警察署員の行為の違憲性、違法性を問う国家賠償請求訴訟を提起し、現在も裁判が続いています。樽井弁護士は、この訴訟の原告代理人を務めています。

2.「共謀罪」の危険性

ところで、現在(2017年5月27日現在)、国会において、いわゆる共謀罪(「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」の改定案)の審議が行われています。
共謀罪は、刑法に規定された犯罪の結果を発生させる現実的な危険性を有する行為(「実行行為」といいます。)はもちろん、そのような現実的な危険性を有する行為の着手までに至らない、軽度の危険性を有する準備行為(「予備行為」といいます。)ですらない「計画」を犯罪として処罰しようとするものです。
このような「計画」が行われていることは、外からは見えにくいものです。
したがって、捜査機関が、このような「計画」を取り締まるためには、これまで以上に、盗聴・おとり捜査などを用いて、捜査機関が「危険」と考える人物や団体を日常的に監視することが必要になると思われます。
なお、共謀罪として処罰するためには、犯罪の「計画」に基づいた「準備行為」を行ったことが必要とされています。しかし、この「準備行為」は、上記の「予備行為」とは異なり、軽度の危険性すらない、極めて日常的な行為も含まれます。たとえば、ATMで預金を引き出す行為などです。このような行為が、何ら犯罪とは関係のない日常的な行為として行われたのか、それとも、犯罪の「計画」に基づいてなされたのかを判断するためには、結局のところ、目に見えにくい「計画」の存在、及び、その内容を明らかにする必要があります。したがって、「計画」に加えて、「準備行為」を行ったことが必要だとしても、そのことによって、捜査機関による日常的な監視がなされる危険性を減少させるものではないと考えられます。

3.共謀罪成立により監視社会が到来する

実は、このようなことは、共謀罪が成立していない現在においても行われています。
皆さんもお気づきだと思いますが、まさに、前に述べた「大垣警察市民監視事件」は、捜査機関が「危険」と考える人物や団体を日常的に監視していたことが問題となった事件です。
このように、共謀罪が成立していない現在においても、捜査機関による「通常の業務」として、一般の市民を監視する行為が行われているのですから、共謀罪が成立した場合には、さらなる監視社会が到来することは、ほぼ確実だといえるでしょう。

4.共謀罪に反対の声を上げよう

「大垣警察市民監視事件」の講演においては、この事件の当事者であり、訴訟の原告の一人でもある方(真宗大谷派の住職をなされている方です。)にもお話いただきました。
そのお話の中の「仏教において、監視され、管理され、主体性を奪われたあり方を『畜生』といいます。」という言葉がとても印象に残っています。
この国が、国民に対して「畜生」の生き方を強要するような国にならないよう、「畜生」の生き方を強要するような内容の法案に対しては、最後まで反対の声を上げ続けなければならないと思っています。
私が所属する愛知県弁護士会も共謀罪の制定に反対しています。
2017年5月27日(土)には、愛知県弁護士会が主催する共謀罪廃案を求める集会・パレードに参加しました。
このように、出来ることから一歩ずつやって行きたいと思います。

この記事の担当者

松本 篤周
松本 篤周
弁護士法人 名古屋法律事務所 所長。
目指す弁護士像
・依頼者の立場に立ち、その利益を最大限に実現するとともに、実質的な満足が得られるよう依頼者とのコミュニケーションをはかり、スキルを常に磨く努力すること
・特に大企業や行政の壁にぶつかって苦しんでいる人のために、ともに手を携えて壁を打ち破る取り組みに全力を尽くすこと

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