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ノーモア・ヒバクシャ訴訟で最高裁判所の弁論が開かれました

弁護士 樽井 直樹

1 原爆症を巡る裁判


 私が、広島・長崎の原爆被爆者が、被爆者援護法に基づいて原爆症認定を求める裁判に関わって19年近くがたとうとしています。
2003年から2010年まで取り組んだ原爆症認定集団訴訟は、全国で306名の被爆者が裁判を提起し、279名が原爆症と認定されるという、行政訴訟としては例を見ない勝訴率で、被爆者が勝利しました。集団訴訟で敗訴が続く中、第1次安倍内閣によって、認定基準の見直しが指示され、厚生労働省は従来の認定基準であった「審査の方針」を廃止し、「新しい審査の方針」を作成しました。
 しかし、新しい審査の方針の下でも、本来原爆症と認定されるべき被爆者の申請を却下する処分が相次いでいることから、全国5つの地方裁判所で、ノーモア・ヒバクシャ訴訟が闘われてきました。

2 名古屋でのノーモア・ヒバクシャ訴訟


 名古屋でも、2011年に4名の被爆者が訴訟を提起しました。
 1審判決を前にした2016年8月に、弁護団会議に行った広島での出来事について、私も本ブログで紹介したこともありました。

被爆71周年を迎えた広島で

 1審の名古屋地裁では2名の方が原爆症と認められましたが、2名は敗訴しました(名古屋地方裁判所平成28年9月14日判決)。
名古屋高等裁判所では、私たちの主張が認められ、1審で敗訴した2人の被爆者も原爆症と認められる判決を勝ち取ることができました(名古屋高等裁判所平成30年3月9日判決)。

3 国が最高裁に上告受理を申し立て


 ところが、国は、2名のうち1人について、最高裁判所に上告受理を申し立てたのです。原爆症の認定には、被爆者が原爆の放射線被曝が原因で病気にかかっていること(放射線起因性)と現に医療を要する状態にあること(要医療性)の2つの要件が必要とされているのですが、国は、積極的な医療行為をともなわない経過観察にとどまる場合には要医療性があるとはいえないとして、慢性甲状腺炎を発症しているが、投薬をともなわない経過観察を受けている被爆者について、要医療性は認められないのだと主張して、最高裁に上告受理を申し立てたのです。同じ頃、広島高裁でも、白内障を患い経過観察を受けていた被爆者に要医療性を認めた判決があり、国はこの事件についても上告受理を申し立てていました。
ところが、昨年4月には、福岡高裁で、白内障を患い経過観察を受けていた被爆者に要医療性を否定した判決が出され、被爆者側から上告受理を申し立てていました。

4 最高裁判所が上告を受理し、弁論が開かれる


 最高裁判所は、この3つの事件について上告を受理し、1月21日に弁論が開かれました。
 最高裁判所が弁論を開くのは、原判決の結論を見直す場合だと言われます。しかし、今回は少し違います。
 最高裁判所は、法律審といって法律問題について判断を下す役割を負っています。法律などが憲法に適合しているかどうかを判断する違憲立法審査権(憲法81条)を行使するほか、最高裁判所は、「法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件」について上告を受理することができるとされています。本件では、被爆者援護法10条1項の要医療性の解釈について、高等裁判所レベルで食い違う判断がなされていることから、最高裁判所として統一した解釈を示す必要があると判断したものと思われます。
なお、争点などについては、この事案についての最高裁判所の広報を参照にしてください。
原爆症認定申請却下処分取消請求事件について(最高裁判所広報)

 原爆症については、2000年に松谷訴訟最高裁判決が出されたことがありますが、弁論が開かれるのは今回が初めてです。被爆者が、初めて、最高裁の場で、被爆について発言をする機会を持つことになりました。

5 最高裁での弁論


 1月21日の弁論当日には、寒い中、高齢をおして、多くの被爆者が傍聴に駆けつけました。抽選に当たった人も、外れた人も、最高裁に入る名古屋と広島の原告である被爆者と弁護団に力強い励ましを与えてくださいました。
 1時30分に開廷。3つの事件について、それぞれ、上告受理申立書、上告受理理由書、答弁書の陳述が確認された後、口頭陳述が始まりました。
 まずは国側から10分間の陳述がありました。
 続いて被爆者から30分の陳述がありました。
 まずは、名古屋の原告の高井さん。(高井さんの陳述)
 続いて、広島の原告の内藤さん。(内藤さんの陳述)
 その後は代理人の意見陳述です。
 トップバッターは名古屋の私が、本件にとっても松谷訴訟最高裁判決が重要な先例としての意味を持つことを弁論。(私の意見陳述)
 次に、広島の佐々木弁護士。原爆投下時、31キロ離れた自宅できのこ雲を見た体験から、原爆被害の実相に目を向けることの大切さを語りました。(佐々木弁護士の意見陳述)
 そして、長崎の原弁護士。要医療性の解釈について述べ、国の主張を批判しました。(原弁護士の意見陳述)
 最後は、ノーモア・ヒバクシャ訴訟の全国弁護団の団長である藤原弁護士。最高裁判決への期待を述べました。(藤原弁護士の意見陳述)

6 判決は2月25日


 その後、裁判長から判決日の指定がなされ、閉廷しました。
 判決は、2020年2月25日午後3時に言い渡されることになりました。判決については、またご報告したいと思います。

この記事の担当者

樽井 直樹
樽井 直樹
弁護士は、様々な相談事やトラブルを抱えた方に、法的な観点からアドバイスを行い、またその方の利益をまもるために代理人として行動します。私は、まず法律相談活動が弁護士として最も重要な活動であると考えています。不安に思っていたことが、相談を通じて解消し、安心した顔で帰られる姿を見ると、ほっとします。
また、民事事件、刑事事件など様々な事件を通じて、依頼者の立場に立って、利益を実現することに努力します。同時に、弁護士としての個々の事件を通じて、社会的に弱い立場にある方の利益を守ったり、社会的少数者の人権を擁護することを重視しています。
そのような観点から、弁護士会や法律家団体などでの活動にも取り組んでいます。

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