不動産

借家のトラブルQ&A(1)

今回は,これだけは知っておきたい借家の基本的知識をご紹介します。

1 賃料の増額・減額について

Question

3年間の契約でビルの2階のフロアーを借りて1000万円かけて内装をして営業してきました。大家さんが毎年家賃の増額を言ってくるのですが,経営上,経費の見通しが立たなくなってしまいます。応じなければならないのでしょうか?

Answer

大家さんの一方的な請求にはに応じる必要はありません。借家関係には,民法のほかに借地借家法という法律が適用されることになっていて,社会的に弱い立場にある借家人の権利が保護されています。

借地借家法では,客観的な経済情勢などから,値上げが必要な状態であると認められた場合に初めて家賃の値上げに応じる義務が生じる,とされています。

増額を請求されたら,すぐに応じることはせず,前回の値上げからどのくらいの期間が経過しているか,その間の土地の価格の上昇がどうだったか,近隣の家賃相場などを調べてみて,値上げが必要な状況かどうか考えてみます。その結果まだ値上げの時期ではないと思えば断りましょう。

断ったところ,大家から「これまでの家賃額を受け取ると,値上げしないことを認めることになるから受けとらない」と言われても,家賃の支払いを止めてはいけません。家賃の不払いを理由に賃貸借契約を解除されてしまうからです。その場合は法務局に家賃を供託するという方法があります。

大家さんがどうしても値上げしたければ,まず裁判所に家賃増額の調停を申し立てて話し合いをすることが必要です。そこでも話し合いがまとまらなければ,家賃増額の裁判を起こし,不動産鑑定士による鑑定によって相当な賃料額を算定し,それを参考に裁判官が判決を下すことになります。裁判の途中で和解になることもあります。

一方で,経済情勢(地価の下落など)によっては逆に,賃借人の側から賃料減額を請求することも出来ます。その段取りは,増額と同じです。まずは,地価の状況などを調べて,値下げが相当だと考えられる場合は,大家さんと話し合ってみましょう。

借地借家法
(借賃増減請求権)
第32条
1 建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
2 建物の借賃の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。
3 建物の借賃の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた建物の借賃の額を超えるときは、その超過額に年一割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。

2 更新拒絶について

Question

「家賃の増額に応じません」と答えたところ,「それなら期間が満了したら,更新しませんから出ていって下さい」と言われました。どうしたら良いのでしょうか?

Answer

①期間が満了したらどうなるか?

まず,借地借家法第26条では「建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の1年前から6月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。」とされており,更新しないという通知がない限り、自動的に更新され,更新された後は,期間の定めがない契約になります。

②「更新しない」と言われたらどうなるか?

これも心配ご無用です。借地借家法では,中途解約は勿論,更新拒絶についても「正当事由」がなければ認められないことになっています。この点でも借家人の権利が保護されているのです。

ですから「更新をしないから出て行ってくれ」と言われても,それに応じて出ていく必要はありません。

大家がどうしても出ていって欲しければ,明け渡しの裁判をしなければならないのですが,それもどうしても大家が自分で建物を使用しなければならないとか,相当な立ち退き料を提供するなどの正当事由がなければ認められないのです。

借地借家法
(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
第28条
建物の賃貸人による第26条第1項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。

今回はここまでです。次回以降に,「更新料」問題や立ち退きの際の「敷金から修繕代を差し引く」問題などについて,順番にご紹介していく予定です。

弁護士 松本篤周

この記事の担当者

松本 篤周
松本 篤周
弁護士法人 名古屋法律事務所 所長。
目指す弁護士像
・依頼者の立場に立ち、その利益を最大限に実現するとともに、実質的な満足が得られるよう依頼者とのコミュニケーションをはかり、スキルを常に磨く努力すること
・特に大企業や行政の壁にぶつかって苦しんでいる人のために、ともに手を携えて壁を打ち破る取り組みに全力を尽くすこと

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