ある交通事故のてん末

弁護士 加藤美代

 日曜の午後。雨の名神高速道路。前方の路側帯に何台か停車し、次々に車がスピードを落として行きます。Aさんは、『事故だ』と、前方車に続いて停車すべく運転している普通乗用自動車のスピードを流れに合わせて落としていきました。と、そこに後ろから大型貨物自動車が追突し、次々と車を巻き込んで炎上させていきました。悲惨にも、Aさんは、炎上する車の中で焼死してしまいました。

事故の原因
 複数の交通事故が同時に起こった場合、事故の加害者は誰か、事故の原因は何なのかが、まず問題となります。Aさんの場合は三つの交通事故が重なっていました。
 第一事故は、普通乗用車が中央分離帯に衝突し、高速道路に停止した事故。
 第二事故は、第一事故を認めて減速した普通乗用車に、後続の大型貨物自動車が追突し、さらに中央分離帯に衝突して横転し、高速道路をふさいだ事故。
 第三事故は、第一事故、第二事故によって、停車した車両に続いて停車しようとしたAさんの普通乗用車に、大型貨物自動車が追突し、停車していた車八台を巻き込んで炎上させた事故。

因果関係
 刑事事件では、第一事故と第二事故は不起訴となり、第三事故だけ起訴となりました。しかし、刑事事件では不起訴となっても、民事事件は別です。民事訴訟の結果、第二事故だけでなく、第一事故と第二事故の加害者にもAさんに対する因果関係が認められ、損害賠償責任が認められました。Aさんの死について、三人の加害者が連帯して損害賠償責任を負うことになりました。つまり、Aさんの遺族は、三人の誰に対しても損害賠償全額を請求できることになり、被害の救済はより確実になりました。

損害賠償
 ところで、損害賠償には逸失利益というものがあります。Aさんは、年若い公務員でした。もし交通事故に遭うことがなければ、これから毎年俸給表に従って俸給も上がり、賞与も支給されます。その上、定年になれば、退職金も支給されます。さらに、退職後は再就職するのが普通です。そこで、Aさんは、死亡時の収入を基礎とすることなく、将来の収入を考慮して逸失利益が算定されました。
 遺族にとって損害賠償をいくらもらっても悲しみが癒えるものではありません。でも、訴訟の結果、将来の収入が考慮されまた、事故の民事責任が明らかになったことも遺族の慰撫になったと思います。
 交通事故事件に出会うたびに人の一生をあがなうことの難しさを思います。