スタッフブログ

建築基準法の日影規制とは

弁護士 松本篤周

 ある日突然、建築業者が依頼者様の自宅を訪ねてきました。自宅南側の土地に低層マンションあるいは3階建ての住宅が新築されることになった、という挨拶です。担当者はこう言います。「ある程度の日影はできますが、法律に適合していますので、建てることに問題はありません。」あたかも『法律にあった建物だから、何も文句は言えないよ。』と言わんばかりです。

 よく話を聞くと、冬至の頃には、自宅の1階も2階も、日中ほとんど太陽の光が当たらなくなってしまいます。それまで周辺は空き地か平屋建てで、日当たりが良いのが自慢の家だったのに、なんということか!

 市役所の建築指導課に行っても、「建築基準法には違反していませんので。」の一点張りです。いろいろな伝手をたどって、我が法律事務所へ相談に来られたときには、依頼者様は絶望のどん底でした。

 さて本当になんともならないのか?そんなことはありません。

1.建築基準法に違反しなければ、いくら日影ができても適法?

 彼らが言っている法律とは、建築基準法の日影規制のこと。建築基準法では、建物による日影を一定程度制限して、一般的に最低限の規制をしているに過ぎません。法律というのは、建築基準法だけではありません。民法その他の様々な被害防止のシステムがあり、裁判例で日照権というものが認められています。たとえ建築基準法をクリアしても、違法とされる場合があるのです。

 彼らが言う「法律に違反していない」とは、高さ10メートル未満の建物について、正しい表現としては、『規制逃れ手法によって建築基準法が適用されないようにしている』という意味に過ぎません。これに対して、高さ10メートル以上の建物を建てようとする場合に「法律を守っている」というのは、『建築基準法の日影規制を本当の意味で実質的に守っている』という意味です。そうでなくては建築確認を受けられないので当然なのですが、この違いを意図的に混同させて、「法律は守っています」と丸め込もうとするのが、多くの業者の常套手段になっています。そして、ギリギリの規制逃れをする設計をするのが腕の良い設計士、と言われる風潮もあるようです。

2.民法709条不法行為の違法性を判断するための受忍限度論の理論

 多くは、狭い土地に3階建てを建てるために使われる手法です。(※第1種住居専用地域では、軒高7メートルを超える建物を規制しているので、脱法的方法が問題となることはほとんどありません。私が経験したのも1例だけでした。)

 建築基準法及び名古屋市中高層建築物日影規制条例(※自治体ごとに定められているので、自宅がある自治体の条例をご確認ください。)によれば、都市計画法上の第1、2種中高層住居地域、近隣商業地域、準工業地域における日影規制は、高さ10メートル以上の建物の冬至における日影について、平均地盤面からの高さにおいて、敷地境界線からの水平距離を5メートル以内に収める日影時間は5時間、同じく10メートル以内に収めるべき日影時間は3時間とされています。

 ところが、本来日影規制の対象となるべき高さ10メートルからわずか数センチ、場合によっては1センチ程度だけ低くすることによって、形式的に建築基準法の日影規制を免れ、冬至における日影が、債権者建物の南面開口部(※平均地盤面からの高さ四メートルに匹敵する)を、ほぼ一日中覆う結果となってしまうような建物を作ろうとする例が後を絶ちません。特に、3階建ての住宅やマンションが多いのですが、場合によっては4階建てのマンションでも、高さ10メートル未満に抑えて規制逃れをする例があります。

 このような建物は、確かに行政法規である建築基準法の日影規制には形式的には違反していませんので、建築確認は受けられるのですが、私法上は北側住居に与える日照阻害は受忍限度を超え、違法とされる場合が多いのです。

 なぜなら、建築基準法の日影規制は、行政法規としての形式的・一般的な規制だからです。その趣旨は、住居・準工業・近隣商業地域などにおいては、高さ10メートル未満の建物であれば、通常は高さ10メートル以上の建物よりも深刻な日照被害を及ぼすことは少ないと想定したことから、少なくとも高さ10メートル以上の建物について規制すれば、一応の日照被害の保護は可能であり、高さ10メートル未満の建物については、規模も大きくなく、大きな日照被害を発生させることは少ないのが通常であるとみて、一律に規制することはしない、というものです。逆に高さ10メートル未満の建物であれば、私法上どんな日照被害を引き起こしても許されるという趣旨ではないことは明らかです。

3.どんな建物が建築をストップできる可能性がある?

 
 そして、私法上の受忍限度範囲を判断する上で、行政法規である建築基準法の日影規制の判断基準が重要な判断基準の一つとなると解すべきではありますが、その判断に際しては、前述のような建築基準法の立法趣旨も勘案した上で判断すべきです。

 例えば、3階建ての賃貸マンションや住宅で、北側建物に深刻な日照被害を及ぼす建物であって、かつその高さも、実質的には建築基準法の日影規制の対象となる高さ10メートルに匹敵する高さとなっている場合、私法上の受忍限度を判断する上においても、少なくとも規制される地域における建築基準法の日影規制が遵守されているか否かが判断基準とされるべきで、社会通念上、常識的に考えても、高さ10メートル以上の建物について、建築基準法上日影が規制されているのに、それより高さの低い建物、しかもわずか数センチから10センチ余りに過ぎないものについて、高さ10メートルの建物と比べて、それよりも圧倒的に多大な日照被害を及ぼしても許されるなどということは、極めて非常識な事態と言わなければならないのです。

 また、3階建てでありながら、全体の高さを10メートル未満に押さえるというやり方は、かなり無理な設計であり、そこまで無理をする目的は、あえて建築基準法の日影規制を免れようとするところにあることは明らかで、債務者の日影規制を免れるという脱法的な意図は客観的に明確であるといえる場合がほとんどです。実際に私が勝ち取った名古屋地裁平成5年3月11日決定、同平成7年11月8日決定も同旨の理由を述べて、一部建築禁止の決定を出しています。

 建築禁止仮処分はスピード勝負です。建物の建築が進んでしまうと、裁判所もストップをかけることに消極的になります。
 自宅南側の土地の古い建物が取り壊された、空き地だったが何やら建物を建てるような準備をしている、建築業者が挨拶に来た、といった場合は、とにかく一刻も早く弁護士に相談することがとても大切です。

【相談無料】法律のことについて、身近に相談できる人はいますか? 名古屋法律事務所では、弁護士による無料法律相談会を毎月実施しています。詳しくはこちら

名古屋法律事務所への法律相談・お問い合わせは

名古屋駅052-451-7746 受付時間:9:00~18:00 みなと事務所052-659-7020 受付時間:月〜金 9:00~17:30

土曜日・夜間の相談ご予約OK

相談予約・お問い合わせ