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【法律コラム-1】裁判員制度における使用者と労働者

 裁判員制度が始まり、8月3日に裁判員対象事件の公判が始まり、実際に裁判員として選ばれる方が出てきました。
 そこで、ここでは、裁判員制度について書かれている通常のサイトとは異なった視点、つまり裁判員に選ばれた方が会社などに勤めていらっしゃる方の場合に、どうやって会社を休むのか、有給休暇をとるべきなのかなどの、労働者と使用者の関係について書きたいと思います。当然、会社にもかかわることでもあるので、経営者の方もお読みいただければと思います。

1.労働者が裁判員に選ばれた場合の基本
1-1 まず,裁判員としての職務は労働基準法第7条本文の「公の職務」にあたるため(※1),使用者は,労働者に対して,必要な時間(休暇等)を与える義務があります(※2)。もし必要な時間(休暇等)を与えなければ,その使用者は、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられるおそれがあり、また会社自体も30万円以下の罰金に処せられます。(※3)。
 そのため,使用者が労働者に対して,その労働者に仕事を休まれては業務に支障を来すとして,業務命令として,裁判員の辞退の申立てをするように命じることはできません。

※1昭和63年3月14日基発第150号,平成17年9月30日基発第0930006号
※2労働基準法第7条本文
※3労働基準法第119条第1号、労働基準法第121条

1-2 次に,その必要な時間(休暇等)を確保するため,使用者は裁判員休暇制度を設けることまでは義務とされていませんが、有給休暇を強制的に労働者に取らせることになる可能性があるなどの問題点もあるので、就業規則を改正するなどして裁判員休暇制度を設けることが望ましいと思われます。ただし、その休務時間を有給とするか,無給とするかについては,法律上の定めはなく,自由に決定することができます。
 ただ、休暇制度を設けるとしても、裁判員の日当は,職務に対する報酬ではなく,裁判員の職務を行うに当たって生じる損害(例えば,裁判所に来るための諸雑費や一時保育料等の出費,収入の減少など)の一部を補償するものであるため、有給とすべきという訳でもありません。
   なお,そもそも日当の具体的な額は,選任手続や審理・評議などの時間に応じて,裁判員候補者・選任予定裁判員については1日当たり8000円以内,裁判員・補充裁判員については1日当たり1万円以内で,決められます(※4)。

※4 裁判員の参加する刑事裁判に関する規則7条

1-3 また、「労働者が裁判員の職務を行うために休暇を取得したことその他裁判員、補充裁判員、選任予定裁判員若しくは裁判員候補者であること又はこれらの者であったことを理由として、解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。」と、労働者が裁判員になったことによって、会社などがその労働者を不利益に扱ってはならないことが定められています(※5)。

※5 裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」の第100条

2.疑問点と回答
Q 裁判員休暇制度を有給とした場合,賃金と日当の二重取りにならないのか?また裁判員休暇を有給とする場合,この有給の額を,使用者が本来支払うべき有給休暇手当と裁判員等が受け取る日当との差額とすることができるのか?

A 前述したとおり、裁判員の日当は,職務に対する報酬ではなく,裁判員の職務を行うに当たって生じる損害(例えば,裁判所に来るための諸雑費や一時保育料等の出費,収入の減少など)の一部を補償するものであるため,日当と賃金の二重取りにはなりません。
 また,前述のとおり,有給とするか無給とするかは使用者の自由だから,この有給の額を,使用者が本来支払うべき有給休暇手当と裁判員等が受け取る日当との差額とすることはできます。
 ただし,使用者(会社)としては、「裁判員特別休暇を取得した者に対しては,当該日について所定時間労働した場合に得られる賃金と裁判所から受領した日当との差額のみを支給する」などといった規定を就業規則ないし付属の賃金規定などに置く必要はあります。

Q 日当は所得なのか?

A
 裁判員や裁判員候補者等に支払われる日当に係る所得は,給与所得及び一時所得のいずれにもあたらないことから,裁判員等の「雑所得」として取り扱われます。したがって,裁判所では源泉徴収は行われません。
 通常の給与所得者は,この日当による雑所得の金額など各種所得金額(給与所得と退職所得を除きます。)の合計額が20万円以下の場合は所得税の確定申告を行う必要はありませんが,一定の場合は所得税の確定申告を行う必要がある場合も考えられます。

Q 旅費や宿泊費(旅費等)はどうするのか?

A 裁判員等に対して支給される旅費等については、その合計額を雑所得に係る総収入金額に算入し,実際に負担した旅費及び宿泊料、その他裁判員等が出頭するのに直接要した費用の額の合計額については、旅費等に係る雑所得の金額の計算上必要経費に算入する。
 つまり、単純にいうと、裁判所からもらったお金は、確定申告をするのであれば、すべて「雑所得」として、実際にかかった経費はその必要経費に算入するのです。

Q 裁判員に選ばれたと嘘を言って休暇を取得する場合はどうすれば良いのか?
 
A このような人が出てこないとも限りません。こういう人は、会社のみならず、同僚の方々にも迷惑な話です。
 こういう人が出ないように、使用者としては,その従業員が真実,裁判員に選任され,職務を遂行したのかを確認する必要性はあります。
 この点、申出があれば,裁判所から、裁判員候補者には,呼出状の一部に設ける出頭証明書欄に証明スタンプを押印してもらえますし、また,裁判員として職務に従事した方については,別途証明書が発行されます。
 そこで,使用者は,裁判員休暇取得後に証明書等の提出を求めることがある旨を就業規則に記載しておくべきと思われます。

Q 裁判所への出頭の途中で事故に遭った場合,それは労災なのか?

A 裁判員は,非常勤の裁判所職員であり,常勤の裁判所職員と同様に,国家公務員災害補償法の規定の適用を受けます。したがって,裁判員が,その職務を果たすため裁判所と自宅の間を行き帰りする途中で事故にあった場合,この法の規定に基づき,補償を受けることができます。また,裁判員候補者についても,裁判員と同様に補償を受けることができます。
 他方,裁判員等の職務を遂行するための必要な時間については,前述の労基法第7条により労働義務が消滅するため,使用者にとっては,労災にあたらないばかりか,その事故による入院・治療等のための休業は,前述の「公の職務」にも該当しないので,使用者としては,就業規則上は「私傷病欠勤」や「私傷病休業」として取り扱うことになります。

 以上、私が思いつくままに裁判員として労働者が会社などを休む場合のことについて書きましたが、裁判員制度の運用によって、もっともっと色々な問題が出てくることが予想されます。

以上
平成21年7月27日
弁護士 加藤 孝規

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