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有期雇用の無期転換ルールの運用開始を控えて

弁護士 樽井直樹

 来年(2018年)4月1日から、有期雇用の無期転換ルールの運用が本格的に始まります。
 「有期雇用の無期転換ルール」といわれてもピンと来ないかもしれませんが、パートや契約社員のような契約期間が決まっている働き方(「有期雇用契約」または「有期労働契約」といいます。)をしている人も、そのような契約が一定期間継続した場合には、契約期間の定めがない契約(「無期雇用契約」または「無期労働契約」といいます。)に転換できるという制度です。この制度について、説明します。

1.労働契約法の2012年改正

 はなしは2012年にさかのぼります。
 パート、契約社員、派遣といった非正規労働者が増加する一方、非正規労働者が正規労働者に比べて相対的な賃金が低いいった不公正な労働条件の下で働いていることや、リーマンショックによる派遣切り、非正規切りによって明らかになったような雇用が不安定であることが社会問題となりました。そこで、民主党政権下の2012年に有期雇用労働者の保護に向けて、労働契約法18条、19条、20条の改正という重要な前進がありました。
 簡単に説明すると、19条で、有期労働契約の更新拒絶(雇止め)について、雇用継続の合理的な期待がある場合に解雇権濫用法理(労働契約法16条)を類推適用するという裁判を通じて形成されていたルール(判例法理)を明文化しました。
 20条は、パートタイム労働法8条と同様に、有期労働契約であることを理由とする不合理な差別を禁止するものです。この改正法施行後、長澤運輸事件やハマキョウレックス事件など、20条を根拠として重要な裁判が闘われています。
 本稿のテーマである有期労働契約の無期転換ルールを定めた18条は、有期労働契約が5年を超えて反復更新されたときに、労働者に無期転換申込権の行使を認めるというもので、12年改正法が施行された2013年4月1日以降に締結または更新された有期労働契約から適用されるため、2018年4月1日以降に5年を超える契約が発生することになります。そのため、来年4月から本格的な運用が始まることになるのです。

2.有期雇用の無期転換ルール(労働契約法18条)とは

 では、有期雇用の無期転換ルールの内容を具体的に見ていきましょう。

1)目的

 まず、有期雇用の無期転換ルール(労働契約法18条)を設けた目的は、有期労働契約が同一の労働者と使用者との間で5年を超えて反復更新された場合に、労働者の申し出により期間の定めのない労働契約に転換させることで、有期労働契約を濫用的に利用することを防止し、労働者の雇用の安定を図ることにあります。

2)無期転換のための要件

 では、どのような要件を充たせば無期転換ができるでしょうか。

A.労働者に無期転換申込権が発生すること

 まず、「同一の使用者」との間で「二以上の有期労働契約」が締結されてきたことが必要です。簡単に言うと、同じ使用者との間で、有期労働契約が1回以上は更新されたことがあるということです。
 次に、「二以上の有期労働契約」を通算した雇用期間が「5年を超えた」ことが必要です。ただし、空白期間(クーリング期間)についての複雑な規程があり、これについては後ほど見ることにします。

B.労働者が無期転換申込権を行使すること

 無期転換は自動的には発生しません。労働者が使用者に無期契約に転換したいという申込権を行使することが必要です。申込権の行使には、特に様式が定められているわけではありませんが、重要な権利に関するものですから、証拠を残しておくという趣旨で書面で行うことが望ましいと思います。
 無期転換申込権の行使は、現に締結されている有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に行使する必要があります。もっとも、有期労働契約が更新されるたびに無期転換申込権は発生すると考えられていますので、新たに更新された場合には、新たに発生した無期転換申込権を行使することができます。

3)無期転換申込権行使の効果

 無期転換申込権が行使されると、その時点での契約期間が満了した翌日から労務を提供される無期労働契約を締結することの申込みがなされたことになります。そして、無期転換申込権が行使された場合、使用者は、この無期労働契約を締結することの申込を承諾したものとみなされるため、無期労働契約が成立することになるのです。
 無期転換後の労働条件は、原則として有期労働契約中の労働条件と同一のものとなります。いわゆる正社員の就業規則が適用されるかどうかも、具体的な事情によって決まってきます。ですから、無期転換後の労働条件を向上させるためには、別途交渉などが必要になります。

4)クーリング期間

 一の有期労働契約と次の有期労働契約の間に一定の長さのクーリング期間を置けば、契約期間が通算されない(つまりリセットされる)という取扱いが認められています。
 クーリング期間は、①原則として6カ月以上ですが、②契約期間が1年未満の場合は、当該期間の2分の1(契約期間が6カ月であれば3カ月)、③②の場合でも1月未満の端数がある場合には切り上げる(契約期間が3カ月の場合は2カ月)であることが必要だとされています。

3.無期転換ルールの本格運用を控えて

 このように、無期転換ルールは非正規労働者の雇用の安定を実現するという点で画期的な制度なのですが、このような制度の運用が本格化するということについては、労働者にも使用者にもまだまだ知られていないのです。そこで、様々な機会を通じて、無期転換ルールについて周知していくことが求められます。
 一方で、無期転換ルールの運用が本格化するのを控えて、これを回避するような対応も出てきています。例えば、東京大学では非正規教職員を雇止めすることを計画しているということが報道されました(朝日新聞2017年8月24日)。同様のことは、昨年東北大学でも報道され、私もラジオ番組のインタビューに答えたことを以前この欄で紹介しました。
 無期転換ルールの適用を回避するための雇止めとして、①当初から「契約の更新は4回まで、通算4月11カ月を超えないものとする」といった規程を設けていた場合や②6カ月更新を繰り返してきたが、10月の更新にあたって「次回以降は契約更新を行わない」旨の条項が契約書に盛り込まれた、といったケースが考えられます。②のケースの場合には、合理的な労働条件の変更といえるのかが問題となりますし、①のケースでもそもそも無期転換ルールの適用を免れるためのものであればこのような規定の有効性を問題にすることも考えられます。いずれにせよ、労働組合や労働問題に詳しい弁護士に相談することが必要です。

4.まとめ

 無期転換ルールは、濫用的な有期雇用の利用を抑止し、労働者の雇用の安定を図る制度であり、積極的に活用しましょう。ただし、無期転換ルールの適用を回避するための雇止めなども起きかねず、このような経験をした場合には専門家に相談しましょう。
 そして、非正規雇用労働者の保護のためには、入り口規制の実現、均等待遇の実現などを要求し続けることが大切であると思います。

 

【労働契約法】
(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)
第十八条  同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において「通算契約期間」という。)が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。この場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。
2  当該使用者との間で締結された一の有期労働契約の契約期間が満了した日と当該使用者との間で締結されたその次の有期労働契約の契約期間の初日との間にこれらの契約期間のいずれにも含まれない期間(これらの契約期間が連続すると認められるものとして厚生労働省令で定める基準に該当する場合の当該いずれにも含まれない期間を除く。以下この項において「空白期間」という。)があり、当該空白期間が六月(当該空白期間の直前に満了した一の有期労働契約の契約期間(当該一の有期労働契約を含む二以上の有期労働契約の契約期間の間に空白期間がないときは、当該二以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間。以下この項において同じ。)が一年に満たない場合にあっては、当該一の有期労働契約の契約期間に二分の一を乗じて得た期間を基礎として厚生労働省令で定める期間)以上であるときは、当該空白期間前に満了した有期労働契約の契約期間は、通算契約期間に算入しない。

(有期労働契約の更新等)
第十九条  有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一  当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二  当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
第二十条  有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

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