スタッフブログ

有期労働契約の期間中の解雇

弁護士 樽井直樹

地位確認等請求労働審判事件

 ~労働契約法17条の「やむを得ない事由」が争われた事案~

事案の概要

1 1年契約のフルタイム労働者として勤務

 X(申立人)は、24時間体制で業務を行っている公的機関(以下「委託機関という」)において給食業務に従事している調理師の資格を有する労働者である。委託機関では、給食業務を外部の業者に1年契約で委託しており、1年ごとに受託業者が入れ替わっている。Xをはじめ、給食業務に従事している労働者は、受託業者に雇用される形で、長年にわたって、委託機関の給食業務に従事しているという実態があった(委託機関も受託業者に対し、受託にあたって、給食業務に従事している労働者を引きつづき雇用すること及び労働条件については維持することを要請していた)。

 Xは、14年4月からパートタイマーとしてこの給食業務に従事するようになり、順次、受託業者に雇用され、17年4月からは受託業者のW社で1年契約のフルタイム労働者として勤務してきた。

2 長時間労働の改善を会社側に求める

 Y(相手方)は、18年2月ころ、委託機関から、18年4月から1年間、給食業務を受託することとなった。Yは、17年度の受託業者であるW社に雇用されているXらの労働者を引きつづき雇用して業務に従事させることを予定していたし、Xら労働者の多くも新年度の受託業者であるYに雇用され、従前の業務に従事することを希望していた。ところで、委託機関は給食業務を受託した事業者に対し現場責任者、副現場責任者を常駐させる体制を取ることを求めていた。そこで、Yは、従来からのYの正社員であり部長の地位にあったAを現場責任者とするとともに、委託機関の給食業務に数年以上従事してきたBを副責任者とすることとした。しかし、Bは、従前、同僚との間でトラブルを起こしたことがあり、一部の労働者からは、「Bが副責任者(実質的には現場を指揮する立場)になるのであれば、新年度は働かない」という意向が示されていた。そのためXが職場の労働者を代表してYに対して、早く契約書を交付することや、新規募集を開始することを申し入れる立場に立つことになった。

 Y社は、18年4月から委託機関において給食業務を開始したが、引きつづき就労することを希望する労働者に対して契約書や労働条件通知書を交付することもなく就労させる一方、一定数の労働者が継続して就労することを拒んだにもかかわらず、新規募集に手を付けないままであった。そのため、18年4月以降、恒常的な長時間労働が発生することになった。

 委託機関での給食業務の勤務時間は、従来から朝が午前4時から8時30分、昼が9時から13時30分、夜が14時30分から19時で、労働者はシフトとして指定される日及び勤務時間帯に出勤していた。ところが、18年4月以降は、Xは連日、朝、昼、夜の勤務が指定され、休日も4月から7月までの間に5日間与えられただけである。このような中、XはYの代表者などに電話をかけ、人員の補充、せめて休日を付与するように求め、経営者に実態を把握することを強く求めるなどした。なお、Yは7月になって労働条件通知書を労働者に交付したが、それまで時給で計算されていた給与が月給制とされるなど、実態と乖離したものであり、Xはじめ労働者から不満が出されていた。

3 突然の解雇通知

 Yは、18年7月、Xに対し即時解雇することを伝えた。解雇通知書には解雇理由として「再三の会社からの注意・指導にもかかわらず、会社からの業務命令に従わない、勤務時間中に無断で職場を離れる、会社からの指示と違ったことを他の従業員に流布する、職場環境の規律を乱すなどの行為を繰り返した」と記載されていた。

4 労働審判を提起

 Xは、労働組合を通じてYと交渉を開始しようとしていた矢先、Yから損害賠償請求訴訟を提起されたが、請求金額は「1円」で、嫌がらせとしか考えられないものだった。このため、Xは別訴については請求の棄却を求めつつ、紛争の全面的早期解決を求めて、①有期労働契約の期間中の解雇であり労働契約法17条の「やむを得ない事由」がないとして、地位確認と解雇以降の賃金の支払い、②4月から解雇までの未払時間外割増賃金の支払いを求めて労働審判を提起した。

【審理の経過】

1 労働審判委員会の調停案

 解雇理由とされた「勤務時間中に無断で職場を離れる」といったものは、子供の学校行事や通院などのため一時的に職場を離脱したことを指しているが、同僚には説明をしており、タイムカードにも離脱を記載しているというものであった。そのほかのYの解雇理由も具体性がなく、BがXに対する悪意ある報告をAやY代表者に行い、それを鵜呑みにしているようなものであった。時間外割増賃金については、使用者として把握している労働時間に基づいた主張を何ら行わない状態であった。

 労働審判委員会は、第1回審尋期日において、解雇は無効といわざるを得ないこと、当該給食業務における労務管理が異常な状態に陥っていることを前提に、「YがXに解決金を支払うことで退職合意をするとともに、Yが提起した別訴を取り下げることで事件を全面的に解決する」という調停案を示した。

2 会社側は受諾を拒否

 Xは、第2回期日前に調停案を受諾すること表明した。しかし、Yは、別訴において更にXの問題点を主張し、請求を拡張する準備書面を提出し、労働審判にも資料として提出した。

 第2回期日において、審判委員会は、調停案を維持するとともに、Xに対して異例のことと断った上で、別訴におけるYの主張への反論を次回までに行うことを求めた。

3 請求をほぼ認容する審判

 これを受けて、Xは、Yの主張が事実に反することを丁寧に主張する書面を提出して、第3回期日に臨んだ。Yは調停案を受諾しないことに固執、審判に対しても異議を申し立てると言明した。

 そこで、審判委員会は、Xの請求をほぼ認容する(残業代請求について一部棄却)審判を下した。

【コメント】

 事案としては、乱暴な解雇であり、また職場の労務管理を確立できない状況にあったことが比較的明確な事案であった。

 特筆すべきことは、審判委員会が、本件が有期契約であり、また職場の人的な関係が背景にあることなどから、審判手続での解決を追求し、審判を出す場合であっても異議を回避するための努力をしたことである。第2回期日において、XにYへの反論を求めたのも「Yが調停案を受諾しない可能性が高いが、事件の早期の解決のためには労働審判手続での解決が望ましい。しかし、この期日で審判を出しても異議がだされることは確実である。次回期日までにYに再考の機会を与えたい。その検討材料として、Yの主張に対するXの反論があることが望ましいと考える」ということであった。

 最終的にはXの請求がほぼ認容される審判が出されたのであるが、審判手続での解決を最後まで模索した事例として紹介することとした。

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