深夜に連続して住居侵入を繰り返し強姦や強姦致傷7件・窃盗12件を犯したとされた被告人A、別れ話に逆上して交際中の美人女子大生をナイフで約100カ所刺して殺したとされた被告人B。こんな被告人は許せない、被害者の人権も考慮すれば当然重罰に処すべきだとの思いを抱く皆さんも多いでしょう。 しかし、単純にそう言い切れるのでしょうか。 被告人の真の更生には・・ 一見おとなしそうな印象で定職をもち婚約者もいるAから語られる動機が私にはどうも納得できない。そこで、適正な量刑判断のためにも、また何よりA自身の将来の更生のためにも、法規定にはないがいわゆる情状鑑定(責任能力の有無を判断するための鑑定とは異なる)として、本件ではAの人格上の問題点・心理学社会学等の観点からみた犯行原因・再犯防止策・量刑処遇上の留意点の鑑定を求めたところ、幸い2名の家庭裁判所調査官による鑑定が実施され36頁の鑑定書がまとまりました。これによると、自己本位で離婚・ギャンブルを繰り返す父、家族から愛情を受けて育つことがなかった劣悪な養育環境がAの精神的未熟さをもたらした点が原因であるとし、内面の課題で混乱したAが安定を求めて逸脱して空き巣へ走ってしまった。 回避が曖昧だった結果深い葛藤 そして、物では得られない安心感を女性を衝動欲求のまま支配する方法で得ようとして強姦してしまった旨分析されています。果たしてこの分析が100〇パーセント信頼しうるかはともかくとして、少なくとも検察官主張のような単純な動機ではないことが専門家の判断により否定され、判決でも考慮されたことは事実です。A自身、「調査官と何度も話すうちに内心のもやもやがすっきりし整理されてきた」と私に述べ、法廷で初めて養父が実の父であることを父の証言で聞かされて涙し、懲役11年の判決にも素直に服し、更生して婚約者の気持ちに応えたいという最終接見での姿をみて、私はAの将来の更生を確信できた 思いがしました。 少年時代に適切な働きかけさえあれば・・・ また、Bは一貫して殺意を否定していました。本件の解明には複雑な心理状況とBの人格障害の有無の分析が不可欠であると判断し、Aと同様に情状鑑定を申請しましたが残念ながら却下。しかし、前歴の少年事件記録の取寄は決定されました。これによると、2歳から気管支喘息で公害認定患者障害3級であり、母子家庭で孤独に育つなど生育歴が劣悪であること、少年当時から人格障害的側面は指摘されていたこと等が明らかになりました。判決結果は懲役13年。少年事件当時周囲がもっと適切な働きかけをしていれば、今回のような悲劇はおこらなかったのではないかと考えると悔やまれるとともに、私たち弁護士も含めた司法関係者の責任を改めて再認識させられました。 最後に、マスコミ報道のあり方について一言。Bに関して、週刊現代やフライデー等一部マスコミが興味本位で十分な裏付け取材をしたとは到底思えない報道をしました。これにより、Bやその家族に回復し難い名誉毀損を与えただけでなく、裁判官にも予断を全く与えなかったといえるか疑問が残ります。被疑者・被告人の実名報道の是非も含めて、犯罪報道のあり方について考えさせられました。 今こそみんなで考えよう! A・Bともに逮捕当時は偶然にも23歳。いずれも未熟な少年といった実感が残った事件、社会的に注目された神戸での少年非行事件ともあわせて、皆さん刑事・少年事件について一度ゆっくり考えてみてはどうでしょうか。 (弁護士 海道宏実) |