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【法律コラム-2】他社にノウハウを盗用された!(不正競争防止法)
<事 例>
中小企業のA社は、あるとき画期的なリサイクルシステムを開発に成功した。
A社が、業界紙にその成果を報告したところ、それを製造販売しようと、大手のB社から問い合わせを受けた。B社は、上手くいけば今後大量に買い付けるから、試しに1台だけシステムを導入させて欲しいとA社に申し出て、これを喜んだA社は早速1台販売導入した。B社は、システムを導入するに際しては、A社から製品の仕組みや販売方法などのノウハウを懇切丁寧に指導させた。こうして、B社はA社の技術上や営業販売上のノウハウを取得した。
その後、B社は、やおら何らかの理由をつけて、以後の取引については無かった話にして欲しいとA社に申し向け、それと同時に、B社の下請け業者に同様のシステムの製作をさせて、独自に大量に製造販売しようとしている。
<Q.1>
競業他社に営業上のノウハウや技術上のノウハウをまねされた場合、法律上どのような問題が生じるでしょうか?
<A.1>
このような行為は、「不法行為」として民法上の損害賠償責任を負う可能性があります。
さらに、「不正競争行為」として不正競争防止法上の責任を負う可能性があります。
<解説1>
不正競争防止法とは、比内鶏偽装事件やウナギ偽装事件などの刑事事件において、「産地偽装行為」を禁じている法律として、新聞紙上を賑わせている法律ですが、実際には、その他にも「商品等主体混同行為」、「著名表示不正使用行為」、「商品形態模倣行為」、「営業秘密の不正利用行為」等の、多くの類型の不正な競争行為を禁じる法律として、昭和9年に制定されたものです。
本問のように、他社から示されたノウハウを競業の目的で利用する行為は、「営業秘密の不正利用行為」のうちの、「営業秘密を保有する事業者からその営業秘密を示された場合において、不正の競業その他の不正の利益を得る目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為」(法2条1項7号)に該当する可能性があります。
<Q.2>
このような事態に、どのように対処すれば良いでしょうか?
<A.2>
(1)民法上は、損害が発生した場合に、損害賠償の請求をすることが可能です。
(2)不正競争防止法上は、損害賠償の請求に加えて、侵害行為の差止を求めることができ、また、損害額の推定規定の適用を受けることが出来ます。
(3)態様が悪質な場合には刑事責任(10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金又はこれらの併科)が生じますので、告訴等を検討します。
<解説2>
まず、損害が発生した場合には、損害賠償責任を問うことが考えられます。
ただ、民法上の請求では、そもそも侵害行為の差止を求めることはできず、また、損害額の推定規定も規定されていませんので、不正競争防止法上の請求が有利な場面があります。不正競争防止法上は侵害行為の差止請求権が規定されていますので(法3条1項)、相手方の侵害行為自体を止めにかかります。
通常は、損害賠償請求と同時に差止訴訟を提起し、緊急性を要する場合には、侵害行為の差止の仮処分を求めることとなります。
<Q.3>
このような事態を未然に防止するには、どうすればよいでしょうか?
<A.3>
事前の対策方法として、以下のものが考えられます
(1)初期の販売契約締結の際、秘密保持条項や競業避止条項を締結しておく
(2)技術上営業上のノウハウを、特許権や実用新案権や意匠権や著作権等の対象にしておくことで予め保護しておく
<解説3>
(1)契約締結時の対応
ノウハウを提供する先の会社との間で、初期の段階で、秘密保持義務、競業避止義務を負わせておくことが考えられます。これによって、あたかも技術上や営業上のノウハウが、特許権や実用新案権や意匠権や著作権等により保護されているのと同様の効果が期待できます。
(2)特許制度等の利用
技術に関するアイディアであれば特許発明や実用新案としての保護、デザインについては意匠法による保護、標識については商標が利用できますので、これらの制度を上手く組み合わせて、あらかじめ権利設定をしておくことが可能です。これらの制度の利用は、保護期間に制限があったり、登録の為の費用が発生しますが、登録することで権利行使が容易になります。
以上、詳しくは、事務所にてご相談していただければと思います。
2009年8月31日 名古屋法律事務所 弁護士 尾崎夏樹