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年金減額処分取消訴訟事件

弁護士 酒井 寛

1 「年金の他に2000万円の老後資金が必要」!?

 少し前の話になりますが、今年の6月に金融庁審議会の市場ワーキンググループが、「高齢社会における資産形成・管理」と題する報告書の中で「老後の資金は年金だけでは足りず、夫婦で2000万円が必要」という見解を発表しました。
 これまで、自公政権は年金制度について「100年安心」と言い続けていました。しかし、今になって、いきなり「2000万円不足する」と言われたら、皆、大変困惑するのではないでしょうか。

2 年金制度改悪による年金額の減額は憲法違反

 年金制度は、これまで、行く度にもわたって改悪(減額)され続けています。私は、そのうちの、「平成24年に制定された年金の減額」が憲法に違反すると主張する「年金額減額処分取消訴訟」の弁護団に所属しています。この訴訟は、平成27年5月29日に全国の1000人を超える年金受給者の方によって提訴され、現在、愛知県だけでも400名近くの年金受給者の方が原告として訴訟に参加しています。

3 「年金額減額処分取消訴訟」で主張する年金制度改悪の内容

 この訴訟の内容について、少し詳しく説明いたします。日本では、昭和48年以降、公的年金の支給額について「物価スライド制」が採られています。たとえば、物価が1%上がれば年金も1%あがる、物価が1%下がれば年金も1%下がることになります。
 ところで、平成11年から13年にかけて物価が下落しましたが、国は、景気対策のために特例法を制定し、年金の減額を行いませんでした。しかし、国は、平成24年にいわゆる「社会保障と税の一体改革」による年金関連4法案を成立させ、その中で、「平成11年から13年までの間に物価が下落したにも関わらず年金額を据え置いたことによって、本来の水準よりも年金額が2.5%高くなっている(特例水準)」として、物価の増減による年金額の増減に加えて、平成25年10月、平成26年4月にそれぞれ1%、平成27年4月に0.5%、年金支給額を減額することを定めました。一旦は、年金を減額しないとしておきながら、それから10年以上も後になって突然、そのときに据え置いた減額分を下げることになったのです。
 この点、現在の基礎年金は、全期間加入し保険料を納めても、月額約6万5000円にすぎません。厚生年金を加えても生活保護の生活扶助基準額にも満たない方が大勢います。それにもかかわらず、「特例水準の解消」を理由にして、物価の増減によるものに加えて、年金を減額することは、もともと「健康で文化的な最低限度の生活」以下の年金額をさらに減額することになり、憲法25条に違反します。
 また、最高裁判所の判例によれば、年金受給者の「財産権」である「年金受給権」を合理的な理由もないのに減額することは、憲法29条にも違反します。さらに、年金額は、老後の生活設計に大きく関わるものであること等から、不合理な年金の減額は、個人の尊厳と幸福追求権を定めた憲法13条にも違反します。
 この訴訟は、相次ぐ年金の減額が憲法に違反することを明らかにするとともに、「最低保障年金制度」の導入など、人間らしい老後の生活保障にふさわしい公的年金制度の確立、ひいては、社会保障制度全体の改善の必要性を広く国民に訴えることを目的としています。

4 国は年金以外に多額の生活費が不足することを知っていた!

 この訴訟において、国は、年金を減額する目的が「将来にわたって年金の給付水準を確保する」という重要なものであるから、憲法に違反しないと主張し続けていました。
 しかし、冒頭で述べた通り、国は、現在の年金制度が、年金だけでは、老後の生活を営むための資金として2000万円も不足するような制度であることを分かっていたのですから、「将来世代の年金水準を確保」する気など全くなかったことは明らかです。

5 裁判はいよいよ証人尋問(本人尋問)へ

 愛知県の年金減額処分取消訴訟は、いよいよ、証人尋問(原告本人に対しては「本人質問」)の準備を行う段階に来ています。証人尋問(本人質問)においては、とりわけ、低年金のために苦しい生活を余儀なくされている年金受給者の方々の生の声を裁判所に届けたいと考えております。
 証人尋問の準備として、200名を超える年金受給者の方々に、自分の生活実態を文章にした「陳述書」という書面を作成して貰い、これを裁判所に提出しました。この「陳述書」を見ると、年金の減額に加えて、介護保険料や医療費等の負担がどんどん大きくなっていることから、もはや、生活が成り立たないと感じている人がたくさんいることが良く分かります。もう、交通費を払うこともできないことから、知人の結婚式や葬式、墓参りにも行くことができない等という方もいらっしゃいました。
 これ以上の年金減額が許されないということはもちろん、このような生活を強いられるような年金制度はただちに変えていかなくてはなりません。

6 「健康で文化的な最低限度の生活」を保証する年金制度の確立を

 私たちは、この訴訟で是非とも勝利し、年金改悪の流れを断ち切り、国に対して、最低限の生活を営めるだけの金額の年金を支給することを保障する制度(最低保障年金制度)を導入させ、絶対に「年金の他に2000万円が必要」などという老後を強いるような社会にしてはならないと考えております。
 この訴訟に勝利するためには、法廷において主張を繰り広げるだけでは足りず、世論の後押しが必要です。
 そこで、皆様におきましても、これ以上の年金制度の改悪を認めず、かつ、年金制度を改善していくべきだという世論を盛り上げていただきますよう、どうか宜しくお願いいたします。

この記事の担当者

酒井 寛
酒井 寛
依頼者や相談者の方々から良く「話しやすい」と言っていただくことがあります。今後も、依頼者や相談者の方々のお話にじっくりと耳を傾けることができる弁護士であり続けたいと思っております。

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